第36話 アルファウルブズ、驚異の力
「アルファウルブズだと……!?」
ミラは驚愕の声を上げる。
想一は思い出す。
アルファウルブズが土の錬金術を生み出した、四始祖の一人ということを。
「じゃあ、あんた、四始祖の子孫か!?」
「いや、違う」
ミラは即座に想一の言葉を否定する。
「ジンバック、確かにそう名乗ったな」
「ああ。ジンって呼んでくれ」
岩の男は軽く答えた。
「あいつを知ってるんですか!? ミラさん!」
「ああ。知ってるも何も」
ミラは相手から目を話さずに言い放った。
「ジンバックは土の錬金術を編み出した張本人だ。つまり奴が四始祖そのもの……」
「なんだって!?」
「ご明察だな師団長殿」
想一は困惑する。
四始祖とは遥か昔に生まれ、とっくのとうに亡くなったはずの人間だ。
その男がなぜこの時代に生きているのか。
「偽物だと思うか?」
ジンバックを名乗る男はそう挑発した。
「……どうだろうな、この地殻変動もお前の仕業だと考えると、あながち嘘とも言えないかもしれない」
「地殻変動って……この大惨事を全部自分一人の錬金術でやったってことですか!?」
「ジンバックは土の錬金術の祖であり、それを扱う術師の中でも最強と謳われている。そうであればこの現象にも納得がいく」
「最強ね」
ジンはつまらなそうに頭をかく様なそぶりを見せた。
「本当に最強かどうか、いっちょ試してみるか?」
ジンが軽く地面を蹴ると、岩石の柱が想一たちに向かって何本も突き上げるように伸びてくる。
士降はミラを抱えて避けるようにこの場から飛び立った。
「いい反応だ。流石は至極の錬金術。俺の力がどこまで通用するかな?」
「お前、なんなんだよ!」
ミラを遠くに下ろし、ジンとの距離を詰める。
(俺が近くにいるとミラさんを巻き込んでしまう。今はとにかくジンとミラさんを遠ざけるのが先だ)
士降はジンに飛びかかる。が、柱の突き上げをもろに食らってしまい撃墜されてしまう。
「くっ!」
幸いダメージは大したことはない。即座に体勢を立て直して地上から攻めるべく、士降は向かって行った。
「くそっ!」
ジンは地面を自由自在に動かして士降を寄せ付けず、岩盤の迷路に閉じ込めてしまった。
「どこだ! どこにいる!?」
「どこ見てんだ」
後ろから後頭部を殴りつけられる。
士降の視界がぐらっと揺れる。つんのめりそうになるところをどうにか堪えた。
(なんてパンチだ! 今までの奴とはまるでケタ違う!)
士降の超越した肉体で、まともなダメージを受けたのはジンの一撃が初めてだ。
「この!」
振り向きざまに回し蹴りを放つ。ジンはそれをひらりとかわすと、水中に潜るかの様に地面の中へ消えていった。
「そんなこともできるのか!?」
再び後ろから再び重い一撃をもらう。後ろを警戒していたら今度は前から、横から、立て続けに攻撃を食らってしまった。
「クソっ! ずるいぞ! 出てこい!!」
こんな安い挑発になんて乗るはずがない。辺りを警戒しながら策を練らないと!
そんなことを考えていたらジンは正面から出てきた。
「悪い悪い。大人げなかったな」
ジンは拳をコキリと鳴らして構えを取った。
「いっちょ本気で行くか」
凄まじいプレッシャーが発せられる。
ジンの姿は身体に纏っている鉱石も相俟ってかなりマッシヴである。
硬度もそうだが、近接戦に余程自身があるのだろう。
(だが、これなら俺の攻撃も当たる……!)
互いに睨み合う。張り詰めた糸を切り落としたのは士降だ。
ジンに向かって真っ直ぐ突き進む。
顔面に向かって突きを放とうとしたその瞬間――
――トプン
足元が水のようにぬかるみ、士降の身体が一瞬で半分まで沈む。
瞬時に固められて身動きが取れなってしまった。
「しまった!」
構えもプレッシャーも全てこの為のブラフ、まんまと敵の術中にはまってしまった。
「はっはっは。気持ちのいい奴だなあ、お前」
ジンは構えを解いて、自然体のまま士降を見下ろした。
「そらっ」
「ぐぁっ……!」
まるでサッカーボールを蹴り飛ばすような蹴りが士降の顔面に突き刺さる。
単純に殴られるよりも強烈、視界がグラグラと揺れる。
何発も食らっていい威力ではない。
「動けねえだろ」
士降が力を入れて地を割り砕き、拘束を解こうとしてもまるでビクともしない。
錬金術の力で地面その物を強化しているのだ。
いわば、母なる大地そのものが士降の敵であるかのように。
(奴と同じように土の錬金術を使って地面を柔らかくすれば!)
士降は両手から土の錬金術を使おうとするが、地面に反応はない。
錬金術が無効化されたのではなく、そもそも発動していないのだ
(使えないのか!?……この体じゃあ!!)
