第十話 温暖化
〜ここまでのあらすじ〜
峰大は萌奈香に告白するため、VRMMOでの学区ランキング1位を目指す。
1位の座にいる双子の兄を倒すため、埴 津丸から共闘を申し込まれる。
実力で超えることを目標にしている峰大は、埴の手を振り払った。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の二足歩行猫。語尾はニャ~。
・マロン
推定メスのタヌキャット。ガシマ店長が命名。
◇◆◇◆◇ギルド拠点部屋。
「ニャ~。ガッツリン氏は学校が終わった後に部活はしないのかニャ~」
「は? 何言ってるん店長? 部活なんてあるわけないだろ?」
学校から戻り即ログインしたら、部活に関する話題を振られる。
「オラが住んでいた国では部活が人気だったし、オラも野球をやってたニャ~」
なんだこの設定?
ガシマ店長は眠そうな目をした猫のNPC。そのスコティッシュフォールドな見た目はラブリーなのだが、あまりに設定がニッチ過ぎるので、開発者には文句を言いたいくらいだ。
仕方が無いので今日も店長専属の講師を務める。
「聞け! 店長よ! もう世界に部活は存在しない!」
「ニャ!? ニャんだってー!?」
店長に聞かせるため、世界の常識を語った。
──21XX年の現在。
温暖化は深刻な問題となっており、初夏でも外気温は生物の活動限界を超える。
街はエアシェルアーケードと呼ばれる透明なアーチドームで覆われており、クーラーによって適温に管理された。
通学路は通学時間しか適温に保たれない関係もあって、利用時間は極端に短い。
そのため学校の部活などは存在しないし、朝練や部活帰りといった言葉も死語。
遅刻は実質的な欠席を意味する。
「……って感じなんだが、理解できたか?」
「そんニャ~。なら野球も無いニャ~?」
「屋外スポーツは全部フルダイブのVRだな。屋内は残っているよ。卓球とか省スペースでやれるものだけな」
なぜか店長はショックを受けてしまい、野生を思い出したのか大地に四つん這いになっている。
謎の感傷に構っている暇はないので、さっさと本題を告げた。
「イベントまでに稼がなきゃならない。そこで店長。珈琲の卸す量を3倍にして欲しくて……」
「ガッツリン氏、そろそろ半額シールを貼るかニャ~?」
最近、無駄にゲームスラングを覚えたな店長!
「いいから聞け! 店長よ! 俺は生まれ変わり新生ガッツリンとなったのだ!」
「ニャ~? キャラをリメイクしたニャ~?」
「いや、それは言葉の綾と言うものだよガシマ店長。装備品を一新して大幅に強くなったのだ! 今ならば『店長のオススメ』を貼っても良いのだぞ?」
店長は鼻で笑って「そんなスラングは無いニャ~」と相手にしてくれない。
確かに調子に乗って、造語を使ったのは悪いと思っている。けれど、強くなったのは本当だし、店長如きを説得できないなら学区1位など夢のまた夢。
(新装備、手を伸ばさぬなど、あるまいて……)
「ガシマの手助け、ゆえに欲する」
「ガッツリン氏、何か言葉が足りてないニャ~。要は卸し量を増やすという意味で合っているかニャ~?」
「俺の心の短歌を声に出さずとも読み取ってくれるとは……さすガシマ!」
名前とくっつけるなとお冠だが、そんなのはどうでもいい。協力の言質は取ったし、そうと決まれば新装備の試運転を済ませつつ、イベントに向けた準備をしておくべきだろう。
「ところでガッツリン氏。装備が変わるとそんなに変わるのかニャ~?」
「よくぞ聞いてくれた。説明しよう! 装備品の歴史とその深淵の全てを!」
「忙しい人向けのダイジェストでヨロニャ~」
ノリが悪いな。眠そうな目をしているし、恐らく早く寝たいだけだと思う。きっとそうだ。
気を取り直し、VRMMOの装備システムを説明した。
──重量と装備スロットについて。
部位毎に全部で16の装備スロットが設定されている。
重量制限のため、装備スロットを全て埋めるプレイヤーは少数派だ。
重量の超過は、僅かであってもスキルが使えなくなる。
だが、ダメージは装備パラメータで決定するし、強い材質はそのぶん重い。
──筋力について。
筋力が無いと習得できないスキルも多く、その意味でも重要と言える。
パラメータは全部で10項目あるが、重量に関係するのは筋力だけだ。
筋力さえ上げておけば、多少の実力差は装備性能で押し切れる。
けれど、他も満遍なく高いに越したことはない。
「ガッツリン氏、話が脱線してるニャ~。オラは耐久動画はお断りなんだニャ~」
