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第56話 本当に強いのは

「うおあああああああ!!」

「ぐうっ!」



 アルケス、ゴライアスの衝突により湖の浅瀬まで宙を舞った士降とジン。

 勢いよく着水し、お互いゆっくりと起き上がる。


 ジリジリと睨み合う両者。先に動いたのは士降だった。吹き飛ぶ寸前に抜刀していたヴェロ・ニィカを起動させる。ヴェロの刀身を水面に差し込んだ。


「ん゛ん゛!」


 液体を通してジンを感電させる目論みだ。計画通りジンの動きが鈍る。

 ちなみに塩、即ち塩化ナトリウムは絶縁体である。それと似た性質を持つ士降も電気を通さないので感電しない。


「今だ…!!」


 上空へと飛び上がり、二刀を振りかぶりジンへと切りかかる


 しかしジンは即座に岩石でできたトンファーを錬成し、士降の攻撃を防ぐ。


「効かないのか!?」


 ジンの体は鉱石や岩石でできている。金属と違いそれらは電気を通さない性質を持っており、ジンにはヴェロの電撃が通らなかった。


「ならこれはどうだ!」


 ギィンと士降は大きく弾かれると、くるりと翻し着地と同時に、今度はニィカを水面に刺した。


 パキパキと水面が凍り、ジンの足元を固める。


「んなもん効くかよ!」


 ジンは身体を振動、シバリングさせて氷を割って脱出した。


「俺に拘束技は効かねえ! 直接ぶっ叩くんだな!」


 ジンはトンファーをクルクルと手で弄びながら突貫してくる。武器を使ったインファイトこそジンの得意な領域だ。


 士降はヴェロ・ニィカを振るって応戦する。

 双剣とトンファー、二対の武器が激しい火花を打ち爆ぜながら交差した。


「新しい武器か! いい業物だ! こんだけ強力な得物があれば、たくさんの敵を殺せるな!」

「殺す為に振るうんじゃない! 守る為に振るうんだ!」


 激しく打ち合う両者。刃を重ねるごとに水飛沫が巻き上がり、氷片が舞い散った。


 士降はヴェロ・ニィカを繋ぎ合わせ、胸殻からパラディオーディナーを取り出した。ロッドモードに変形し、左右の手に二対の長物を手にした。


「ダアァッ!」


 リーチを活かした連撃がジンを襲う。リーチに乏しいトンファーを持ったジンは、防戦に徹しなければならなくなった。


 やがて、ロッドの一撃がジンを捉えた。


「ぐああっ!」


 陸までまで吹っ飛ばされるジンは、ほとりの砂浜を転がった。


「いいね……武器の使い方が上手くなった……だが!」


 ジンはトンファーをぶん投げ、新しく長い大鎌を錬成した。


「どうする? これでリーチの差は埋められたぞ!」


 ジンが虚空をデスサイズで切り裂きながら向かってくる。


 士降はヴェロ・ニィカの連結を解き、宙へ放り投げる。パラディオーディナーの両端にそれぞれ双剣を連結させ、さらにリーチを伸ばした両刃の薙刀を編み出した。


 士降は×字の衝撃波を繰り出した。炎、雷、氷、水、四つの属性を纏った衝撃波がジンを襲った。

 ジンは大鎌を大きく縦に一閃する。斬撃は真っ二つの割れ、ジンの後方の岩山を大きく削った。

 ジンは構わず距離を詰め得物を振るった。


 薙刀と大鎌がぶつかり合う。雷撃と炎が弾けるように空間を裂き、衝撃波で砂浜が割れた。


「ははっ、冴えてるぜ!」

 