「膂力と耐久はいい。だが、狩人としての勘が足りてねえな。ちゃんと寝ているか?」
ジンは足元をつま先でコツコツと叩きながら続けた。
「睡眠ってのはお前が思ってる以上に滅茶苦茶重要だ。これが足りてないと思考力が落ちる。それだけじゃない、野生の勘ってのも利かなくなってくる。お前の敗因は寝不足ってわけだ。ここでちょっと寝るか?」
「ふざけるな! お前を倒してみんなを助け――がっ……!」
顔面にジンの踵がめり込む。
「焦るなよ。……だがまぁ……そうだな……」
ジンは顎に手を当てて考える仕草を見せる。そして
「お仲間ならもう死んでるぜ」
士降の脳内にドロリと嫌な粘液が流れ込むような感触が走る。
「な……ん……」
目の前の相手の言ってることが信じられない、受け入れられない、拒絶したい。
そんな思いを否定するかのようにジンは続ける。
「あれだけ地殻変動を何度も起こしたんだ。今頃奈落の底か地面に挟まれて潰れてるよ」
「う……嘘だ! そんなはず――」
「嘘だと思うなら自分の目で確かめるんだな!」
再びジンの蹴りが炸裂する。
どろりとした物質が頭の中でシェイクされるよう感覚に吐き気を覚える。
「終わりだな」
ジンは空に手をかかげる。
大地が砕け、まるで落ちるように空へと昇っていく。
「ふっ……ざけん……なっ……」
それらが集まり、ジンの頭上に巨大な岩石の槍が形成された。
先端は鋭く研がれ、殺傷力を極限までに高められている。
「じゃあな」
ジンが手を振り下ろすと、殺意の魔槍が士降に突貫した。
「っっっざけんな!!」
士降は怒りに震え、その力を発揮して大地の檻から脱出し、間一髪で巨槍をかわした。
そのままジンに超スピードで接近する。
「なに!?」
士降は渾身の一撃をジンの顔面に叩き込む。
「があっ……!!」
後方に大きく仰け反るジン。
体勢を立て直し、再び地面の中に潜ろうとする。が――
「逃がすか……!」
士降はジンの手を掴み、そのまま引っ張り上げた。
ジンを掴んで離さないまま、怒涛の連撃が叩き込まれる。
「はあ゛! う゛あ゛あ゛! う゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! !」
「ぐうっ!……っ!……がああっ……!!」
おおきく振りかぶって拳を突き出す。
しかし片足が地面に沈み込み、踏み込みが利かなくなって拳は空を切る。
その隙をジンは見逃さず、前蹴りを放って士降から距離をとった。
「はあ…はあ…はあ……体を超震動させて地面を液状化、あるいは粒子化させたか。いいね……冴えてる……」
ジンは頭を押さえながらグラグラとふらつき、やがて片膝をついた
「効くな……これが禁断の錬金術か……ようやく楽しみが増えた」
ジンの足元が溶けるように柔らかくなり、今度こそ地面に沈み込む。
「また会おうぜ」
「待て!」
士降の静止も虚しく、ジンは大地の底に消えていった。
「はあ…はあ…はあ…逃した……」
肩で息を切り、白い体に亀裂が入る。
砕けて、人間の体に戻った。
ジンに蹴られてふらつく頭を押さえながら辺りを見渡すと、割れて抉れてメチャクチャになった大地が嫌でも目に入った。
『あれだけ地殻変動を起こしたんだ。今頃奈落の底か地面に挟まれて潰れてるよ』
確かにジンの言うとおり、この地殻変動に巻き込まれてしまったら、普通は助からないだろう。
先ほどレーダーで確認した生存者もジンが再び起こした地殻変動でどうなったかわからない。
特に非戦闘員の弔葬部隊はもう……
「みんな……」
「ソーイチ君!」
ミラがこちらに走ってくる。
どこかで錬成したのか、草葉でできた衣類で、
大事なところを最低限隠していた。
「ソーイチ君、君は――」
「すみません。ミラさん」
想一はミラに頭を下げる。
「俺はみんなを助けられ――」
「あーーーー! いたーーーー!!」
聞き覚えのある声に想一は振り返る。
その先には元気そうに五体満足で走ってくるバンビの姿があった。
「よかったーーーー!! 全員無事だった!」
バンビは二人に飛び掛かるように抱き付いた。
「え?……無事って――」
「ソーイチ君とミラだんちょーだけだったんだよ? 見つかってないの。他の人達はみんな無事! 怪我人はたくさん出たけどみんな生きてるよ!」
「無事って……あれだけのことがあったのにか!?」
「うん! あたしも空高く打ち上げられた時は流石に死んだかと思ったけど、落ちた地面がめっちゃ柔らかかったから助かったんだ! マジラッキーっしょ!」
(地面が柔らかかった?……そうか!)
液状化。
地震などの強い揺れによって地盤が液体状になる現象のこと。
あの時想一が土の牢獄から脱した時の現象がバンビ達を救ったのだ。
「他の子達も運良くそれで助かったよ。まじあたしら持ってるっしょ」
「馬車はどうなっている?」
「生きてはいるけど、足を折って走れなくなっちゃった子も多いみたいです。移動は厳しいかと」
「そうか……とりあえずみんなのところに戻ろう」
そう言ってミラとバンビは歩き出す。
想一は、自分がミラの後をついて行っていいのかわからずに、俯いていた。
「ソーイチ君」
それに気づいたミラが振り返り、一言告げた。
「行こう」
ミラが想一に向ける顔は怪物に向ける敵意のあるソレではなく、いつもの優しげな顔だった。
「……はい!」
第36話、いかがだったでしょうか。
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