「おっと、話が逸れたな。要は筋肉は裏切らない! ってことだ。ご理解頂けたかい?」
「ニャ~」
居候は部屋の片隅をチラチラと見ているけれど、スルーして珈琲の件を念押し。
すると、話をすり替えたいのか話題を戻される。
「そういえば新調した装備はどうだニャ~」
「聞きたいか? 聞きたいのか店長?」
「ニャ~……なんか地雷踏んだニャ~……」
肩を落とす店長のために、親切な俺は装備品を取り出して並べていく。
「さぁ、奥さん! これが新しく手に入れた……」
「奥さんじゃないニャ~」
そんなおバカなやり取りを続けていたら、いつものメンバーが揃いだす。
森へ向かう話の流れになったら、今日は店長が食いついてきた。
「マロンさんが住む森にいくのかニャ~? オラも連れていって欲しいのニャ~」
マロンとは、店長が勝手に呼び始めたタヌキャット(恐らくメス)のことだ。
眠そうな瞳でじっと見つめてくる店長。
「オラは、こんなにときめいたのは初めてニャ~。ぜひ、マロンさんに会ってこの想いを伝えたいニャ~」
声も表情も真剣そのもの。
ふざけて返事するのは憚られるので、丁寧に説明を繰り返す。
「あのな? 店長。何度も言うけどNPCとモンスターが結ばれる道は無いぞ? それに言葉が違うのにどうやって伝えるんだよ?」
「そ、それは気合いでなんとかするニャ~」
モンスターとは会話が成立しない。なのに、ガシマ店長はタヌキャットに襲われた経験がないせいか、会えばどうにかなると幻想を抱いている。
TKGやローカロリーも一緒になって諭し始めた。
「始原の理、偉大な純喫茶の師の詠いし語尾の謎クライQも不可解? NPC固有領域か?」
「オラにはTKG氏の使う言語はまだ難しいニャ~。日本語でヨロニャ~」
「店長さん、TKGが使っているのは日本語だよ? えっとね、なんでそんなに語尾が可愛いの? って質問みたいだよ?」
ガシマ店長には中二病を解読するほどの熟練度がまだない。
そしてローカロリーは相変わらず少しズレている。
タヌキャットの語尾は少なくとも「ニャ~」では無かったはず。
問われた店長が居住まいを正し、「神々の御告げで語尾をつけた」と、創作話を話し出す。自慢げに語っているが、VRMMOにそのような存在はいない。
「あーハイハイ、店長の脳内設定はいいからさ、さっさと狩りに出発すんぞ」
「ガッツリン氏、信じて欲しいニャ~!」
ガシマ店長には一度現実を見せるべきだろう。
そう考えて同行させることにした。
◇◆◇◆◇《モグラビットの森》エリア。
数度のモグラビットとの戦闘を経て、やっと1体のタヌキャットと遭遇。
「プシャーーー!!」
既に交戦の構えで会話になりそうにないけど、想いを伝えることは出来るはず。
木の陰に隠れている店長へと叫ぶ。
「店長! ほら、念願のマロンさんだぞ! 早く告白しろよ!」
「ガッツリン氏、何を言ってるニャ~!? オラに同性愛の趣味は無いニャ~!」
店長曰く、マロンでも無いし、メスですら無いらしい。
「店長さん、ジェンダー差別はダメだよ? 男の人でも愛せるようになろうね」
「震天動地、獰猛なる異形は死を誘因せし光芒ぞ?」
「プシャーーー!!」
周辺に魔法の予兆エフェクトが漂う。
手をこまねいていたせいで、敵の範囲魔法で先制されてしまい、命からがら撤退するハメになった。
逃走する道中、息を切らしながらも告げる。
「店長も半額シールを貼っとくか?」
「オラはまだ諦めるような手遅れじゃないニャ~!」
───用語説明:
【屋外スポーツの衰退について】
年間を通しては屋外のスポーツ施設が利用できなくなり、採算効率から撤退を余儀なくされていった実情がある。
加えてエアシェルアーケードの電力事情もあり、活動範囲が狭まった結果、大規模施設までの交通インフラが老朽化して使えなくなって完全に廃れた。
【ステータス:幸運】
威力や命中率、クリティカル率に影響。
戦闘だけでなく日常生活の至る所で恩恵を受け、NPCの好感度にも影響度大。
【重量】
装備品毎に設定されていて、原則強さと比例する。
全体重量は勿論のこと、各スロットでも超過具合によってペナルティ有り。
【装備スロット】
装備品の部位毎にスロットがあり、全16スロットとなっている。(頭部、胸部、腹部、下腹部、後背部、靴、左肩、右肩、左腕、右腕、左手、右手、左足、右足、装飾品A、装飾品B)
左右重量をアシンメトリーにすると技量が多く必要になり、スキルで不利。
調整難度から、左右スロットの装備を両方外しているプレイヤーは多い。




