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第54話 Alchemy Striker / Veronica

 ウリコさんは奥の一室に踏み入れる。俺も続いて部屋に入ると、中は真っ暗だった。

 カチッ、と灯を付ける音が耳に入る。一気に部屋の中が青白い光に包まれて目が眩んだ。


「まぶっ……し……」


 青白い空間は、まるでガレージのようだった。

 その奥に厳重にガラスケースに保管されている物がある。


 あれは……スーツケース?


「ソーイチ、こいつをその辺に持ってけ」


 ウリコさんはガラスケースを開錠し、俺に運ぶよう促した。

 ……なんだ? えらく重いぞ? このスーツケース。俺ですらずっしり感じるこの重さ。ミラさんでも持ち運べないんじゃないか? 一体何が入ってるんだ?


「よし! 床に置いて開けてみろ!」


 言われるがままに俺はスーツケースを開ける。

 すると中に入っていたであろう物質が、ケースと共にガチャンガチャンとどんどん変形していき、最終的にはある姿を形作った。


 目に飛び込んできたのは巨大な鋼の塊。

 二つの車輪を付けたその錬金器具は俺のよく知るアレに似ていた。


「バッ……バイク!?」


 そう、真っ黒なオンロードバイクのような見た目をしてる。アクスルシャフト(前輪の真ん中を通っているシャフト)に鋭いニードルのような兵装が取り付けられていた。


「自動二輪型装甲駆動兵器:Alchemy Striker、通称アルケス。パラディオーディナー同様、まだどこにも報告していない俺様の超超最高傑作だ。こいつに錬脈回路を繋げ、生命力を流し込むと車体が強化され、どこまでも加速していく。最高速度は亜音速も凌駕するが、無論そこまで加速できる錬金術師は連合にはいない。それどころかこのじゃじゃ馬ちゃんをまともに扱える奴すら現れなかった。お前を除いてな!!」


 例によってビシッと人差し指を突きつけられる。

 ちょっとちょっと、すごいじゃないですか!!

 実のところ、二輪の免許は既に取得済みである。大学時代は父親のおさがりのバイクで通学したものだ。現代のバイクと同じような操作方法なら俺にも乗りこなせるだろう。


 早速このバイク……アルケスに跨り、グリップを……あれ? ハンドルがない。


「焦るなよ。こいつはグリップも特別なんだ」


 ウリコさんは両手にグリップらしき物を握っていた。


「外した状態のこいつに生命力を流してみろ」


 グリップを受け取り、ブレーキレバーを握りながら生命力を流し込む。すると――


「うわっ」


 グリップの先端が変形し、青龍刀のような光子の刃が飛び出してきた。

 ライトグリップは雷が、レフトグリップには冷気が宿っていた。


「かっちょいいだろ。パラディオーディナーに迫る出力のエレメンタルジェネレーターだ。あれよりは多少使いやすいだろうよ。右がヴェロ、左がニィカだ」


 うおおおああマジか! めっちゃロマン武器じゃん! ウリコさんすげえ! 男の子のツボめっちゃわかってるよこの人!


「普段はアルケスのハンドルとして取り付けられている。鞘に収めてやんな」


 改めてヴェロ・ニィカをアルケスに収める。おお、めちゃめちゃしっくりくる。

 てのひらから錬脈回路がハンドルに繋げられ、マシンが起動する。


 うん、行ける!


「行ってこいソーイチ!」


 俺がヴゥンヴゥンとアクセルを蒸かすと、ウリコさんがガレージのハッチを開けた。

 

「ミラを頼む」

「はい!」


 返事と共に、体中がひびわれ、白い光が亀裂から漏れだす。


「錬金……!」


 発進と共に、俺だった破片がパラパラと宙を舞い。歪な軌跡を描いた。


 既にメーターは300を差していた。恐らく時速300km/h、ただの人間だった俺なら乗りこなせるはずもなかった。

 士降の力で強化されている俺の動体視力、反射神経はこの倍のスピードでも緻密な動作を可能にするだろう。何があっても避けられる自信がある!


 行先はクリスさんから聞いてある。トニックさんから貰った首飾りも同じ方向を差している。ミラさんはジンと対峙しているはずだ!

 一気にスピードを上げてミラさんの元へ辿り着く!

 

 エンジンを思い切り絞り、加速していく。メーターは既に900を差していた。


 これなら……すぐに追いつく!!


 気が付いたら俺は音を置き去りにしていた。

 

 


 ◇◇◇◇◇




「殺れ」

 

 死刑執行の判決。

 ジンが親指を落とすことが合図となる。


 猪と豹がそれぞれの獲物を光らせ、ミラににじり寄る。先ほどの仕返しのつもりだろう。


(すまない……みんな……)


 二体の凶刃がミラを刺し貫こうと振りかぶられる。


(すまない……ソーイチ君……!)


 かぎ爪と二又の槍がその柔肌を穿つその直前――


 ヴヴン! ヴヴン!!


