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エピローグ1

 祭りだ祭り。


 グラニデでは、今お祭りが開かれている。

 伝統的なお祭りじゃなくて、突発的に行われた祝勝会だ。


 ジンを撃破した後、土の国での敵性生命体による被害は完全に無くなった。


 奴らはジンの体から生み出された人造兵器だから、その制作者がいなくなった以上、存在できなくなったのは当然の結果だった。


 そんなわけで、四始祖討伐祝いって奴だ。


 あの戦いの後、俺の体中に凄まじい激痛が走った。クリスさん曰く、錬脈回路が致命的に損傷しているとのこと。急いでクリスさんとシオンで俺の錬脈回路の治療を数日かけて行って、ようやく元に戻すことができた。


『ありえない程の回復力ね。あなた本当に人間じゃないのかもね。もっと調べなきゃいけないわね座って頂戴』


 まあ、またモルモットにされるのもごめんなので、命からがら逃げ出してきた訳だけど、俺の回復力ってのも相当すごいらしい。


 あれから錬金はできるみたいだけど、ジンとの決着時のような凄まじい力は出せなくなっていた。頭のわっかもなくなっていた。


 なんだったんだろうな、あの力。なんかのボーナスタイムだったのかな? マ〇オのスター的な?


 不意に、袖をくいっと引っ張られる。シオンが俺の袖を引っ張っていた。

 ああ、そうそう、今日はシオンと一緒に祭りをぶらついている。


 シオンが指差す先に、美味しそうな露店があった。


 ここ最近のシオンは結構安定している気がする。相変わらず喋ることはできないけど、笑う頻度が増えた気がする。

 ある意味では、おじさんやおばさんの仇であるジンが討ち取られたことに溜飲を下げることができたのだろう。

 少しずつ、少しずつだけど精神的に快方に向かっていると信じたい。


「行こうか」

 

 シオンがコクリと頷いて、俺達は美味しいものを食べに露店へと歩みを進めた。

 食べ歩いていると、シオンがまた何かを見つけた。

 色鮮やかで綺麗な魚を、薄い膜が貼った道具で掬う遊びのお店だ。

 ようするに金魚すくいだな。


「っしゃ、任せろ! 俺こういうの結構得意なんだよな」


 何匹でも掬ってるぞ! と意気込んでみたはいいものの、掬えたのはたった一匹だけ。しかもなんか他の魚と違ってくすんだ灰色の、なんだか地味な魚だ。


「ごめん、こんなのしか掬えなかった」


 ポリ袋に入った魚を、申し訳なさそうに俺はシオンに手渡す。


 受け取ったシオンはにっこりと俺に笑いかけてくれた。


 気恥ずかしくなった俺は、「あっちにかき氷があるぞ! 行こうぜ!」と照れ隠しに走って行こうとした。







「ソォ……イチ……」







 背後から懐かしい声が聞こえた。最後に聞いてから、まだ数か月しか経っていないのに、なんだか随分と昔に聞いた声のような気がした。

 それだけ、俺はその声を聞きたくて聞きたくて待ちわびていたのかもしれない。


 振り返ると、真っ白なワンピースに街灯を浴びせて、優しい橙色に光らせたシオンがおぼつかなく口を動かしていた。

  





「あ……ぃ……が、と」







 つたない言葉だ。でも、俺にはとても美しく感じた。どんなに綺麗な言葉をたくさん並べても、この一言にはとても敵わない。


「ああ。どういたしまして」


 俺は、ずっと君の言葉を聞きたかった。君の笑顔を守りたかったんだ。

 

 パタパタとシオンが俺を追いかけてくる。祭りの賑やかさなど気にならないくらい、俺達の時間は静かに過ぎて行った。




◇◇◇◇◇




 ベンチに腰掛けながら、俺は手帳を開いていた。

 ひよりのメモ帳。最近色々なことがあったから、これを開くのは久方ぶりだ。

 何か更新されているだろうか。


『ソーイチへ。祝! 四始祖撃破! おめでとう!! いやー、ジンバックは本当に強敵だったよね。この調子で残る三人の四始祖を撃破しちゃおう!』


 簡単に言ってくれるよ。三日三晩じゃ済まない時間を戦い続けたんだからな? 俺。

 ていうか、ひよりは大丈夫なのか? 怪我とかしてないか? 


『私はへーきへーき。終わりの錬金術師も今は大人しくしてるみたいだし、しばらくは四始祖討伐に向けて準備を整えているところだよ』


 じゃあ、もしかしたらどこかで


『会える時を楽しみにしているからね! ソーイチ!』


 そこでひよりのメッセージは途切れた。

 ひよりに会える時が近づいているのかもしれない。そう思っていると、後ろから背中をバシンと叩かれた。


「ソーイチクン、また自作の官能小説? こんなめでたい時くらいよしなって。はい、チョコバナナ」


 バンビがどっかの露店で買ったであろうチョコバナナを俺に渡してくる。

 いったいなあ。もう。


「ソーイチクン。トニックさんは……」

「ああ、ちゃんと送ってあげたさ」


 そう言うとバンビは「そっか……」と一言だけ漏らした。


「満足できる結果だった?」

「……そうだな。憎しみを持たないで、最後まで向き合うことはできたよ」

「いーじゃんいーじゃん。よかったね」

「ああ、ほんとさ」

「取り込み中にすまない」


 背後から、ミラさんが俺とバンビの間に割り込んでくる。


「ソーイチ君、風の国から緊急救難要請が届いた。すまないが、先に向かってくれないか」

「はい! わかりました!!」


 奴らが出たか! 上等だ。蹴散らしてやる。


 俺は人気の少ない通りに移動して、巾着からアタッシュケース状に畳まれたアルケスを解放し、跨る。


「じゃあ、行ってきます!」


 ヴヴン、ヴヴンとエンジンを蒸かして風を切り裂きながら突き進んだ。


 また、生きている人の命を救うために戦う。死んだ人の魂に寄り添う為に弔う。

 

 俺達の戦いは、これからも続く。









「錬金!!」


 





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