第九話 シール
〜ここまでのあらすじ〜
食事が栄養ゼリーだけの世界で、政府は全てを左右するVRMMOを開発した。
萌奈香へ告白するため、峰大は学区ランキング1位を目指す。
17歳の誕生日を祝う約束を萌奈香とし、告白の決意を新たにした。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・多部 翔
峰大の双子の兄。学区1位で全国でも5本の指。
・TKG
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の二足歩行猫。語尾はニャ~。
止まらない欠伸を噛み殺しながらの通学。
自転車を漕いでいると見知った奴が手を振って寄ってくる。
「よっ! 外で合うのは久しぶりだな!」
「なんだよ、泰夢か」
「ひっでぇ顔してんな。どうせ明け方までインしてたんだろ?」
あまりに図星すぎてついシカトしてしまう。
同じ方向だからか瀬瑠 泰夢は自転車で並走してついてきた。
泰夢とは同じ中学だったが、高校は別々になったのでリアルで合うのは久しぶりな気がする。
VRMMOではほぼ毎日顔を合わせているし、泰夢のハンドルネームTKGとは昨日も一緒にプレイした。
どういう訳か高校に入る頃からVRMMOでは中二病デビューをしている。
理由については聞いても教えてくれない。
リアルとゲームでここまでキャラが違うとやりづらいが、もう慣れた。
(ま、腐れ縁だしな)
「スルーすんなよ。で、イベントに向けた準備は順調か? 半額シール貼っとくか?」
「うるっせーよ! 今度相談するから、じゃあな!」
皮肉を言われてしまい、会話を打ち切って自転車を漕ぐ速度を上げる。
スラングで「半額シールを貼る」とは諦めてお手上げになったことを意味する。
周囲がどうせ俺には無理だと決めつけていることに少々苛立つ。
(ぜってー見返す!)
ふつふつとした思いを募らせつつ登校し、黙々と授業を受ける。
ゲーム成績が学業にも大きく影響するとは言え、さすがに赤点はNG。最低限の学業を履修していないと幾らゲームの成績が良くても、就職が厳しくなるのは旧時代と同じだ。
そうは言っても激しい睡魔との戦闘が続くのは辛い。マジでどんな敵よりも強いかも知れないよ。睡魔。
ギリギリのところでチャイムが鳴ってくれた。
「やっと、昼休憩かよ~……」
午前の授業が終わり、安堵したことで思わず声に出してしまった。
慌てて周囲を見渡す。誰も気にしていないようで安心したが、窓際の萌奈香だけは笑いを噛み殺している。
少し気恥ずかしく思いながら、仮眠を取るべく机に突っ伏した。
(ちょっと、周りがウルサイな)
廊下近くの俺の席の周りでは、人気アイドルのライブ映像を見ている連中の音漏れと、やたらハイテンションの談義が続いている。
ゼリーで済んでしまう現在の昼休憩は会話がメインだ。
学食どころか食堂すら無いし、購買スペースだって無い。あるのは自販機の栄養ゼリーと飲み物だけ。
街は変わり、農業は廃れ、知識も技術もロストテクノロジー化した。
働くお兄さんがお弁当を広げていることも無いし、OLさんが談笑するテラス席も、リーマンがラーメン屋に並ぶ光景も一切ない。
夢のような昔のランチタイムへ思いを馳せ、微睡んでいたら、大型イベント情報の話題が眠気を吹き飛ばした。
◇◆◇◆◇《湿地帯》エリア。
「学校成績にもえらい影響がおっきなる聞いたで」
「私も聞いたよ。すんごい大きいって」
夜には狩りに出かけ、その帰路もアップデートの話題で持ち切り。
ボスが複数投入され、撃破すれば学区ランキングを上げることができる。
攻略について雑談をしていたら、ギルド拠点へのポータルが見え始める。
そこへ赤い長髪が印象的な乱入者が現れ、口を開いた。
「ガッツリン。メッセージを送ったのに返事が無いから来てやった。可及的速やかに返答を求める。早速、詳細を説明しよう」
「だから後日折り返すとメッセージしたろ、ワンバウンド!」
「日時の明記が無かったため、こちらの都合で押し掛けて良いと判断した。では始める」
高校の同学年で学区2位。目の前に居る埴 津丸は、リアルでも人の話を聞かない。
HNはワンバウンドだが、コイツとの話が弾んだことは一度だって無いし、正直苦手な相手だ。