 薙刀モードを見て満足そうに笑むジンは、大鎌を回転させて士降を切り付けるも、薙刀の棍の部分でそれを受け止める。


 返す刃で士降は薙刀を振り回し、連続攻撃をジンに繰り出す。


「迷いが見えない! 前回とは違うな! それでいい。もっと怒りを込めろ! 俺を殺して見せろ!」


 狂気を見せるように笑いながら攻撃を捌くジンを見て、士降は攻撃の手を止めた。


「……おい、どうした」


 楽しんでいるところに水を差されたジンは、一変して不機嫌そうになり、士降を問い詰めた。


「なにを緩めていやがる。俺への敵意は、殺意はどうした!?」

「違う」


 士降はジンの言葉を遮って否定する。


「俺があんたと戦う理由は、あんたが憎いからなんかじゃない。俺の戦う理由はみんなを守りたいからだ。誰かが悲しむ姿を見たくないからだ」


 士降は薙刀を地面に突き刺して、本腰を入れて戦いを中断する。ジンが求める敵意や殺意を否定するかのように。


「嬉しかったんだ。優しい人間になりたいって思えて、嫌な奴に言い返せて、あんたの影響で変われて。俺はトニック・クォーツァーの言葉に相応しい人間であろうとする。だから憎しみを抱きながら戦うつもりはない」

「なにを言って……」


 こめかみに手を添えながらジンは動揺した素振りを見せる。


「あのなあ! トニック・クォーツァーは、俺がお前達に近づく為に騙った名前だ! お前たちの信頼を得る為にそういう発言を取ったにすぎない! わかっているのか!? お前は俺に騙されたんだよ! そんな俺の言葉を未だに大事にしてどうする!? 憎め!

 俺を殺しに来い! じゃないと、お前に近づいた意味がなんもねえだろうが!!」

 

 ジンは感情を剥き出しにしてそう憤った。


「もちろん、あんたは倒さなきゃいけない。そこはちゃんと弁えているよ。だからジンとトニックさんを別物だと考えることにした。俺に生き方を示してくれたトニックさん、あの人は今でも俺の中で生き続けている。俺の道しるべになってくれている」


 士降は自分の心臓に手を当てて語る。己の心臓が勢いよく鼓動し、生きる威力を感じた。


「都合のいい捉え方だろ? でもいいんだ。これで俺は前に進める。あなたを憎まずにあんたを倒す滅茶苦茶キレた考え方だ」


 士降は人差し指を立てて言う。

 

「冴えてるだろ? おかげで最近はよく眠れてるよ」

「何を馬鹿な……」


 ジンは士降の言っていることが理解できず、困惑していた。


「でもさジン、あんたにも感謝しているんだぜ?」

「なに……!?」

「あんた言っただろ? 俺が助けた人間の中に人殺しがいるかもしれないって。考えたさ。救った人間が他の人を殺したらどうするかって……だとしても、俺は戦うのをやめない。一人でも正しい道を往く人がいるのなら、見殺しにするわけにはいかない。それを気付かせてくれたのはあんただよ、ジン」


 ジンはワナワナと震えながら顔に手を当て、ギリリと奥歯を噛み締めた。


「倒すべき敵に感謝するだと?……馬鹿な……いくらなんでも甘過ぎる……善性が強いからで片付けていい範疇じゃない……! そんな甘さでこの先の戦いを勝ち進める訳がねぇ……! いや、甘すぎたのは俺か」


 ジンは顔に手を当てたまま天を仰ぐ。


「いいぜ……お前の大切な奴を全部この手で消してやる! シオンも! バンビも! ミラも!  第七師団全員、お前の目の前で殺して――」


 ジンが士降を睨みつけたその瞬間、顔面に鋼よりも硬く握りこまれた拳が炸裂する。

 轟音が鳴り響き、ジンは真っ直ぐにぶっ飛ばされ、直線状に合った岩盤や岩山を破砕して数百メートル先の林まで転がってようやく止まる。


(なっ……んだ……今の一撃……!? 今まで喰らったあいつの拳の中でもダントツにッ……!)

 

 吹っ飛ばしたジンを追いかけ、士降もその場に着地する。


「言ったろ。ちゃんと弁えてるって」


 手首をゴリゴリと回しながら士降は言う。


「今の俺は、誰にも負けねえ!!」


 敵を憎むより、誰かを守るために振るう拳の方がずっと強い。

 弟切想一はそういう人間なのである。


 その想一が迷いもなく、百二十パーセントの力で放った一撃は、ジンの予想を遥かに上回った。 


「……は」


 倒れ伏しているジンは、一言だけそう漏らした。


「ハハハハハハハ! ッハハハハハハハハハハハ!」


 ふらつきながらも、哄笑を轟かせながらジンは立ち上がった。


「面白れえ! だったら俺を倒して見せろ!!」


 ハンネス湖での戦いはクライマックスを迎える。 

第56話、いかがだったでしょうか。




宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。




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