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第38話 パラディオーディナー

「すっげぇ。こんなのも作れるのかよ錬金術って」


 俺は今、元の世界でいうMRに似た機械に士降の体を通していた。


 ウリコさん曰く、この錬金器具に体をスキャンさせると、体内の様子がある程度わかるそうだ。


「だろ? 私が開発した最新鋭の医療錬金器具だ。まだ一般の医療機関には卸していない。ミラがここに来たのはこいつを使いたかったんだろ」


 ウリコさんが自慢げに真っ白な歯を見せて笑う。

 錬術兵器だけじゃなくこういうのも作っているんだ。

 医療の発展にまで貢献してるって、この人ほんとは滅茶滅茶すごい人なんじゃないか?


「んで? どうなんだよクリス。こいつの体」

「驚いた。本当に塩に近い物質で構成されている。身体中が超高密度、超硬度の塩化物でガッチリと繋ぎ合わされてるわ。そこに四限素の介入する余地はない」

「ってことは間違いなく」

「ええ。始まりの錬金術師のみに許された超古代の錬金術、士降の錬金術と言って差支えないわ」

「くくっ、やっぱりそうかい」


 俺の体にはウリコさんが持っている端末から伸びている電極らしきものがいくつもくっつけられていて、逐一チェックされている。


「ソーイチっつったか坊や。喜べ、お前は最強の生物兵器だ。悔しいが私の作るどの練術兵器よりも優れている」

「はあ、どうも……」


 生物兵器か。なんだか冷たい響きだな。まぁ傍から見ればそうとしか言いようがないんだからしょうがないけど。


「バイタル、脈拍、心拍数、どれも正常よ。普通の人よりもよっぽど健康体。だから安心していいわ」


 クリスさんがカルテを片手にこちらに歩いてくる。

 だよね。俺元気いっぱいだもん。


「それじゃあ錬金回路、見せてもらうわね。手を出して」


 クリスさんは俺の手のひらを合わせ、目を閉じて集中している。

 改めて近くで見ると綺麗な人だ。なんていうか、色気がある。艶のある刺激的な感じ。


「……なるほど。まるで星に巡る龍脈ね。士降の錬金術に耐えられるだけの下地がある」

「ならこいつが覚醒した秘密は練脈回路にあるってのかよ」

「それだけじゃないわ。心臓から流れる生命力も異常なの。莫大ばくだい、というより果てしない。文字通り無限に生命力を流し続けることのできる不滅の炉心が彼の心臓にあたる部分に設置されている」

「設置? なんか含みのある言い方だな。こいつの心臓の代わりに何か別のもんでも埋めてあるってのかよ?」

「心臓が鼓動できる回数には限りがあるように、生命力にも限界があるの。少なくとも無限に生命力を供給し続けられる物を医学的には心臓と言いたくはないわね」


 ひよりにも言われたことあるっけ。沈まない太陽って。やっぱり俺の心臓や回路に秘密があると見て間違い無いんだろうな。


「そういえば、この姿で土の錬金術を使おうとしても使えなかったんですよ。今まで硫黄の力で無理やり使ってたんですけど」

「普通、練脈回路は塩、硫黄、水銀といった三元質で形成されてる物なのだけど、今のあなたの回路には塩の性質しか確認できないわね。これじゃあ塩の錬金術しか使えない。体の変化と共に回路自体の性質も変わってしまっているわ」


 そうか。だからジンとの戦いで使えなかったのか!


 この姿になって戦闘力は格段に増したけど、錬金術師としての応用力は無くなってしまうのか。


「ただの錬金術なんてどうでもいいだろうが。お前の魅力はその頑丈さと圧倒的な膂力だ。それ一つで木端こっぱな錬金術が使えなくなったとしてもお釣りが来るほどだ」

「簡単に言わないで。土の国内に出現する敵性生命体ならいいけど、他の国で確認されている敵性生命体は物理攻撃だけじゃ倒せない個体もいるのよ?」


 えっ?そうなの? 


