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第41話 外患誘致の罪人

「トニック・クォーツァーに外患誘致の疑いがあり、重要参考人として指名手配された。我々に課せられた任務は速やかに彼の身柄を確保することだ」

「…………は?」


 急に訳の分からないことを言われて頭が真っ白になる。


 トニックさんが指名手配? 何を言っているんだミラさんは。


 外患誘致って、敵と共謀して自国に対して武力行使させた罪のことだろ?

 それとトニックさんに何の関係があるっていうんだよ。


「何言ってるんですかミラさん。トニックさんが指名手配? 外患誘致? ……はは、まさか。そんなことあるわけないでしょ。大体、外患誘致ってなんですか外患誘致って。どこの誰と共謀してるって言うんですか? トニックさんが!」

「彼がアルファウルブズの傍系だろ言うことは覚えているか?」

「覚えていますよ! だからってトニックさんがあのジンバックとかいう奴と繋がってるって言うんですか!? そんなのおかしいです! 偶々昔の偉い人との繋がりがあって! それを名乗る不審者が出てきたからって指名手配なんておかしい!」


 だってそうだろ!? トニックさんは病で苦しんでいる人々を助ける為に危険を承知で旅をしている立派な人だ! 敵を傷つけることだけが戦いじゃないって言ってくれた志の高い人間だ!

 あんな……あんな楽しむように暴力を振るい、あるいは受けるような奴とは似ても似つかない。強い力に酔いしれてるような奴と関わりなんてあるわけがない!


「ソーイチ君、本当はね、アルファウルブズに傍系なんて存在しないんだ。ジンが血族全てを滅ぼしたという歴史が確かに存在する。彼は私達に嘘をついていたんだ」

「そんなのっ、何か事情が――」

「彼が泊まっていた宿の中に押し入ったが、彼は居なかった。代わりに一部の床板が剥がされ、地面が剥き出しになっていた」

「それがなんだって――」


 違和感と既視感。


 何故トニックさんはわざわざ床板をはがして仮宿を後にしたのか。

 剥き出しになった地面に対してできることに覚えがあった。


 ジンは地面の中を自由に行き来することができる。

 もし屋内で誰かを連れ出そうとしたなら、床材は邪魔になる。


 だから剥がした。



剥がすだけの理由は確かにある。


ジンはトニックさんを宿から連れ出したんだ。


「でもっ、だからってトニックさんが奴の仲間って決まったわけじゃない! 誘拐された可能性だってあるじゃないか!」

「そうだな……いずれにしろ彼を探さなければいけない」


 ミラさんは喚く子供を窘めるような顔を向けて俺の目を見る。


「協力してくれるね? ソーイチ君」

「……わかりました」


 トニックさんが俺達の敵なわけがない。それを証明して見せるんだ。

 その為にはトニックさんを探さなければならない。


「行きましょう」


 誰よりも先に俺が見つけ出すんだ。

 誰よりも俺が……!



 

◇◇◇◇◇




 既にトニック・クォーツァーの捜索は、グラニテに滞在する全ての師団の最重要目的として通達されていた。


「見ろよこの指名手配犯、あんときのクソ眼鏡だぜ」

「外患誘致だってよ。とんだ悪党じゃねぇか。そんなんでよく俺達に指図できたもんだよな。クソ野郎の分際で」


 第十一師団員の五人、想一を路地裏に連れ込んだガラの悪い五人も、トニックの捜索に駆り出されていた。


「あの糞尿野郎、こいつとなんか関係あんじゃね? こいつ捕まえたら次あいつ処刑しようぜ処刑」

「ギャハハいいねえ。懲戒じゃ物足りねえ。散々甚振って殺しちまおう。悪党と繋がってる大馬鹿野郎なんだから多少無理しても許されんだろ」

 輩BとC、ベミリとゲヘラは品のない笑い声を上げていた。

「あんときのカリを返してやる。俺にたてついたこと、後悔させてやる」


 リーダー格の輩A、ガジルはトニックへの恨みと正義の元にトニックを断罪できる大義名分を得た高揚感に顔を醜く歪めていた。


 五人は都市周辺に隣接されてある森の中を探索していた。

 大分人気のない深いところまで入って行ったせいか、彼らの下品な喚き声は森中を響き渡っていた。やがて広い空間に出る。


「ああ?」


 ガジルはきりかぶの上に座っている人影を見つけた。

 長い黒と金の髪にモノクル眼鏡。間違いなくトニックだ。


 「見つけたぜクソ野郎が!」


 ガジルは大声で怒鳴りつける。トニックはそれに気付くとゆっくりと立ち上がり振り返った。


「……ああ、最初に来たのは君達か……」

「最初? 何勘違いしてんだタコ。俺達で最後なんだよ。お前はここで半殺し確定だ」

「はは、怖いな。僕を半殺しにしてそれでどうなる?」


 トニックはいつもの物腰柔らかい言葉を使っているが、そこに何の感情も込められていない。想一に向けるような優しい声色の面影は一切残っていなかった。

 それにガジル達が気付くわけもなく


「決まってんだろバカが! 突き出すんだよ! こいつがクッソ汚らわしい犯罪者ですってなあ!? そしたらソーイチだったか? あの薄汚い糞便野郎もテメエの仲間だってでっちあげてやる! そしたらあの役立たずも晴れて処刑対象だ! これでミラとかいう女のくせに生意気なクソアマの信用も失墜するだろうよ! 無能な第七師団もこれで終わり解体だ!! 笑えるぜマジでよお!!」

 

 ガジルがそう啖呵を切ると残りの四人もどっと爆笑する。品性のかけらもない四重奏カルテットが響き木霊した。


「あんときのように行くと思うなよ? 今度は五人がかりできっちり殺しにかかってやるからよお?」

「どの時代にもいるもんだな。君たちのような他人の足を引っ張ることしか能のない奴らが」



「ああ!? 調子乗ってんじゃねえ!! テメエ自分の立場わかってんのか? ああ!?」


 煽り耐性の欠片もないガジルは唾を吐き散らしながらトニックに叫び散らす。

 トニックはそれを意にも返さず自分の片手を見つめだした。


「ヒスイの村の分が三百弱、その前で九十九、オクレイの分が五十四、昨日の分が二十六、それで今回が五人か」


 指折り、何かを数えるトニック。まるで何かのスコアを計算しているようにも見える。


「まあ、この分なら問題ないか」

「ああ? 何言ってんだテメエ」

「いや、君達が知る必要はない」


 トニックは首をグルリと回し、コキコキと鳴らした。


「来なよ。望み通り遊んであげる」


 トニックの挑発にガジルはプッツンと切れた。


「舐めてんじゃねえぞ! このクソカスがああああああああああああ!!!」


 ガジルの怒鳴りと共に一斉に攻撃がトニック目掛けて走る。


 「…………」


 その一つ一つをトニックは心底つまらなさそうなものを見るような目で見ていた。

第41話、いかがだったでしょうか。




宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。




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