第40話 敵性生命体対策会議2
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「――以上が本件の顛末となります」
時は想一がウリコとクリスに身体を調べられるところまで遡る。
ミラは今回の地殻変動の件を敵性生命体対策会議で報告した。
その中にジンバッグ・アルファウルブズの件も含まれている。
「まさか、四始祖の名前が出てくるとはな……」
ドルクス総団長は顔を顰めながら苦々しく呟いた。
「順当に考えて四始祖を騙る第三者の妄言に過ぎませんね。何百年も前に死んだはずの人間が現れるわけがありません」
ブリジラは呆れたように首を振った。
「しかし、これほどの規模の地殻変動をたった一人で起こしたというのなら、四始祖を騙るだけの実力はあるということだ。敵性生命体の発生と共に現れた、となると奴らと何か関係が……?」
ガルドスも顎に手を当てて考え込んでいる。
「ミラ師団長、ジンバッグは奴らとの関係性を仄めかしてはいなかったか?」
「申し訳ございません総団長。突如現れた士降との戦闘に入り、情報を十分に引き出すことができませんでした」
「再び士降が現れたか……」
ドルクスは思案した。士降は人間に見向きせず敵性生命体に襲い掛かっていた。その士降がジンバックを敵と見做したのであれば、やはりジンバックは敵性生命体と密接な繋がりがあるのではないかと。
ガルドスは「おのれ、また現れたか」と士降に対する忌避感を出していた。
そんなガルドスをブリジラはつまらないものを見るような目で一瞥した後、話を切り出した。
「ミラ師団長の失態は置いておいて話を戻しましょう。ジンバッグを騙る者。まぁ、可能性としてあり得るのはアルファウルブズの子孫の類でしょう。今となってはすっかりとなりを潜めましたが、大昔には錬金術を神聖なものとして扱うべきだと考える者達が蔓延っていたと聞きます。なんでも錬金術は四始祖を初めとした一部の高貴な身分の者しか扱うべきではない、とのたまっていたとか」
どこの時代や世界にも、新たなるテクノロジーに忌避や信仰を持つ者が現れる。
錬金術黎明の時代には、そういった思想を持った活動家も少なくはなかった。
その裏には、技術を独占しようと画策する貴族たちの思惑も渦巻いていた。
「大方、『土の錬金術は我々アルファウルブズの血を受け継ぐ後継者が支配するべきだ』といった妄言を主張するその手の思想の奴らの暴走でしょう。地殻変動についてもその血筋の錬金術師を大勢配置した多人数での合わせでの結果でしょう。特別優秀な錬金術師が何人もいれば理論上可能では?」
「ブリジラ師団長はまだこの地殻変動の実態を知らなかったな」
ドルクスが合図をすると、投影機から光が映し出される。
そこには士降とジンの戦いの形跡が残された、現場の画像が映し出されていた。
「こっ、これほどとは……っ!」
「そう。錫の術師を揃えたところではとても生み出すことはできない規模の地殻変動だ。連携でどうにかできる代物ではない」
ドルクスの言葉通り、今回の地殻変動は現代の錬金術師が束になっても不可能な芸当だ。ブリジラも画像を見て慄いている。
「……聞いたことがあります。錬金術師の始祖、始まりの錬金術師は生前、不老不死の研究もしていたとか……その研究は完成されており、ジンバックもその錬金術で不老不死の力を得て現代まで生き残っていた?……或いは全く新しい錬金術。例えば死者の魂をこの世に呼び戻す錬金術が存在する……? アルファウルブズの末裔がそれを使ってジンバックをこの世に再び――」
ガルドスは王国に従事していた時に読み漁った文献を元に考察を始めていた。
隣でブツクサと独り言を呟いているガルドスをブリジラは白けた目で見ていた。
「……ガルドス師団長。何か意見でも?」
「!……いえ……しかし、やはりアルファウルブズを名乗る以上、それに縁のある者を尋ねるのは理にかなっていると思われます」
ガルドスやブリジラ、ミラの三師団長の意見はそれで一致していた。
ミラにはその人物に心当たりがある。アルファウルブズの傍系を名乗る男、トニック・クオォーツァー。彼であれば何か情報を知っているのではないかと踏み、その存在を報告しようと手を挙げた。
「総団長。その件で私からも心当たりが――」
「いや、それは断じてない」
ガルドスは断言した。この世にアルファウルブズの末裔は存在しないと。
「これは王族と一部の者しか知らない情報だが――」
「ジンバックはアルファウルブズの者を一人で皆殺しにしている」
「なっ……!」
その場にいる全員が驚愕の表情を浮かべた。
「彼自身も子孫は残していないと伝えられている。ジンバックがその生涯を終えた時点でアルファウルブズの血が完全に途絶えているのだ」
「バカな……自らの一族を何故……」
「詳しいことは不明だが、王族では共通認識らしい。王族直下の諜報部隊と考古学者の調査結果だ。まず間違いはないだろう。この世にアルファウルブズの血を継ぐ者はただ一人として存在しない」
ミラの脳内に困惑と衝撃が走る。であれば、あのトニック・クォーツァーは何者なのか。自らを土の四始祖の傍系と名乗ったあの男は一体……?
王族の調査結果が間違っていた。その可能性もある。生き残った一族の者がなんらかの目的でそれをひた隠しにしていたとしたら、もしかしたら欺ける可能性はゼロではない。
だが、トニックは自らの正体をあっさりと私達錬金連合軍の師団に明かした。王族から存在を隠し通したいと思う者達がそんなトニックの存在を認めるだろうか? 答えは否だ。
トニックを早々に回収するか、あるいは消すことだって視野に入れるはずだ。
そんな出自を持っているトニック自身も易々と自分の正体を明かす筈がない。
そもそも彼は急にミラ達の前に現れ、彼の登場から程なくしてジンバックがミラ達の前に現れた。これも偶然にしてはできすぎている。ドルクスの言葉通りジンバックと敵性生命体と関係があるとして、トニックがグラニデに到着した直後に都市内に敵性生命体が出現したとなればあまりにも露骨だ。
今、グラニデに滞在している師団は三師団。そして同時に敵性生命体の発生が多発したのも三ケ所。これも偶然とは思えなくなってきた。
そして想一の言葉だと、ジンバックは士降に深い興味を示していた。そしてトニックが最初に接触してきたのも、士降の正体である想一だ。
そして想一は以前トニックから贈り物を貰ったということをミラに話している。
それにもし追跡機能があるとしたら、想一のいるところでピンポイントに地殻変動を起こすことも可能。
トニックがジンバッグの使いとして想一と接触したと考えれば辻褄の合うことが大すぎる。
なによりもあの言葉、
『例えばそう、世界を救うとか』
ミラはこの言葉がずっと引っかかっていた。
しかし、想一の正体が士降だと発覚したことで、その言葉の真意が読み解けてくる。
その言葉が、士降が敵性生命体を滅ぼし世界を救うということだと考えれば、トニックは想一の正体を知っていることを決定づけることになる。
「総団長」
ミラの勘はトニック・クォーツァーが完全にクロだと告げていた。
「その件でご報告したいことが――」
第40話、いかがだったでしょうか。
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