「……との観点から我々が組むのはメリットしかあり得ない。合同の作戦行動は三日後に予定しておいた。それからガッツリンたちのパラメータの伸びが説明つかないためレポートにして合同作戦までに提出すること。以上だ」
メッセージでもしつこく問われたパラメータの伸び。ガシマ店長の珈琲が深く関わっているので迂闊に情報を漏らせない。
埴からは「共闘して翔を倒そう」と、以前から協力の申し出を受けている。
陰湿ではあるけど合理的なアプローチが多く、手を組めば翔を学区1位の座から引きずり下ろすことはできると思う。
だけど足を引っ張りたい訳ではない。
「申し出は嬉しいけど、遠慮する。俺たちは正攻法でいくからさ」
「なぜ断る? 整合性が見当たらないので拒否を拒否する。尤もな意見があれば30秒で提示したまえ」
すかさずストップウォッチを取り出すワンバウンド。
焦りでしどろもどろになりつつも伝えていく。
「……と、まぁ前置きはさておき、確かにソルトカットは倒したい。けれど成果を奪う形じゃなくて、俺自身が成長してソルトカットを超えたいんだ。そうして手に入れた学区1位じゃないと意味が無いと思ってる……どうかな?」
ワンバウンドが不愉快そうに眉を動かすも、俺はどうにか言い切った。
納得してくれたのか、ローカロリーたちは笑顔で頷いている。
そんな中、ワンバウンドはストップウォッチを仕舞って小さく嘆息した。
「回答するのに41秒かかっている。拒否の理由を30秒以内に纏められない君の意見は検討に値しないことが分かった。では、予定通り三日後に」
踵を返そうとしたワンバウンドへ皆からの抗議の声が上がる。
「ちょい待ち。なんやよう知らんけど、ガッツリンはちゃんと理由ゆうて断っとる。そない一方的な態度はどうかと思うで?」
「星屑よ、不条理ルーツKY? IQカレッジ? 我が盟友の語彙力サルベージ」
「埴くん、あのね? 決めつけは良く無いと思うの。甘い物を食べて店長の珈琲を飲めば落ち着くと思う」
皆の気遣いが嬉しい。
でも、萌奈香のはアウト。本名を持ち出すのも、店長の情報を出すのも。
ワンバウンドも突然の暴露に口元をヒクつかせている。
「君たちの意見は感情的で合理性がない。吟味するだけ時間の無駄だ。不毛な会話は3分を超えた。それからローカロリーは口を慎みたまえ」
今にも殴り掛かりそうな爆殺クチャラーと、その腕を引っ張って必死に止めるローカロリー。
ワンバウンドの話は続き、TKGは証拠集めの撮影をしていた。
「……と、私の作戦は理に適っている。ガッツリンもゲームセンスは良いのに、頭悪い連中とつるんでいると格が下がるぞ?」
「ワンバウンド、もう一度言う。俺はお前とは手を組まない。俺の求める答えはそこに無いんだ!」
「ふむ。報酬に不服があるのだな? 理解した。代替プランを二日後の13時15分に提出する。全く……話を聞かない連中との会話は疲れるな。では」
言いたい放題の上、ワンバウンドはさっさと転送ポータルで移動してしまう。
皆、ポカーンと口を開いたまま動けずにいた。
「なぁ、ガッツリン? これが旧時代で伝説にあった『おまいう案件』ゆうやつやないか?」
「福音の記憶を封じたゆえ、此度アイムマヨラーへギフテッド喜劇ぜ」
「あーあ、慎みが足りないって言われちゃったなぁ」
少しずれたローカロリーのセリフで、消化不良の微妙な空気が薄まった。
俺が吹き出すと皆もつられて笑い出す。
「あんな奴のことは忘れて帰ろうぜ。店長もあんまり美味しくない料理作って待っているはずだしさ」
「あー、店長さんにチクっちゃうからね? ガッツリンは一言余計だよ? 慎みを持とうね」
笑顔で軽口を交わし合い、ガシマ店長の待つギルド拠点部屋へと向かった。
───用語説明:
【転送ポータル】
各エリアを行き来できる装置。距離に応じて利用料金が変わる。
【大型イベント情報】
半年毎に行われる大イベント。今回は複数のレイドボスが投入される。
【半額シール】
VRMMOのスラングの一つで、お手上げで諦める意味を刺す。
【ステータス:魔力】
魔法の威力や範囲、MP回復力に影響。
物理攻撃の威力上乗せにも用いられるため、魔導士だけではなく戦士系でも重要な項目となっている。




