第34話 何のために
「ミラさん!!」
思わず叫ぶ。なんだ!? どこから現れた!? この怪人、恐らく幹部級だ。じゃなければ手負いとはいえミラさんが遅れを取るはずがない。
「ッ……!!」
地面に穴が開いていた。よく見たらこの怪人、モグラのような形状をしている。
ミラさんの傷口を眺めながら見ながらニヤニヤと薄気味悪く笑っている。
恐らくこの穴から俺を奇襲したのだろう。
それをミラさんが庇ったんだ! 考え込む俺が奴らに気付かないばっかりに!!
「ソーイチ君、逃げるんだ」
「でも!」
置いて行けるわけがない。俺の所為でミラさんが負傷を重ねたんだ。
「いいから行け!」
ミラさんが俺を後ろに押しのけモグラの幹部に炎剣を放つが、モグラは余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》でそれを回避する。
「恐らく奴は奇襲特化型だ。正面での戦闘なら手負いでも……やれるっ……!」
「一人だと思うか? 間抜けが」
モグラがそう言うと岩壁がひび割れ、新たに怪人が現れる。それぞれ、オケラ、アリを象った姿をしていた。
幹部級が……三人も……!
「これで対等か?」
オケラの幹部がケラケラと笑う。
モグラの幹部はミラさんに鋭い爪を振り下ろした。
炎剣で受け止めるも、横からオケラに蹴り飛ばされて岩壁に叩きつけられてしまう。
「やめ――」
頬に衝撃が走り、地面をバウンドした。
アリの幹部が文字通り俺の顔面を横殴りに拳を叩きつけたのだ。
ダメージは大したことはない。でも……でも……っ!
「その赤髪、炎斬姫か」
モグラはミラさんの髪を掴み、再び岩壁に押し付けた。
炎斬姫? 奴らはミラさんをそう呼んでいるのか?
「大物だな。同胞を多く消された」
「楽に死ねると思うな。我らは知っている。貴様らの誇りの踏み躙り方を」
オケラはミラさんの首を掴み、磔にする。
モグラはミラさんの隊服をビリビリに切り裂いた。
ミラさんのシルクのような柔肌が露わになり、月明かりによって真っ白に照らされる。
「雌型はこれがよく効くんだとな」
「生殖器官を破壊しろ。雌の誇りを砕き、精神を破壊するのだ」
下劣な会話が無機質に繰り広げられ、モグラの凶爪はミラさんの下腹部を捉えた。
「ミラさ――」
駆けだそうとする俺をアリの幹部は見逃さない。
俺の後頭部を掴み、顔面から地面に押し付けた。
「見てろ……仲間が凌辱されて無残に命を散らすその姿を……」
額が割れて、血が流れ出す。視界が真っ赤に染まった。
もはやミラさんの姿が血に濡れているのか、俺の血で赤く見えているのかもわからない。
「ククカカカカカ! やはり最高だな! 人間の雌が! 劣等な雌が、我が名策に陥り、尊厳を我が英爪で蹂躙されるのはああああああ! 命と純潔を無様に残酷に辺り一面に撒き散らす姿見せろ見せろ見せろおおおおおお!! 我はその為に生まれたのだあああああああああ!!!」
モグラの怪人が天を仰いで高らかに絶笑する。
不快な笑い声が周囲に響き渡る。
「逃げ……ろ……」
術師としての誇り、女性としての尊厳、たった一つしかない自分の命、そのすべてが失われそうになっても、
「逃げ……るん……だ……」
彼女は自分のことなど顧みず、目の前の凶器に目も暮れず、
「逃げ……て……」
俺の心配だけをしていた。
「散晒せえええええええええええええ!!!っははははははははははははははははは!!!」
モグラは巨爪を振りかぶり、一気に突き出した。
『君は何のためにここにいる?』
ひより、ごめん。
「は?」
突き出された鋭爪、それがミラさんを貫くことはなかった。
触れる直前で止められた。奴の腕はミシミシと音を立てて軋む。
「ごめんなさい、ミラさん」
モグラの幹部は自らの腕に走る激痛に身をよじらせる。
「こんな目に合わせてしまって」
後方ではアリの幹部が地べたに接吻かましていた。
「俺、戦いますから」
オケラの幹部も何が起きたのかわからず、硬直していた。
「だからどうか」
「どうか」
「シオンを頼みます」
バッギィィィと鈍い音が響く。
衝突音と共に土煙が吹きあがる。
磔にされたように岩壁にめり込むのは、ひしゃげた顔面から血をだらだらと流していたクソ野郎だった。
右腕に亀裂が入る。
「ソ……イチ……君?」
続けてミラさんを掴んでいるオケラ野郎の腕を掴む。
「あ゛っ!?……があああああああああああ!!?」
そのまま握力だけで握り潰し、蹴り飛ばす。
右足の表面が剥がれる音がした。
「おのれ!」
アリの幹部が殴りかかってくる。
図体からして力自慢なのだろう。
助走をめいっぱいつけて全身の体重を乗せた拳を左手だけで受け止める。
左腕から破片が飛び散った。
「この!」
奴の苦し紛れのローキックが入る。
左足から何かが割れるような音がした。
「ソーイチ君…………君は……ッ……!」
アリの胸倉を掴み、顔面に俺の頭蓋を叩き込む。
四肢に入った亀裂は全身に広がり、砕け散った。
俺だったものから出てきたのは
歪な王冠をつけた狂王のような姿をした破壊の権化だった。
それはまるで輝くだけで人を狂わす新月のように白く、
ただ白く――
◆繋ぎ鎖すは命の楔、誇り掲げるは戦士の証。
月夜に舞い降りる不朽の躰、此処に在り――




