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第52話 ミラ・ミカエリスの戦い

 ミラ、ガルドス、ブリジラの錬金器具に通信が入った。

 再び三ヵ所で敵性生命体の同時発生が起こった。

 前回と違って距離は離れており、第七師団はグラニデから出た最も遠い場所への出向となった。


「リノ、後のことは頼むぞ」

「了解。団長こそお気をつけて」


 第七師団は二班に別れることになる。有事の際にグラニデを護る別動隊が必要になるからだ。ミラ率いる第一班がハンネス湖へ出撃し、リノ率いる第二班がグラニテで待機となる。


「第一班、総員出撃準備完了しました!」

「よし! これより第七師団第一班は敵性生命体討伐任務へと赴く! 総員私に続け!!」


 ミラを初め、第一班を乗せた馬車が疾風の如く駆けていった。


「……」


 リノ・クノケロスはそれを静かに見送り、彼らの姿が見えなくなると同時に振り返った。


「行かなくてよかったのですか?」


 リノの視線の先には、俯き目を伏せているバンビの姿があった。


「ソーイチ・オトギリに肩入れしすぎたのではないのですか?」

「そんなんじゃないし……」

「はぁ……」


 リノは煮え切らないバンビの様子にため息をついた。

 

「まあ、隊長に不信感を抱いている者を戦場に出すわけにもいきません。今回は大人しく待機するのが正解かもしれませんね」


 リノがそう言って踵を返すと、第二班はそれぞれの持ち場へと戻って行った。




 ◇◇◇◇◇




 ハンネス湖。土の国では数少ない水源地。そこにジンは敵性生命体の集団と待ち構えていた。周辺地域に住んでいた人々をある程度殺害し、来る師団を返り討ちにすべく怪人達を待機させていた。


「……来たか」


 程なくして第七師団第一班が到着し、ミラとジンは睨み合った。


「……ソーイチの姿が見当たらないな」

「彼なら……来ない……!」


 問いに答えるミラにジンは眉を顰めた。


「なに……?」

「彼は師団から追放された。貴様を招き入れた罪を糾弾されてな」

「はっ……バカ言え。あいつ以外に誰が俺を殺せる?」

「貴様を討つのはこの私だ……」


 キィ……とミラは腰のサーベルを引き抜き、ジンに突きつけた。


「もう彼には戦わせない。貴様らヘルメスの使いの野望は我々が打ち砕く」

「はぁ……」


 ジンは顔に手を当て、天を仰いだ。ままならないものだなと、愚か者の考えは理解できないと頭の中で反芻した。


「……お前ら全員、ここで死ぬぞ?」

「死を覚悟していないものなど、ここにはいない!」


 そう発し、ミラはジンに切りかかる。それが号令となり、戦闘部隊は雄たけびをあげながら敵性生命体の群れに突撃していった。


 ミラの炎剣がジンに届くその直前、横から豹の幹部級が立ちはだかり、手甲に装着したかぎ爪で炎剣を弾いた。


「くっ!」


 くるりと身体を翻してミラは着地する。周りを見渡すと、豹を合わせて四体の幹部級がミラを取り囲んでいた。

 それぞれ、猪、蔦、ヤマアラシの意匠を象っていた。


「俺を相手取るんならこれくらい捌いてもらわないとな」


 ジンはポケットに手を突っ込みながら悠々とミラを挑発した。


「……私も本気を出すとしよう」


 ミラの紅の髪が風に靡いたかと思いきや、燃え盛るような紅蓮の炎を纏った。

 引き抜いたサーベルに加え、もう一本差していた短いレイピアを逆手に持つ。

 ミラ手には二刀の炎剣が燃え盛る。


 この形態は、ミラの全力形態。生命力を出し惜しみせず肉体強化と炎の強化にブン回し、寿命と引き換えに強力なパワーと俊敏さを手に入れたのだ。

 過剰なエネルギーは炎の形をしており、紅髪から放出される。


「来い……!」


 ヤマアラシの幹部級が背中に装備している大量の巨針をミラに打ち出した。

 ミラはそれを跳躍して回避し、炎の斬撃を放つ。


 空中のミラを捕えようと、蔦の触手がミラに襲い掛かる。

 触手を炎剣で焼き払いつつ、ミラは地面に着地する。


 続いて猪の幹部級は手にした二股に別れた長い槍をミラに突き出す。

 左に横転して回避し、斬撃を猪に浴びせる。


 攻撃の隙をついて豹がミラの胴体をかぎ爪で貫いた。


「なっ……!」


 ……かに見えたが、豹が突き刺したのは陽炎で作った幻影。呆気に取られている豹は火柱に飲み込まれた。


「ほお、中々やるもんだな」


 ジンは感心するようにミラを眺めていた。


 ミラは囲まれた状態から縦横無尽に駆け回り、できるだけ敵と自分の位置が直線状に並ぶように立ち回り、一対一を相手取るように戦っていた。

 能力が上回る幹部級を複数相手取るには、立ち回りこそが重要。

 強化されたミラの身体能力と長年の戦いで培ってきたミラの戦闘センスによって、圧倒的に不利な状況を覆している。


(これなら……いける!)


