第50話 抹殺命令
「――私からの報告は以上です」
時はミラと想一が酒場でジンと別れたところまで遡る。
その後ミラは敵性生命体対策会議にウリコ・カヘラテと共に出席し、ヘルメスの使いの件を報告した。
「ミラ師団長が回収した対象Aの体表組織と思わしきこの鉱石ですが、現代の錬金術ではとても再現できない代物ということが発覚しました。この欠片だけで莫大なエネルギーが込められております。それを全身に纏っているとすると、単独であれだけの規模の地殻変動を起こすことは可能だと思われます。そしてそれを実現できる錬金術師が過去にいるとすれば――」
「やはり四始祖のジンバック・アルファウルブズか……」
研究室で見せるギラついた態度とは打って変わって冷静沈着な印象を受けるウリコの報告に対し、ドルクスは眉をひそめた。
「そしてその正体が君たち第七師団と行動を共にしていたトニック・クォーツァーだと」
「おっしゃる通りです。総団長」
「何を開き直っているのです? 危機感の足りないミラ師団長」
ドルクスの言葉を肯定するミラに対して、ブリジラは青筋を立てて抗議した。
「わかっているのですか? あなた達が軽率に怪しいものを招き入れたせいで私の部下が惨殺されたのですよ? どう責任を取ってくれるのですかええ!?」
「それは……」
「ブリジラ、君の憤る気持ちは理解できる。だが今は責任の所在よりも、今後どう戦っていくかが問題だ」
ガルドスは憤るブリジラを窘めるが、ブリジラの怒りは収まらない。
「他人事だとお思いで! あなたに部下を殺された私の気持ちは――」
「ブリジラ師団長」
ドルクスの声掛けにブリジラは口を止める。
「君の胸中は察するに余りある。が、ジンバックは自由に大地の中を移動する能力を持っている。第七師団を経由せずにこの都市に侵入することなど容易い筈だ。遅かれ早かれ被害は出ていた。ミラ師団長ばかり責めるのは酷だというもの。ここは堪えてくれ」
ドルクスの弁護にブリジラは口をつむぐ他なかった。
「そして四始祖の復活や敵性生命体を束ねている諸悪の根源というのが終わりの錬金術師か……一体何者なのか……何故この国の人間を皆殺しにしようなどと考えているのか……」
ドルクスがそう発すると、その場の全員が考え込むように押し黙る。
「終わりの錬金術師に四始祖、それに加えて士降という危険な存在。……一体どうなっているのだ……」
ガルドスが苦々しく噛み締めてそう発現すると、ドルクスは応じるように口を開いた。
「そう、士降の処遇について上層部からの通達があった」
ドルクスの言葉にミラとガルドスが大きく反応を示す。
「錬金連合国特別執行局からの通達を伝える。極力秘密裏に捜査し敵性生命体同様、発見次第、抹殺せよと」
ドルクスの宣言により、その場にいる全員に激震が走った。
「お待ちください! 総団長!」
ミラは即座に立ち上がり、抗議の意を示した。
「士降は一度のみならず、二度、三度も我々第七師団を危機から救いました。討伐の対象から外すべきです!」
「地殻変動の件、そしてアルファウルブズとの接触の件か。明らかにそうだと言える証拠はあるのか?」
「それは――」
「いずれにしろ、連合国の命令は絶対だ。君個人が士降に特別な感情を抱いたとしても、覆すことはできない」
「……っ!」
本来なら前回の会議で秘密裏にドルクスとコンタクトを図り、想一のことを報告しようとしていたミラだが、正式に粛清対象と明言された今、想一の正体を明かすことができなくなってしまった。
仮に今、想一が士降だと明言したとして拘束されて処刑されてしまうのがオチだ。
「以上を以って会議を終了とする。各員、健闘を祈る」
◇◇◇◇◇
「ソーイチの正体を伏せておいて正解だったな」
AWDCの一室でウリコがタバコを吸いながらミラに投げかけた。
