第十三話 似非関西
〜ここまでのあらすじ〜
峰大は萌奈香に告白するため、VRMMOでの学区ランキング1位を目指す。
萌奈香のことで落ち込む峰大は、爆殺クチャラーやガシマ店長から励まされる。
ガシマ店長の本心と向き合い、二人の間に新しい約束が出来た。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の二足歩行猫。語尾はニャ~。
◇◆◇◆◇R・Nの部屋。
「またやっちゃった……」
私はいつもこうだ。
思わず声にしてしまったけれど、甲高くて幼く聞こえる声も嫌いだ。重ね重ね嫌になる。
ゲーミングチェアの背もたれへ体を投げ出し、手もだらりとさせてぼんやりと照明を見上げる。疲れからか、いつもより背中がシートに沈みこむ。
屋外の豪雨をBGM代わりに、さっきまでのやり取りを思い返していた。
(仕方なかったよね?)
不安そうな君へ見栄を張る。本当は止めたいのに、相談されるたびに気付けば背中を押してしまう。だって、君が不安そうにしているのだから仕方がない。
私が落ち込んでいるのを察してか、ぬいぐるみを咥えて親友が駆け寄ってくる。
「ハッハッ……キューゥン」
「もう、チコったら、心配しなくても大丈夫だよ」
咥えているぬいぐるみと瓜二つな親友のチコ。
ブラシ片手においでと手を広げると、尻尾を振りながら膝に飛び乗ってくる。
トイプードルはすぐに毛玉が出来てしまうので、こまめにブラッシング。チコも慣れたもので私にされるがままだ。
「はい、終わったよチコ」
欠伸をした彼女は、ぬいぐるみを忘れてペットベッドへ戻ってしまい、途端に私は手持ち無沙汰になる。
ルームフレグランスの詰め替えパックを取り出し、香料が切れそうな瓶に補充をしつつ溜め息をつく。
何でも相談されるのは正直嬉しい。
幼馴染との恋愛相談ばかりだけれど、私のアドバイスで上手くいったときの君の喜ぶ様子や感謝の言葉。繰り返すうちに君の「ありがとう」が聞きたくなって背伸びをして、想いが募り過ぎて動けなくなった。
「あたしじゃダメかなぁ……」
君へ偉そうにアドバイスできるほどの経験は、私には無い。
幼馴染が喜びそうなことは分かるから、同性視点のアドバイスをしただけ。
壁にかけられたセーラー服を見やる。
不登校になってからは、長いこと袖を通していない。
気づけば雨が上がり、空が白み始めた。普通の学生は起床時間だろうか。
君は私を男だと思い込んでいるし、関西在住で年上の大学生だと思っている。当然だ。私が嘘を吐き続けたのだから。
いまさら本当のことを打ち明けるなんて出来ないし、怖い。
部屋の掃除とチコの世話ぐらいで、今日も閉じこもったまま一日が過ぎていく。両親は腫物でも扱うかのように私には何も言わなくなって、ここ半年は会話も無くなった。
早く君に会いたい。
ログイン状態をずっと端末でチェックしていたら、君に会える色が灯る。
私はすぐにフルダイブの準備を整え、ボイスチェンジャーをONにしてVRMMOの世界へと飛び込んだ。
ボイスメッセージのウインドウを開き、鳴戸 蓮華は普段通り関西弁で年上の演技を始める。
「ガッツリン、俺も狩りいけるで。今日はどこいく?」
◇◆◇◆◇ギルド拠点部屋。
「お、クチャラーも来たな」
「クチャラー氏、こんにちはニャ~」
ガシマ店長と語りあっていたら、爆殺クチャラーがログインしてきた。
屈強な格闘家姿の爆殺クチャラーが巨体の砂埃を立てながら入室し、相変わらず野太い関西弁で喋り出す。
「今日は狩りにいかへんのか?」
「前回、装備の買い出しにいったときに重量で諦めたのあったじゃん? リベンジにいこうぜ」
落ち込む気分を吹き飛ばすにはショッピングが一番だよな。筋力が大幅に上がっているから、憧れだったオリハルコンも装備できるはず。
俺が新装備への憧れを熱く語っていると、店長とクチャラーが小さく頷き合う姿が目に入った。
「「おおきにや、ゴチになるで~!!」」
「おいー! ラビッツスターは無理だからな! それと店長は関西弁になっちゃってるから!」
予算上限を何度も念押ししつつ、食事を奢ることで合意。
そそくさと店長はホビット族への変装を始める。最近は慣れてきたのか詰めが甘いので、爆殺クチャラーが世話を焼き始めた。
