第68話 軋んで、砕けた
月すらも沈みかける程に夜が更け、あらゆる生命が戦いの余波で死に絶えた世界の中で、二人の男が戦っていた。
「#%’ア゛ア゛ア゛ア゛%9h’イ゛ウ゛ウ゛%)?>”#&&’%#&$&!!!!!!」
「………………………」
ジンにはもう、自我と呼べるものはなくなっていた。
凡そ、人間の発する声とは思えない、鳥のような鳴き声を発していた。
士降の目の前にいるのは、金剛石で作られた殺戮人形としか言いようのない「物」だった。
それに士降は気付いていない。
終わりなき永劫の戦いの中で、士降の意識は既に不鮮明なものになっていた。
最早、声一つ上げることもない。
(俺はどうして戦っているのだろう)
最早、自分が何者なのか、なんの為に戦っているのかすらわかっていない。
(どうしてこんな辛い思いを自分がしなければいけないのだろう)
理由もなく、ただひたすら目の前の生き物らしき人型を殴り、殴られている。
体中傷だらけ。亀裂は既に塞がらず、お互い満身創痍の中戦い続けていた。
痛い。辛い。嫌だ。もうやめたい。
そんな思いが士降、いや、想一の中で渦巻いていた。
だが、想一はあることに気付いた。
(どうしてこの人はこんなにも辛そうなのだろう)
目の前で自分と同じように殴り、殴られているこの光る人のことを気遣わずにはいられなかった。
「アアアアア%$#&%#&$$$#%&’%イイイイイイ@;@^¥=!!!!!!!」
(こんな辛いこと、もうやめればいいのに)
本当は自分のことで精一杯なのに、目の前で苦しそうにしている誰かのことを考えてしまう。
(まるで母親とはぐれ、迷子になって泣きじゃくっている子供みたいだ)
どうすれば、この人の苦しみを和らげてあげることができるんだろうか。
どうすれば、この人は泣き止んでくれるんだろうか。
殴りつけながらも想一は、考えることをやめない。
殴られながらも想一は、寄り添うことをやめない。
(あ、この人、本当は――)
「hjんぎおれあhごいあrgjhんヴぉいあれgjkgあjg!!」
殴りかかる殺戮人形の拳を紙一重で捌き、士降は背後を取る。
両腕で首を締めるように組みつき、両足を相手の腰に巻きつけるように絡みつく。
これを人は、裸締めと呼ぶ。
「んごえあうjfごいれあgfjvなkghなおわえgはbjち!!!!!!」
「ふっ!……ぐぅっ……ん゛ん!!」
大地に背を付き、暴れまわる金剛石の化身を締め上げながら、士降は耐える。
「gjにおるあhgんれgじゃえgきいらえお@gじゃえrgjんklお!!!!」
「ぐぅっ!……ふぅぁっ……ぐっ!!……うう゛っ!……ぐぁぁぁ、あああああ!!」
脇腹に、執拗に肘を入れられる。それでも士降は離さない。離そうとしない。
「AAAAAんlgかjtjれgnAAAAAjhいwrgtnAAAAAAAAA!!!!!」
「があっ、うぐぉぁっ……ぐあぁぁ……あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
金剛石の首に当たる部位がひび割れていく。亀裂が広がり、軋む。
軋む軋む軋む。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!!!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで軋んで
そして――
砕けた。