テーブルの上にはコーヒーが入ったカップが二つ。ミラの分は口をつけられていない。
「にしても抹殺たあ、随分穏やかじゃねぇなあ。上層部の奴は一体何考えてんだか」
「…………」
「……おい、なんとか言えよ。ミラ――」
「決めた」
ミラはコーヒーを一気にあおり、立ち上がって隊服に袖を通した。
「決めたって何を――」
「ソーイチ君を師団から追放する」
「はあ!? 追放って……お前……」
「これ以上彼を巻き込むわけにはいかない。敵性生命体も四始祖も終わりの錬金術師も我々の手で解決する」
「バカお前っ……俺の話聞いてなかったのか!?」
ウリコは部屋から出ようとするミラの腕を掴み、その場に留まらせる。
「師団長クラスが何百人束になってかかろうが、四始祖一人倒すことすら不可能だ。奴らは次元が違い過ぎる。天変地異に立ち向かうようなもんだぞ!! その上そいつら全員を縛り付けるような力を持つ終わりの錬金術師が控えているんだ! 他にどんな戦力を抱えているかわかったもんじゃない! 勝てないんだよ! この戦いは!!」
そう、敵性生命体を倒し続けるのがやっとである錬金連合国の錬金術師達では、四始祖にはとても太刀打ちできない。
現状の戦力のまま戦っても、いずれ四始祖に蹂躙されて国が滅びるのは火を見るよりも明らかだ。
「『水銀』の錬金術師達に協力を要請する」
「あいつらは確かに強力だが、四始祖はそれを上回る『銀』の称号を持ってるんだぞ! まともに戦えば分が悪いのはわかりきってるだろうが! 奴らに太刀打ちできんのは起源にて至高の錬金術である士降の力を持つあいつだけだ! 現にあいつは二度もジンバックを退けている。それをみすみす手放すなんて愚行に決まってんだろ!」
「その彼を敵と見做したのは連合国だ! 人々を護ろうと傷つきながらも戦う者が、護っている者に後ろから刺し殺されようとしている……そんなことがあっていいはずがない! 彼のような人間が処刑されるようなことなんて、あってはならないんだ……」
「ミラ……」
剥き出しの感情を向けるミラに、ウリコは気圧されてしまった。
「……あいつがそれで納得するような玉には見えねえぞ」
「そうだな。彼は一人でも戦い続けると言っていた。正直に事情を話しても、彼は戦い続けることを選んでしまうだろう。だから戦う理由を奪う必要性がある」
「……どうするつもりだ?」
「彼が慕う私が、彼を裏切る。冷たく突き放して切り捨てる。そうしたら想一君は人間に失望するだろう。トニック・クォーツァーに加えて私、信頼する人間二人に裏切られたのだからな。護るべき存在に裏切られれば、彼も戦う理由をなくすはずだ。もっともらしい理由をつけて軟禁し、頃合いを見て敵性生命体が出現していない火の国へ送る。そうすれば彼はもう戦うことがないはずだ」
「そう簡単にうまくいくかね」
ウリコが怪訝な顔でミラを見やる。
「そうだな……ダメ押しだ。看守伝てにある噂を彼に吹き込む」
「ある噂?」
「ソーイチ君はオクレイ高原で第三師団の面々の命を救っている。その一人が一般人を殺害した、という噂を」
「……テメエが救った人間が他人を殺した、って筋書か」
「そうだ。心優しい彼なら心を痛めて戦うことに迷いが生まれるだろう。これが決め手になるはずだ。彼の心を折るダメ押しのな」
「悪趣味な奴め……」
「なんとでも言え。もう決めたことだ」
そう言ってミラはウリコの腕を振りほどき、AWDCを後にした。
「…………」
残されたウリコはミラが飲み干したコーヒーカップを静かに見つめていた。
(ミラ……お前、このままじゃ……)
真っ白なカップにこびりついたコーヒーの黒い跡は、現在のミラを表しているようだった。
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