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第70話 終戦

 夜明けの優しい光の中、二つの人影が横たわっていた。


 頭のない人型の金剛石を抱く想一の姿。それはまるで、子供を抱きかかえて眠る母親のようだった。




◇◇◇◇◇




 同日、ミラはデスティノ山脈を駆け回っていた。


 数日前までは、デスティノ山脈付近に広がる、破壊の波動のせいで近づくことができなかったが、つい先日ピタリと収まった。


 ミラは、想一の安否を確かめる為に単身で山脈に乗り込み、彼を探していた。


 そしてようやく辿り着く。


「ソーイチ君!」


 朝焼けを背に、呆然と立ち尽くす想一の姿を捉えた。


「ミラさん」


 ミラは想一に駆け寄る。ソーイチの視線の先には、頭と胴体が分離したジンバック・アルファウルブズの姿があった。頭部に貼り付く、彼の表情はとても穏やかだった。


「俺、許せません」


 想一は、ジンの遺体を見つめながら眉間に皺を寄せていた。


「故人を勝手に蘇らせて、逆らえないように従わせて、無理やり人を殺させる『終わりの錬金術師』を絶対に許さない」


 握った拳の爪は、何枚か割れたり剥がれていたりしたが、それでもてのひらに血が滲んでいた。


「ああ、そうだな」


 ミラは、やるせない表情を見せる想一の体に、さりげなく上着をかけてやった。


「帰ろう。ソーイチ君」




◇◇◇◇◇





「それじゃあ、お疲れさまでした」


 一日かけてグラニデに戻ってきた想一は、ミラにお辞儀して部屋に戻ろうとした。


「あっ、ソーイチ君!」


 不意に、ミラがソーイチを呼び止める。


「? どうしました?」


 素っ頓狂に首をかしげて、頭上に「?」マークを浮かべるソーイチ。


「……いや、なんでもない。ゆっくり休んでくれ」

「はあ……」


 なんだろう、まあいいや、と想一は考えないようにする。今はとにかく眠りたいと考えていた。


「それじゃあ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい」

 

 そう言って部屋に戻る想一をミラは見送った。


「……………………」




**********



 時はミラが、天然温泉でソーイチ達と別れた時間に遡る。


 緊急で入った敵性生命体対策会議を終えたミラは、道端を歩いていた。


「……?」


 そこで見覚えのある服装の男を見つけた。黒と金の髪、ロングコートの長髪の男性。それはトニック・クォーツァーのものだった。


 まさか、と思い、路地裏に消える男の後を追うミラ。

 人気のない路地裏の奥にどんどん進んで行くが、男を見失ってしまった。


「くっ、見失ったか」


 引き返そうと踵を返した先に、男がいた。


「よう、久しぶり」


 男の名前はジンバッグ・アルファウルブズ。先日死闘を繰り広げた男の姿だった。


「ジンバッグ!!」


 ミラはサーベルを引き抜き、炎を纏わせて構えた。


「よせよ。戦いにならないのは身を持って知ったろ?」

「それでも、構えないわけにはいかないだろう」


 ミラの返答を聞いたジンは、やれやれ、と言わんばかりに両手を上げた。


「戦いに来たんじゃない。頼みたいことがあるんだ」

「なに!?」


 つい先日まで殺し合っていた男から、頼み事という言葉が出てきたことに驚いたミラは眉を顰めた。


「そう怖い顔すんなって。誰も殺しゃしねえよ」

「信用できると思うか?」

「思っちゃいねえけどよ。こっちも時間がねえんだ。手短に話すぜ」


 咳払いをしてジンは神妙な目つきで口を開いた。


「ソーイチと決着をつけたい。××日後の〇〇時頃にあいつをデスティノ山脈中心部に呼び出してくれ」

「っ!」


 決着をつける。その言葉にミラは目を見開いた。


「んで、それまでにデスティノ山脈に誰も近づかないように人払いも済ませて欲しい。邪魔されたくないんでね」

「……何を考えている? そんな見え見えの罠に引っかかる程甘くはないぞ」


 真意を探ろうと、ミラは揺さぶりをかけようとする。


 が、


「俺はもうじき自我が消え失せ、破壊衝動のままに動く殺戮人形と化す」

「なっ!?」


 ジンは取り繕うこともなく、包み隠さず事実だけを述べた。


「前にも言ったろ? 人間ぶっ殺さなきゃ理性を保つことができないって。もう、それじゃ抑えられないところまで来ている。だからその前に決着をつけたいのよ」

「…………」

「それまでにソーイチが俺を殺すことができりゃ犠牲者は出ない。簡単だろ?」

「ジン、貴様まさか――」

「んじゃ、頼んだぜ」


 そう言ってジンは地面に溶け込む。


 ――ああ、このコトあいつに悟られないようにしとけよ。余計な情報はかえってノイズになる。


 残響だけがこの場に残り、ジンがいた痕跡は跡形もなく消えていた。

 



**********




「結局私は、また彼にだけ辛い事を押し付けてしまった」


 己の無力さを痛感し、ギリッと歯を食いしばりながら、ミラはその場を去って行った。

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