第59話 闇の中で掻き毟る
太陽の光も月の光も差さない暗い森の中、ジンは頭を押さえながらおぼつかない足取りで前に進んでいた。
――ああ、五月蠅い。何度聞いても吐き気がする。
頭の中に『声』が響いていた。人間を殺せ、人間を襲え、と。
この『声』を聞くたびに狂いそうになる。一定数の人間を殺さなければこの『声』は収まらない。
最初の頃は数人殺せば収まっていた。だが、時間が経てばまたこの『声』が、「終わりの錬金術師」に植え付けられた殺人本能を刺激する。時が経つに連れてこの間隔はどんどん短くなり、必要な人数も増えてまた殺しを重ねる。
気に入らない。終わりの錬金術師などと言う素性の知らない男に、いいように使われている自分が何よりも気に入らない。
ジンはふらつきながらも大木に近づき、拳と頭を打ち付けた。
「つ゛ま゛んね゛えんだよ゛っ……! 弱い奴、いくら殺したところでなんの意味もねえ゛っ……! な゛に一づっ……満たされやしねえ゛っ……!」
いつまでこの無意味な殺しを続けなければならないのか。いつになったら自分は解放されるのか。
答えは決まっている。あの男の言う通り、この世界の人間を皆殺しにするまで、この地獄は続く。
「……っ!」
ふと、背後に気配を感じる。暗闇と自分の影、どちらともわからない真っ黒なテクスチャから這い出てくる者がいた。
それは魔獣や怪人。ジンの意思とは関係なく、この人殺しのバケモノどもは『声』と共に生み出される。血に飢えた目でこちらを物欲しそうに見てくる。
「早く殺させろ」「命令をくれ」「人を喰わせろ」
そんな言葉が聞こえてくるような眼差しをジンは受け止めさせられていた。
不意にジンの怒りが爆発した。
「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
ジンは怪人の頭を素手で握り潰した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
続いて魔獣共を蹴り殺し、岩の礫で轢殺する。鉱石の刃で幹部級をも切り刻み、湧き出た怪物たちを自らの手で鏖殺した。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
ほんの少しだけ『声』が収まった。
ジンにはわかっていた。自分にはもう時間がないことを。
いずれこの『声』に自我が乗っ取られ、周りの生き物を殺して回るだけの殺戮人形になることを。その前に――
「ソーイチ……」
俺の願いを叶えられるのは、もうあいつしかいない。
あいつじゃなきゃダメなんだ。
「ソー……イ゛チ゛……」
あいつだけが、俺を殺してくれる。
あいつだけが、俺を満たしてくれる。
「ソーイ゛チ゛ッ……!」
あいつだけが……。
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