「来いよ。いいもん見せてやるぜ」


 ウリコさんがグイグイと俺の腕を引っ張る。


 なんだか甘いにおいのする人だ。コーヒーのような、チョコレートのような。


「ちょっと! まだこっち終わってないんだけど!?」

「要は使えればいいんだろ? 四限素の錬金術」




◇◇◇◇◇





 ウリコさんは俺をある部屋に連れて行った。

 ちなみに今は元の体に戻っている。さすがにあの姿のまま研究所を彷徨うろついたら、事情を知らない他の人たちがびっくりしてしまうからね。


「これは……?」


 ここには、たくさんの錬術兵器達が雑に残置されていた。

 なんだかワクワクする。こういうガジェット系って男心をくすぐるよなあ。


「管理が雑って思ったろ? こいつらは失敗作だ。俺が手塩にかけて作ったが、ついぞ出回ることのなかったかわいいかわいい出来損ないども。だがな、性能は決して世に出てるものより劣っちゃいない。むしろ優れた性能を持ってるのはこいつらなんだよ」


 ウリコさんは俺の肩をガシッと掴んで、怒りに満ちた目で見つめてくる。


「どうしてだかわかるか?」

「い、いえ、見当も……」

「それはな、こいつらの持つ力は強大すぎて、並の術師どもにはまともに扱えないからだ。現場の奴らがだらしないからこいつらは日の目を出なかった。私の才能に人類が追いつかない。そんな中、お前が現れたというわけだ!」


 ウリコさんはギラついた目で人差し指をビシッと俺に指した。


「じゃあ、この兵器達を俺に……?」

「いや、こいつらはもう既に本部に報告してる物だ。お前が使ってるのを見られちまったら足がつく。だからお前が使うのは――」


 そう言ってウリコさんは奥の方に重要そうに立て付けてあるショーケースを開けた。


「――こいつだ」


 中には、三本のスティックが鎖で一直線に繋がれたような物体が置かれていた。端のスティックはそれぞれ赤と青で彩られている。


 これって……


「三節棍……?」

「だだの三節棍じゃねぇぞ」


 ウリコさんに促されて俺はこの三節棍を手に取る。


 割とずっしりくるいい感じの重さだ。人間体とはいえ、これだけの重さを感じるなら常人はまともに扱えないだろう。


 錬脈回路を繋げてみる。すると、両端のスティックがヴン゛と光り出した


「生命力を流してみな」


 三節棍に生命力を流すと、右のスティックからは燃え盛る炎、左のスティックからは水天滴る激流が湧き出た。


「そう、そいつには炎と水の錬金術が生み出される術式が施されている。それだけじゃ凡百の兵器だが、そいつはそれらとは出力の桁が違う。相応の生命力を代償に圧倒的な力の奔流を相手に叩き込むことができるんだ。あのミラでさえ、そいつを起動することすらできなかった最強のエレメンタルジェネレーター」


 名付けて、とウリコさんは続ける


「《《パラディオーディナー》》だ」

「パラディオーディナー……」


 か、かっけぇ……。意味は全然わかんないけど……。


「でも俺、三節棍なんて使ったことないですよ? こういう武器って扱いが難しいんじゃ」

「んなもん慣れるしかねぇだろ。剣も槍も最初はみんな初心者だ。一長一短でどうにかなるもんじゃねぇよ」


 マジか。武器をくれるのはありがたいけど、なんで三節棍なんてマニアックなのにしたんだこの人。


「ほれ」


 ウリコさんは、今度は何の変哲もない普通の三節棍を投げ渡してきた。


「そいつで練習しな。それなら室内で振り回しても安全だ」

「おお、なんで普通の三節棍がひょいと出てくるんだ……」


 こうなったら仕方がない。やれるだけやってみよう。


「ちょっと、こっちの調整がまだなんだけど?」


 振り向くとクリスさんが腕を組んで壁に背をもたれさせながら不機嫌そうな顔を向けていた。

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