第69話 roots
男は、生まれた時から強者であった。
父親は、由緒正しき錬金術師の家系、アルファウルブズの血を引く者。
恵まれた体格、恵まれた才能。なにをやらせても、男は一流を大きく上回る才覚を持っていた。睡眠時間も、他者よりも圧倒的に短く、必要としなかった。だからこそ、その分のリソースを他に回すことができたのだ。
金を稼ぎ、女を抱き、歯向かうものを捩じ伏せ、全てを思いのまま手に入れていた。飽き飽きするほどに。
男は、父親と一山いくらの娼婦の間にできた子供だった。
誇りを重んじるアルファウルブズは、娼婦と子を為した父親を異端とみなし、追放した。
娼婦は蒸発し、父親は一族を見返そうと躍起になり、錬金術にかかりきりで、男に見向きもしなかった。
男は、幼い頃からあらゆる分野に才能を発揮し、一人でも生きていくことができた。
そんな男が成人を迎えた頃、父親が躍起になって没頭していた錬金術に、気まぐれに手を出した。
その類い稀なる才能は、錬金術においても頂点に立つ程だった。約二年で土の元素を発見し、それを用いた錬金術を編み出し、誰でも扱えるように改良した。
やがて男は四始祖の一人に数えられ、男を生み出したアルファウルブズ家は錬金術において、非常に強い権威を持つようになった。
ある日、一族の誇りとして、本家に迎えられた男は、アルファウルブズの領地で錬金術の研究をしていた。
その最中、襲撃を受けた。襲撃者は全員アルファウルブズの者だった。
当時のアルファウルブズの重鎮達は、異端者と薄汚い娼婦の子供である男の存在を疎んじていた。
何より、権威の多くは、四始祖である男が握っていたこともあり、まさに目の上のたんこぶだったのだ。
要人以外にも、男の才能や功績に妬む者がほとんどだった。
だから権威の全てを自分達のものにしようと、男の暗殺が画策されたのだ。
男は襲撃者達を返り討ちにし、全員を殺害した。
それを理由に重鎮たちは、男を乱心した逆族としてでっち上げた。処刑する大義名分を得て、アルファウルブズ総出で男を討伐しようとした。
だが、彼らは男の力量を大きく見誤っていた。それも致命的にだ。
金剛石の体は、どんな攻撃も通さず、アルファウルブズ家の者は皆殺しにされてしまった。
男にとっては、自分以外のあらゆるものが弱者。退屈な作業でしかなかった。
その中には父親がいた。
男が四始祖になったことによって、父親は家に戻ることができた。男はこれを機に父親との関係を取り戻そうと思っていたのだ。
だが、父親は自分の暗殺を手引きしていたのだ。
自らの父親ですら、自分を妬む者の一人だった。
悉くを鏖殺し尽くした男の心に去来するものは、虚無。
何もかも手に入れることのできた男は、自分以外の血を全て滅ぼしてしまった。
ふと、錬金術を始めた頃を思い出す。
男は、母親が欲しかった。
母親の胸の中で眠りたかったのだ。
だからこそ、土の錬金術を生み出した。
母なる大地に包まれて、ゆりかごの中で眠る赤子のように、静かに眠りたかった。
ただ優しく、自分を包み込んでくれるような、母なる存在が欲しかったのだ。
ジンの望みはただそれだけだった。
それだけだったのだ。




