第45話 土偶
「ソーイチ君、今日は少し私に付き合ってくれるか?」
「へ?」
ミラさんの突然の申し出に俺はちょっと面を食らった。
あれ? 俺、今なんの話してたっけ?
ミラさんに心配をかけたくないからいつも通りのテンションでいたけど、会話が頭に入ってなかった。
「色々なことがあり過ぎて私も少し疲れてしまってな。もう少ししたら会議があってね、報告することをまとめる為に少しゆっくりしたかったんだが……」
そうか。トニックさ……ジンの件を報告しなきゃいけないのか。
大変だな。師団長って。
……いや、違うな。きっとミラさんは俺を気遣ってくれているのだろう。
多分俺の今の振舞いになんらかの違和感を感じているんだろう。
やっぱ誤魔化すのが下手なんだろうな俺って。
……でもその気遣いはとてもうれしい。
素直に甘えるとしよう。今は少しでも気を紛らわしたい。
あの男のことを考えたくない……。
「俺は全然大丈夫ですけど……」
「そうか。それはよかった。実はいい店があってな」
そう言って先導するミラさんに付いていくと、十数メートル先にある看板が目に入った。
えーっとなになに? bar土偶……bar土偶!? なんだ土偶って! 土の国のお店だからってバーと土偶の組み合わせはちょっとないんじゃないか!? 名前がなんか……
「もうすぐ着く」
さすがにあの店じゃないよな……バーだし。俺酒飲めないし。
どうかあの店じゃありませんように。
「ここだ」
『bar土偶』
ここだったーちくしょー。センスゼロか。
「少しお茶にしよう。ご馳走する」
お茶って、ここ酒場じゃないか。
「俺、酒飲めないですよ?」
「ここはカフェもやってるんだ。甘いものは好きかな?」
「えぇ、そりゃあ人並みに」
ミラさんについて行き、このバー土偶とやらの扉をくぐる。
中は老若男女様々な顔の赤い人たちでとても賑わっていた。
「珍しいな。普段は静かな店なんだが。……なるほど、イベントか」
どうやらなんらかのイベントをやっているらしい。
ミラさんは奥のカウンターへと足を運んだ。俺もその後ろについていく。
向かって右から二、三席目だけが空いている。
ミラさんは左隣のお客さんに「お隣よろしいかな」と断りを入れる。お客さんもミラさんの姿を見て快く快諾していた。
俺もミラさんに習おう。一番右の人に挨拶だ。
「すみません、お隣いいです――」
か、まで言いかけた瞬間、
ゾワッと嫌な感覚が背中から走る。
なんだ? この悪寒。どこかで経験したことがある。
脳裏に浮かんだのは戦場。野生的で迸るようで苛烈で鮮烈な血の匂い。
いや、この匂い。ついさっきまで嗅いでいた匂いだ。
「ああ、歓迎するぜ」
隣に座っていた黒と金の長髪の男はゆっくりと振り向いて、ニタァと笑った。
ジンバック・アルファウルブズ……!
「っ!!」
席についたミラさんも奴の存在に気がついて、即座に立ち上がり、腰に提げた剣の柄に手を添えた。
カラン、と氷が揺れる音が聞こえる。
剣の柄を掴んだミラさんの手に氷がパチン当たった。
「しーっ……」
ジンは、唇に氷で濡れた人差し指を添えて深く息を吐いた。
「せっかく気持ちよく飲んでるんだ。こんなところで無粋な真似はやめとけよ師団長サマ」
ジンは砕けた氷をてのひらの熱で溶かして遊びながらニヤリと笑っていた。
「やりあうつもりはねえよ。ちょっと話をしに来たんだ」
話? 話だと? 俺達を騙しておいて今更なんの話をするって言うんだ。
ジンはグッと酒を飲み干してマスターに追加の注文をした。
「話、というのは?」
「話さ。世間話。たとえばそうだな」
ジンはからになったグラスの中の氷を回しながらこう言った。
「俺たちの話とか」
ジンの言葉に息を呑む。
俺たちの話って、敵性生命体の話ってことか……?
もしかしてこいつらの目的とか正体がわかるのか……?
ミラさんはマスターにアイコンタクトを送る。マスターもうなづいて、カウンターの扉を開けた。
「どうぞこちらに」
マスターの案内に従ってミラさんは中へと入っていった。
「奥で話そう」
「静かに呑むのが好きなのか?」
軽口を叩きながらジンも中に入っていく。
「どうした? 来いよ」
「…………」
遅れて俺も後を追った。
第45話、いかがだったでしょうか。
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