「ほら、店長。尻尾がはみ出しとんで?」
「ちょっとくらい平気ニャ~」
「ええからじっとしとき」
ハンチング帽を被れば完成だ。よくバレないものだと感心し、俺も頷いておく。
店長はその場でターンして見せた。
「いい感じかニャ~?」
「あーハイハイ」
あざとい店長を軽く流し、俺たちは街の方へ繰り出した。
この日、はしゃぎ過ぎたのもあって、俺の所持金は限りなくゼロに近づくことになる。
◇◆◇◆◇
数日後。
萌奈香とのギクシャク感も薄れ、以前の距離感に近い形で接している。
TKGと一緒になって新調した装備を見せろと騒がれているところだ。
「我が同胞よ、神の涙の結晶をプロンプト我が双眸へ!」
「私も。喫茶店の話も聞きたいし、営業するならお揃いの制服にしないとだし、ウェイトレスやってみたいなぁ~。あ、時給はアップしてね」
二人同時に別々のことを催促するのは止めて欲しい。
一つ嘆息して返す。
「とりま、順番にな。まずはTKGから」
「プロォォォンンプト!」
TKGはマントをばっさばっさと翻して目を輝かせている。ウエストコートのバーテンダー風の格好に、追加でヴァンパイアマントを羽織るという斬新なファッションスタイル。まぁ、蜃気楼の絹の素材で作られたヴァンパイアマントは非常に優秀なアクセサリーだから仕方ない側面もあるけど。
俺はテーブルに買い出しの戦利品を並べていき、置く際の鈍い音やTKGの反応に口元が緩んでいく。テーブルには荘厳で神々しさを感じさせる色合いの品が並ぶ。
「こっちが胸当て、こっちが脛当て、ほんで本命のダブルシミター」
「ジーザス! 幻想四次元バジェット?」
「俺もすっからかんだよ。足りない分は店長が出してくれたんだ」
高値で売れる珈琲はたくさん卸して貰っているし、利益の半分は店長のものだ。ちょっぴり予算オーバーのときにニヤついた店長から貸付を提案された。無利子という魅惑の言葉付きで。
あの時、あの眠そうな目の奥に何かどす黒いものを感じてはいた。どうして俺はあそこで冷静になれなかったのか、今でも悔やみきれない。
でも、念願のオリハルコン装備だ。
特に攻撃力は桁違いに上がったので、新生ガッツリンと言えよう。
一頻り盛り上がっているとローカロリーが割り込んできた。
「私の質問にも答えてよ。店長さんの可愛いコスチュームと外の看板はなあに?」
「くっ、それには海より深い事情があって……」
帰りに寄り道を所望してきた店長に付き合い、前回A型看板を買ったお店へ向かった。
屋号のオーダーメイドのサービスを肉球で叩いてアピールした店長。そこで俺は嵌められたことを悟る。
ガシマ店長が「大きな物を置いても良い」の権利を得たかった理由が判明。
店長のアイテムボックスの収容力を知っていたのに、お金を借りる際の違和感も感じていたのに、見逃してしまった。
そう。店長は一言も拠点の屋内に置くとは言っていないのだ。
「オーダーメイドで屋号看板を作って貰ったニャ~。野望の第一歩ニャ~」
ギルド拠点部屋の玄関外には「サイゴウ亭」というガシマ店長が以前経営していたお店の屋号が掲げられている。
クチャラーとも何か賭け事をしていたみたいで、店長は新品エプロンと店用コスチュームをおねだりしていた。
じわりじわりと喫茶店にするための店長の猫の手が伸びていて、最近は怖いくらいだ。
(店長、なんだか妙にしたたかなんだよな)
猫背を伸ばした店長がフンスと鼻息を荒くする。
「これからは経営コンサルタントの手法もパクって乗っ取りを進めていくニャ~」
おい。本音が出ているぞ!
───用語説明:
【オリハルコン】
上から数えた方が早いほどの超強力な素材で、高額且つ重量も非常に重い。
【ダブルシミター】
三日月刀を2本用意して双剣スタイルで運用するスラング。
【サイゴウ亭】
ガシマ店長が経営していたと自称する異世界の喫茶店の屋号。
屋号には、店長の祖国の英雄「サイゴウ」の名前を拝借している。
【店用コスチューム】
シックで落ち着いた店内の雰囲気にあわせた制服。何故かガッツリンたちの体形にあわせて人数分が既に用意されている。店長専用の制服は尻尾穴がある。