 聞くものを威圧するような重たい駆動音、鋭い殺気によって、豹と猪は手を止めてしまった。


「来たか!」


 ジンは待ちわびた乱入者のエントリーを感じ取り、歯をむき出して笑う。


 音速を超えた鋼の駆体は崖の上を跳躍し、ミラと二体の幹部級の間に降り立った。

 豹は大きく飛びのき、猪は半歩遅れて距離を取る。が、士降は巨大な駆体を軽々と持ち上げ、ジャックナイフの要領で、後輪を使って猪を跳ね飛ばした。


「ミラさん!」

「ソーイチ君!? ……何故だ……何をしに来た!!」

「俺、言いました! 一人でも戦うって!」

「……っ!」

「世界中の誰が敵になろうと、連合軍みんなが俺を狙おうと、戦います!






 あなたを、シオンを、バンビやみんなを守ります!」

「っ……君はどこまでもっ……!」


 士降は手を伸ばす。囚われのミラを救い出すために。

 だが、突然地面が隆起しミラと士降を別つ。遥か高くまで上昇したミラの傍にジンが降り立つ。


 蔦の触手を引きちぎるようにミラを己の近くに寄せ、駆け寄った豹に蔦を纏わせる。


「行け」


 触手ごとミラを背負った豹は、隆起した岩盤から飛び降り、駆けていく。時速200km/hはゆうに超えていた。


「待て!」 


 ミラを追うべく士降は方向転換してマシンを駆ろうとするも、魔獣や怪人達が士降に飛び掛かった。


「邪魔をするな!!」


  群がる怪物共を、士降は前輪を軸にアルケスを横回転させて挽き飛ばす。

 その過程で気付いた。仲間たちが捕えられてピンチに陥っていることを。


(まずはこいつらから砕く)


 ヴェロ・ニィカを引き抜き、アルケスから降りる。

 士降を囲むように幹部級は立ち構えた。


 一瞬の静寂が流れる。


 それを破ったのはカメレオンの幹部級だった。

 身体を透明化させ、死角から尖った舌を伸ばして攻撃した。


「がばっ……!?」


 が、士降が強化された五感で既にカメレオンを感知していた。

 伸びてくる舌を左剣で受け止める。舌先はニィカの冷気で凍て付き砕け散った。


 それを皮切りに火蓋は切って落とされる。


「死に晒せ!!」


 ヤマアラシが士降に向けて、針を大量に飛ばす。士降は手首のスナップを利かせ、流れるように針をはたき落としていく。


 その左腕を絡めとる者がいた。蔦の幹部が触手で士降の動きを封じようとした。


「ははっ! 終わりだ!!」


 矢継ぎ早にヤマアラシの針が士降に襲い掛かるが、士降の硬質なボディには全く歯が立たず、巨針はその甲殻に触れた先から砕けていく。


「なにぃ!?」


 驚愕するヤマアラシに見向きもせず、士降は触手にヴェロを軽く当てる。

 バヂィッ! と弾ける音がして、触手越しに蔦は感電し、真っ黒に焼き焦げてしまう。


「このっ!」

 

 猪は巨体を活かしパワフルに槍を突き出すも、士降の体さばきに翻弄されてしまう。

 ヴェロ・ニィカ、両グリップの頭を連結させ、双刃刀にモードチェンジして対峙する。


 猪の槍を雷の刃で受ける。すると猪は流れる電流に感電させられ痙攣してしまう。

 返す刃で氷の刃で斬りつけると、槍はたちまち凍りつき、砕け散ってしまった。


「はああああああ!!」


 士降は連結させたヴェロ・ニィカを回転するように振り回し、雷氷轟く竜巻を作り出して四体を巻き込んだ。


 浮かび上がった幹部級の一人、蔦目掛けて士降は飛ぶ。双刃振り上げて二度斬りつけた。

 蔦は忽ち凍りつき、稲妻のように身体がひび割れて砕け散った。


 標的はヤマアラシに移る。竜巻によって頭から落ちたヤマアラシは脳震盪を起こし、辺り構わずに針を射出し続けていた。


「来るな……来るなあ!!」


 何度針を撃とうが士降の甲殻には文字通り刃が立たない。すぐに距離を詰められ、連結を解いた双剣にてなます斬りにされ、倒れたところを追い打ちの如くニィカを突き刺され砕け散った。


 その隙を突くかのようにカメレオンは士降に飛び掛かるも、士降はヴェロ・ニィカの刃を交差させ、枝切ばさみのような形を作った。


「ぎぃゃっ」


 カメレオンの身体はその氷雷のギロチンに胴体を挟まれ、そのまま真っ二つに千切られてしまった。


「なんだ……なんなんだ! 貴様は!?」


 猪は三体の同胞が惨殺されたところを見て、圧倒的な力を持つ士降に恐怖を抱き、その場から逃げ去ろうとした。


 士降はヴェロ・ニィカをアルケスに差し込み、再びエンジンを蒸かす。

 逃げ惑う猪を追跡し、ウィリーで持ち上げた前輪を猪に叩きつけた。


「ぐぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 そのままゴリゴリゴリと回転数を上げ、猪を削り挽いていく。

 ボチュン! と何かが飛び散る音と共に戦いは終わりを告げた。


「……!」


 周りを見渡すと、いつのまにか仲間たちは大地の檻から脱出していた。

 後に残されたのは戦いの勝者である士降と、その凄惨なる戦いに恐怖し怯えた目をした傍観者たちだった。


「…………」


 士降は仲間たちの安否を確認し、攫われたミラを救出すべく、キュララララとアクセルターンをかまして豹の幹部を追いかけて行った。

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