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第53話 友を想う

 俺の処遇が決まったらしい。なんでもこれから火の国に輸送されて労働者として暮らすそうだ。

 だが俺にその気はない。ケイトさんやモカさんとのやり取りで決めたんだ。


 例え俺が戦うことで誰かが傷ついたとしても、助けられる命を見殺しにする理由にはならない。誰かを傷つける以上に誰かを救い続ければいい。

 例え俺は一人になっても戦うって決めたんだ。


 あれから色々考えたさ。ミラさんのことだって。

 俺は彼女に切り捨てられた。

 でもなんだか不思議なんだよね。あんなにこっ酷く裏切られたってのに、今になっても彼女を心の底から恨むことができない。憎むことなんて、とてもできないんだ。

  

「ミラさん、どうかお元気で……」


 とにかく、ここから出よう。決行時間はケイトさんが居眠りをしているタイミングだ。

 彼女が交代の時間に寝ているかどうかは、正直時の運でしかない。

 

 居眠りすることなくモカさんと交代するときだってある。だからそれを確実にさせてもらう。ケイトさんは毎日夜十時頃にカフェオレを飲む。居眠りしないための措置だろう。まあ、飲んでも寝る時は寝るのだが。


 だから予め冷蔵庫に入っている牛乳に錬成した睡眠薬を混ぜた。

 実はAWDCにいた時にクリスさんから教わっていたのだ。何かと役に立つからと。


 後は時が来るのを待つだけだ。そう考えていたら、出入り口からノックの音が聞こえた。


「はいはーい。どちら様でありますかー?」


 ケイトさんがぱたぱたとドアに近づき、鍵を開ける。入ってきたのはウリコさんとクリスさんだった。


「これはこれはウリコ局長殿にクリス回路師長殿! 何故こんなところに御足労を!?」

「そいつ、ソーイチをしばらくうちで預かりたい」


 へ? 俺を?


「きゅ、急にそんなことを言われても! 許可できないであります! わたくしめはソーイチ殿をここから出さないように指示を――」

「あー、ジンバッグ・アルファウルブズの体表組織を調べたところある事が見つかった」


 ウリコさんがダルそうに書類をひらひらとチラつかせながら解説し始めた。


「この鉱石状の組織には強毒性のウイルスが含まれていることが判明した。鉱石の粉末や粒子が人体に付着したとき、直ちに影響はないが後々高熱を出す可能性があることが解明された。おいソーイチ。お前ジンバックからなんか受け取ったろ」

「えっと……」

 ウリコさんが俺を睨みつけてそう言った。 

 ジン……トニックさんから受け取ったものと言えば一つしかないんだけど…… 


「これ……ですかね……」


 俺はあの時トニックさんから受け取った鉱石のお守りを取り出した。


「おーおー、それだそれ。まさにジンバックの体表組織じゃねーか」

「ちょおっ!?」


 ケイトさんが「どっひゃあ」ってリアクションをしながら飛び退いた。


「それじゃあソーイチ殿は熱に冒されてしまうのでは!?」

「おー、そうなるな?」

「ソーイチ殿と共に過ごした我々もその毒牙に!?」

「おめーこの鉱石触ったか?」

「いえ、わたくしめは触っていないであります」

「んじゃあ大丈夫だ」

 

 ウリコさんはケイトさんを適当にあしらって俺の元に来る。


「このままじゃパンデミックだ。おめーはこれからうちのラボに来て検査漬けになってもらうぜ。いいよなあ? 看守の嬢ちゃん」

「それはもちろん構いませぬが……わたくしめと相方も検査した方が良いのでは……?」

「あーいらんいらん大丈夫だ。こいつは感染力は対して高くない。鉱石触った奴にしか移らんから安心しろよ」

「でも、パンデミックになるって――」

「こまけえこと気にすんなよ。専門家がそう言ってんだから安心しろよ。クリス、嬢ちゃん落ち着かせてやれ」


 クリスさんが錠剤と水を持ってケイトさんに渡す。


「急にびっくりさせてごめんなさいね? パニックになる気持ちもわかるわ。でも市民に混乱を招くわけにもいかないから落ち着いてね? はいこれ、気持ちが落ち着くからゆっくり飲んでね」