 既に二体の幹部級に手傷を負わせたミラは畳みかけるように前に出る。

 一体一体各個撃破こそ戦闘の基本。重傷を負った豹の怪物にトドメを刺そうとミラは斬りかかる。

 ――が、


「ぐぅっ!……あっ……!」


 無防備なミラの背中を何かが貫いた。剣を振り上げている右肩に穴が開いており、鮮血が噴き出している。


(一体……何が……!)


 右肩を抑えながらミラは振り返ると、透明な何かがゆらゆらと蠢いているのがわかる。

 

「そう簡単にはいかないってわけだな」

 

 ジンがそう言うと謎の物体はスゥー……と、その姿を現した。

 それはカメレオンの姿を模した幹部級怪人だった。


「目に見える敵に気を取られ過ぎだ。だから足元をすくわれる。ちゃんと寝ているか?」

「ぐっ……!」


 立ち上がろうとするミラを豹が蹴り飛ばす。ジンが豹と猪に触れると、二体の傷はたちまち癒え始め、全快にまで持っていく。


「馬鹿なっ……」

「な、言ったろ? あいつ以外じゃ俺は殺せないって」


 蔦の幹部級は触手を伸ばしミラを締め上げた。既に全力形態は解かれていた。


「ぐあっ……ああっ!……」


 ギリギリと全身を締め付けられるミラは苦悶の表情を浮かべる。

 宙づりにされ、ジンの元へと引き寄せられた。


「そしてこうも言った。全員死ぬぜ? ってな」


 タン、とジンは足下をつま先で叩いた。

 すると、周りで戦っている第七師団の隊員たちの足下が一気に崩れ始め、そのまま身体の半分を地面に埋もれさせてしまう。ジンがもう一度つま先で足下を小突くと、液状化した地面が固まり、隊員たちは拘束されてしまった。

「はいお疲れ。詰みだ」


 ジンは隊員の足下のみをピンポイントで液状化させた。戦っていた怪人や魔獣は今も自由に動き回っている。動けなくなった獲物を仕留める為にジリジリと近寄っている。


「よ、よせ……やめろ!!」


 ミラは動けなくなった身体で必死に藻掻くが、雁字搦めになった触手を振りほどくことはできない。


 ハエの姿をした怪人の爪が、団員の一人の頭部に突き刺さるその直前――


「ストップ」


 ジンが拳をグッと握ると、従っている怪物たちの動きがピタッと止まった。


「どうだいしだんちょ。これでわかったろ。お前たちじゃ逆立ちしても俺に勝てない。もういいだろ。いい加減あいつを呼べよ。じゃなきゃこのまま全滅だぜ?」


 ジンの言う通り、第七師団は、完全なる敗北を喫した。形勢逆転はまず不可能だろう。


 それでも――


「ソーイチ君は……来ない……!」  

 

 ミラは頑なにそれを拒んだ。


「……おいおい勘弁しろよ。これでも俺はあんたのこと結構気に入ってるんだぜ? 俺にあんたを殺させてくれるなよ」


 ジンは冷たい表情でミラを見つめた。つまらなそうに耳をかきながら口を開いた。


「大方あれだろ。錬金連合軍のお偉いさん方があいつを危険視して変な命令でも出したんだろ。わかるぜ? どの時代でも馬鹿な権力者のやることは同じだ。安心しろよ、そいつらも直に俺達が殺してやるから」

「来ない!……彼は絶対に……!」


 ミラが言葉を発する度に蔦の触手がギリギリと彼女を締め上げる。

 気道を抑えられ、苦しそうに呻き声をあげるミラ。

 それを見てイラつきながらジンは蔦を制す。


「わかんねえな。なんでそんな意固地になる。呼べば助かるかもしんねえんだぞ? お前だけじゃなく、他の隊員もだ。失望させんなよミラ師団長。お前には隊員の命を救う義務があるはずだ。あんだろ? 通信手段が」

「彼はもう……戦えない……戦う理由がない……」

「あ?」

「私がそれを奪ったんだ……貴様に加え、私が彼を裏切った。情報を操作し、彼の信じるものを砕いた……だから仮に私が助けを求めたところで、彼は動かないだろう……保身の為に自らを裏切り、切り捨てた者を誰が救おうと思うものか……」

「……チッ!」


 ミラの言葉に苛立ったジンは、ミラの喉元を鷲掴みにし、ぶちぶちと触手を引きちぎるように首を締め上げた。


「俺の見込み違いか? 俺言ったよなあ!? あいつがあいつでいられるのは、お前がいたからだって! お前がお前でいることがあいつの善性を強く保つことにつながるって! それをお前が壊してどうする!? お前がソーイチを汚したんだ! わかってんのか!? ああ!?」


 今までにないほどに激昂するジン。ミラは頸動脈を締め上げられる苦痛に喘ぎながらもそれに応える。


「言っ……ただろ……買い被り……過ぎだと……」 


 ミラの返答を聞いてギリィっと歯を軋らせるジン。その歯牙は火花を放つほどに強く噛み締められていた。

 ジンは締める手を緩め、再び蔦の触手の中にミラを埋めた。


「俺の目が曇っていた」


 踵を返してミラから身体を背けるジン。


「もう用はねえ」


 ゆっくりと右手を真横にあげて親指を立てた。


「殺れ」


 そのまま手首を翻して親指を下へ落とした。それは処刑の判決が下った合図だった。

第52話、いかがだったでしょうか。




宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。




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