エピローグ2
――土の国最重要都市:グラニテ
人通りの少ない薄暗い街路地に佇む、とある店が久方ぶりにオープンした。
店主が大怪我を負ったので長らく休業していたが、傷を癒し、また開店したのだ。
その店のマスターはグラスを拭いていた。
特性の鉱石を混ぜた氷を、アイスピックで割っていた。
もうすぐ開店前、仕込みの最中だった。
「よお、マスター。久々」
開店時間30分前、常連客と思わしき男がほろ酔いで店の中に入ってきた。
「いらっしゃいませ。大変申し訳ございませんが、まだ仕込みの最中ですので、しばしお待ち頂くことになります」
「ん? あれ? ちょっと早かったか? 外で待とうか?」
既に酔いが回っているとはいえ、この店の常連客に非常識な者はいない。男は自らの非を詫び、店を去ろうとした。
「いえ。折角おいでなさられたので、是非ともお座りください。簡単なチャームであればすぐにでも」
粋な男、という者は多少の融通は難なく利かせられる。慣れた手つきで器にナッツやドライフルーツを入れて男に差し出した。
「すまないね。勇み足って奴だ。あんたの店が久々にオープンするって聞いて、なんとしても最初の客になりたかったんだ」
「光栄です」
マスターは男の好意に気を利かせ、仕込みを中断してカクテルを作り始めた。
男にオーダーは聞いていない。言葉にせずとも伝わるものだ。
「どうぞ」
「すまない、気を遣わせた」
底の厚いカクテルグラスに注がれたのは、透明感のある白い液体。白いラム酒をベースに、ライムジュース、砂糖を混ぜて作られたカクテル。こっちの世界でいう「ダイキリ」によく似ている。
この常連の男は、必ずこのカクテルを最初に頼んでいた。
「怪我はもう大丈夫なのかい?」
「お陰様で息災でございます」
「そうか、なによりだ。少し店の雰囲気が変わったかな。以前から静かな雰囲気だったけど、なんか、こう、より安らぐ空間になったというか」
男の言う通り、店内は間接照明で柔らかく照らされており、心を鎮めるようなシダーウッドの匂いが広がっていた。
「そういえば、それも初めて見るな」
男が指差したのは、カウンター内のシェルフに置かれているバスケットだった。
白いシルクが敷かれ、子供の寝具のように装飾されたバスケットの中には、てのひらサイズ程の大きさの鉱石が鎮座していた。煌びやかに輝く多面体の鉱石は眩い光を放っている。
「えらい綺麗な石じゃないか。どこで手に入れたんだ?」
「ああ、それは――」
マスターは小さく笑って
「形見です。偉大なる先人の」
そう答えた。
「もうそろ開店時間か」
男が時計を見てそう呟くと、マスターはカウンターから出ようとする。
「ああ、いいよマスター。看板なら俺がひっくり返してくるって」
そう言って男は立ち上がり、扉を開けて看板をCLOSEからOPENにひっくり返した。
「そうや、店名も変えたんだな」
「いい機会だと思いましてね」
「そうか。いや、まあ、いいと思うぜ? 少なくとも前よりは幾段かマシだ。マジでな」
男は苦笑いで言った。
「でもやっぱ土偶から離れた方がいいって」
「こだわりですので」
そう言ってマスターは薄く笑った。
夜は平等に更けていく。
今日この一瞬も等しく、まるで深く眠るように。
Bar クレイドル-Clay doll- Open
お久しぶりです皆々様。
クワガタ信者です。
本日から新連載を始めましたので告知させていただきます。
今回はラブコメ、現代恋愛物を書かせて頂きました。
『残り物への青春許可証~美少女姉妹を交通事故から救ったら懐かれてしまったが、孤独主義者の俺はぼっちを貫く~』
https://ncode.syosetu.com/n6724kg/
足を運んでいただければ幸いです。
ぜひ第1話だけでも読んでみてください!!