「は、はあ……どうもであります」


 クリスさんに促されてケイトさんは錠剤を水で流し込んだ。すると――


「スピー」


 一瞬で眠りに落ちてしまった。


「あ、あの――」

「おーおー、安心したのか眠っちまったなあおい。いやあ悪いことしたなあ。ここはささっと撤収して検査だな! うん、そうしよう」


 ウリコさんは俺の手を引き、クリスさんは俺の背中を押して部屋を出た。

 

 なんだなんだ一体何なんだこのスピード感。せっかく立てた作戦が台無しじゃないか。




 ◇◇◇◇◇




 ウリコさんとクリスさんに連れてこられたのはAWDCだった。


「一体何なんですか急に。俺、身体なんともありませんよ。俺の身体よりケイトさんやモカさんの方が――」

「ウイルスが発見された、と言ったな。あれは嘘だ」


 今明かされる衝撃の真実。いや、なんかそんな気はしてたけどさ!


「まあ仮に毒なんてもんがあったとしてオメーに効くわけもねえんだけどな。塩には消毒作用がある。極まった士降の錬金術を扱うお前にはどんな強毒も通じねえだろうよ」

「じゃあ一体なんだってこんなことを――」

「錬金連合軍上層部からの通達で士降への処遇が決まった。見つけ次第抹殺だとよ」


 な、なんだって!?


「そんな……俺、みんなと争う気なんてないのに……!」

「上が何考えてんのかなんて俺達にもわかんねえし、んなことは重要じゃねえ」


 ウリコさんは眼鏡のブリッジを指で叩きながら俺を見据えた。


「ミラの野郎は最後までそれに反対していた。お前は危険な存在じゃないってな」


 ……ミラさんが俺の為に……?


「ミラは最後までお前のことを庇っていたぞ。それでも上層部の命令は覆ることはなかった」

「そこでミラはあなたを守るためにある決断をしたの。あなたを追放することで、連合軍から追い出すことで処刑の魔の手からあなたを遠ざけようとした」

「……じゃあミラさんが俺を追放したのは……」

「お前を守るためだよ。お前に二度と士降の力を使わせないようにな。その為に小細工も使ったもんだ。お前が以前救った第三師団のメンツが、酔っぱらって一般人を殺害したってデマをお前に吹き込んだ。お前の戦意を削ぐ為にな」 

「じゃあ、第三師団の人達は!」

「誰も殺しちゃいない。お前の救った人間は、誰も殺しちゃいないんだ」

「…………」 

「んで本題はこれからだ。数時間前に敵性生命体が出現し、ミラ達が向かった。その先に恐らく……ジンバックもいるだろう」


 ウリコさんは神妙な顔で言い辛そうに俺に訴えかけた。


「はっきり言って連合国に勝ち目はない。四始祖一人にすら束になっても太刀打ちできない。このままだとミラはこの戦いで命を落とすだろう。仮に今回は助かったとしてもいずれ必ず命を落とす。だからソーイチ、お前に戦ってほしいんだ。」

「虫のいいことを言っているのはわかっているわ。連合国は今後もあなたを狙うでしょう。それでも、私達は友人を見捨てることができない……お願い、ソーイチ君。 どうか、どうかミラを――」

「ありがとうございました」


 俺がそう言うと、俯いていたクリスさんはハッとした顔で顔を上げ、ウリコさんも呆気にとられた顔をしていた。


「俺、よかったです。最後までミラさんを恨まずにいられて。こんなにも俺のことを思ってくれたミラさんを憎まずいれて、本当に良かった。だから、ありがとうございました。俺、より一層覚悟決まりました」


 二人は動かずに、俺の目を真っ直ぐに見つめている。


「俺、一人でも戦います。みんなの為に。ミラさんの為に」


 俺がそう言うと、しばらくの間静寂が流れた。

 ウリコさんは噛み締めるように細かく頷き、そして立ち上がった。


「ついてこい。お前に託したいものがある」

第53話、いかがだったでしょうか。




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