第35話 Execution
月の光も届かない暗い地の底、舞い降りる戦士はその身の輝き一つで辺りを照らしていた。
オケラの幹部から解放され、尻もちをつくミラを担ぎ、跳躍を繰り返して一気に地上に出る。
地盤の安定した場所でミラを降ろすと、後ろからバゴンッと弾ける音がする。
振り返ると、モグラとオケラの幹部が地面から飛び出していた。
「おのれおのれおのれえええええええええええええええええええええ! この俺の美しい顔面をよくもよくもよくもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 俺の甘美なる絶頂殺戮アワーをよくも邪魔してくれたなああああああああああああああああああああああああ!!? 悪逆非道!! 許さん、許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおお!! この汚らしい陰獣があああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 殺す! 殺すだけでは済まさんぞ虫けらが! 私の至極当然な愉悦の権利を侵害するなんて万死の如く!! 貴様の四肢を捥ぎ取って魔獣どものエサにしてやる! 貴様の臓腑全てを抉り出して国中にバラまいてやる! 貴様の頭部も余すことなく世界中に晒してその尊厳をガッ!?――」
怒り狂う被害者面の戯言など意にも介さず、士降はモグラの喉元に手刀を差した。
「ゴッ!……ガッ!?……エ゛ッッッ!?!?」
そのまま、頸椎を締め上げ高く掲げて宙づりにする。ミシミシと軋むその首は汚い花のように今にも手折れそうだった。
「ガッ…………ギィッ!?」
その姿は、皮肉にも先ほどミラを締め上げた格好によく似ていた。
醜く、足をばたつかせるところに往生際の悪さがよく出ている。
が、必死の抵抗も虚しく士降はその醜悪な怪物をさらに醜く仕立て上げる準備に入った。
右手で首を締め上げたまま、左手を相手の肩に置く。そして一気に――
ソ゛リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ リ゛ュ
モグラの肉体ごと、左手を下にずり降ろした。右手に残ったのはモグラだった物体の脊髄とそれに晒されるように乗っかっている首だけだった。
「う、……うわあああああああああああああああ!!!」
仲間の恐ろしい末路に、恐怖したオケラは一目散に逃げ出したが――
「ぎぃっ……!?」
後ろから士降に袈裟斬りで切り刻まれる。逆手に持つ鋸のような脊髄は、オケラの表皮を削るのには十分な鋭さを持っていた。
そのまま蹴り飛ばされて、オケラは地面を舐める。
「ひぃっ……!」
即座に起き上がり、転びそうになりながらも走り出す。
自慢の穴掘りなど頭から抜け落ち、ひたすら地面の上を走り回った。
「……ッ!」
それを見逃す狂王ではない。見えなくなるようにその場から消え、瞬時にオケラの前に回り込んだ。
「はあがっ!?」
士降は目視することなく、オケラの胸部を後ろ手で手にしていた脊髄で貫いた。
「あっ゛……助ッ……ゲッ……!」
そのまま腕を地面に殴りつけるように降ろし、オケラの胴体を抉り切る。
所詮は愚物の脊髄、即席の鋸はオケラの骨盤で止まった。
オケラは目をぐるんとあらぬ方向に回し、ぴくぴくと痙攣するようにバイブレーションしていた。
「……………………」
使えない道具を投げ捨て、オケラに開いた裂け目に両手を通し、そのまま千切るように引き裂いた。
ドスドスと重い足音に振り返ると、アリの幹部の巨椀が目に入った。
アリの幹部は士降の顔面を掴むと、そのまま一気に地面に叩きつけた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
何度も何度も地面に叩きつける。大地に亀裂が入り、ゾウの幹部に負けないくらいの地響きが当たりを揺さぶった。
「な゛あ゛っ゛…………!?」
アリの猛撃など意にも介さず、逆マウントから腕ひしぎ三角固の体勢に入る。
「ぬ゛っ゛……ぬ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛! !」
決死の抵抗もやむなく、アリの左腕はへし折られ、否! 折り千切られて投げ捨てられた
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ? ! バカ゛な゛っ゛…………バカ゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! !」
失った片腕を抑えながら、アリは絶叫する。
激痛にのたうち回っている間にも、天使のような白無垢の姿をした死神は、肘から伸びた鎌を光らせながら近づいてくる。
「虫ケラ如きがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ! !」
苦し紛れに放ったアリの右拳に合わせ、士降は狙いを定めて殴りつける。
アリの腕はバキバキと音を立てて砕け、そのままもう片腕も弾き飛んだ。
絶叫する間もなく、両足を蹴り払われて宙に舞う。
士降はそのまま、落ちてくるアリを持ち前のデスサイズで切り裂いた。
ビクンッと痙攣した後、虫ケラは絶命した。
「…………」
決着はついた。
だがやるべきことはまだある。
仲間の安否を確かめなければ。
それだけはやらなければならない。
例えもう、俺に居場所がなくても。
「待て!」
凄惨な戦いの一部始終を見ていたミラは、次は私が相手だと言うように想一の前に立ちはだかった
「君は……ソーイチ君……なんだな……」
「どいてください。ミラさん」
「君をこのまま放っておくことはできない」
「俺は!!」
想一は異形の姿のまま叫ぶ。
「俺はこの力でみんなを守らなきゃいけない!……あいつらと戦わなきゃいけない!!……だからここで捕まるわけにも、倒されるわけにもいかないんだ……」
「ソーイチ君……」
わかってくれ。頼むから俺に敵対しないでくれ。俺にみんなを守らせてくれ。
ただただ目の前の恩師を傷つけたくない。
それだけが想一の心に渦巻いていた。
「ソーイチ君、君は――」
突如、地面が大きく震え出す。バランスを崩してその場に蹲るミラの頭上に、根こそぎ掘り返された樹木が倒れ込む。
「ミラさん!」
想一は即座に樹木を切り刻んだ。ミラを避けるように残骸が降り注ぐ。
「なんだ? さっきから一体何なんだ!?」
ミラを庇いながら、想一は辺りを伺う。
「よう、楽しそうだな」
想一は顔を上げる。
目の前にはひと際高くそそびえ立つ巨大な岩壁、その頂点に佇むは人型のシルエット。
月明かりが逆光として作用し、その姿を眩ます。
「派手にやるじゃねえか」
楽しそうな声の主の視線の先には、士降が葬った幹部級の残骸が転がっていた。
「楽しいだろ。そんだけ強けりゃ」
「誰だ! お前は!」
男の声だ。
加工したかのような音声だが、その声は男性のそれに聞こえる。
「名乗るほどのモンじゃねえが――」
男は降り立つ。その姿は体中を岩石や鉱石で覆われた戦士のような姿をしていた。
「ジンバック・アルファウルブズ。そう呼ばれている」
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