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第19話 錬金

 泣き疲れて眠ったチルちゃんをチャレスカさんに任せて、俺達は帰路を歩いていた。


「俺、間違ってたのかもしれない」


 シオンは俺の顔を覗き見る。


「チルちゃんが錬金術を使えるようになったら、少しでも幸せが戻るって。でも、もしかしたらチルちゃんは錬金術を憎むことによって悲しみを紛らわせていたのかもしれない。錬金術が楽しいものだと思い出したら、かえってお父さんを失った悲しさがより強くなってしまうかもしれない。俺、そんなこと考えもしなかった」


 シオンは黙って俺の顔を見つめていた。


「考えが足りなかった。浅はかだった。俺の軽率な行動で、かえってあの子を傷つけたかもしれれれれれ。な、なんだあ!?」 


 シオンが困った顔をしながら俺の頬をつねり上げていた。


「何するんだよシオン!?」


 怪人にぶん殴られても全然痛くなかったのに、急に頬をつねられるとやけに痛い。

 身体は頑丈でも皮膚は人並なのか!?


 シオンは俺の目を見て首を横に振りながら、てってと走って行った。

 少しだけ柔らかい表情な気がした。


「な、なんだよもう……」


 俺もシオンの後を追うが、石ころに躓いて前のめりに転んでしまう。

 痛みはなかったが、なんとも冴えない俺だった。




◇◇◇◇◇




 今回の出来事をミラさんに報告するために、俺達は一度野営地に戻った。

 シオンはミラさんに筆談で、チルちゃんに施した治療を説明した。


 なんでも、心臓にすぐ近い錬金回路が少しだけ損傷していたらしい。それが巡り巡ってマナを拒絶する不具合を起こしていた。

 シオンはマナだけじゃなく、回路も見えていることが発覚した。


 シオンとチルちゃんの錬金回路を繋げ、回復の術を回路を通して送り込み、損傷部位を修復したんだって。すごいよねまったく。


「それにしても、回路師ってのは錬金回路の専門家なんだろ? 回路が損傷してるって気付かないなんて適当な仕事してるよなあ」

 

 そう、チルちゃんは回路師と呼ばれる医者に見てもらっている。

 回路の専門医師が回路が損傷してることに気付かないなんて藪医者じゃないか。


「それがそうとも言えないんだよソーイチ君。錬金回路は心臓から体中に広がっている。基本的に痛みやすいのは末端の部分なんだ。心臓付近の回路は滅多なことでは壊れない。そしてそこの損傷を治すのは非常に困難だ。発見することすらままならない。私はその回路師を責められないな」


 そうだったのか。なら損傷を発見し、治したシオンは回路師としてもすっごい優秀なのでは?


「現に私の知る回路師でそこまでできるのは一人しかいない。シオン君の優秀さには、舌を巻かざるをえないな」


 マナも見えて回路も治せて、本当にシオンはすごいよ。なんだか自分のことみたいに誇らしい。

 

「シオンちゃーん、こっち手伝ってー」


 後からシオンを呼ぶ声が聞こえた。医療部隊の女の子だ。

 シオンはミラさんに会釈をして、声の主の方へ駆けて行った。


「シオン君、医療部隊の隊員たちから評判がいいと聞いた。四元素全てを高水準で扱い、高い回復術を扱えるとなると非常に重宝されるだろう。手厚く扱ってもらえるはずだ」

「……はい。うまくやっていけてよかったです」 


 俺も医療部隊の人達と何度か会話を交わした。弔葬部隊と同じで女性のメンバーが多かった。みんなとても穏やかでいい人達だった。 


「ん?」


 ふと、電子音のような音が鳴り、ミラさんが通信用の錬金器具を取り出す。


「こちら第七師団第一部隊、ミラ・ミカエリス。……了解した。どうか持ちこたえてくれ」


 ミラさんは神妙な態度を取りながら通話を切った。


「どうかしたんですか?」

「救難要請が入った。少し北の平野で仲間たちが戦っている」


 ……! それじゃあ――


「ソーイチ君。君たちの初陣だ。総員、移動準備!」


 この場にいる全員の気が引き締まる。

 再び死の匂い漂う戦場へと俺達は向かうのだった。 

 



◇◇◇◇◇

 



 ハサより北へ数十キロメートル程進んだ場所、そびえたつ巨大な崖に沿った広大な平原で第三師団総員と化け物達の戦いが繰り広げられていた。


 戦況は非常に厳しい。数刻前までは互角に戦っていたが、敵側にゾウの幹部級率いる援軍が合流してから、ジリ貧となっていた。


 師団長、ガルドス・メザードは副団長のシャルカ・クルーゼと共に、ゾウの幹部、クマの幹部相手に防戦していた。


 第三師団は全師団屈指の防衛戦力を誇る部隊、中でもガルドスとシャルカは幹部怪人相手でも長時間の防戦を継続できる猛者であった。


 しかし、それでもタイマンで勝利することは厳しく、防戦一方となっていた。


「第七師団が来るまでなんとか持ちこたえるんだ!!」


 ガルドスとシャルカはクマの幹部怪人と相対してる。

 ゾウの幹部怪人は、自分が出る幕ではない、と戦況を見渡しながら佇んでいた。


 《《人間たちが必死に戦い、傷つき、力尽きていく様を嘲笑うように見物しながら。》》


 少し離れた先に、魔獣や怪人たちと戦う錬金術師たちの中に、一人の新米術師がいた。


 名はハンス・チャレスク。ハサの町のチルの兄だった。

 ハンスはゾウの幹部を憎しみの目で見ていた。


(父さんの……仇……!)


 ハンスは理解している。自分じゃあの怪物に逆立ちしても勝てないことを。

 目の前に父の仇がいるのに何もできない自分の無力をただただ恨んだ。


 ハンスは魔獣と戦う。今はただ、自分にできることに命を懸けていた。




◇◇◇◇◇




「見えた。あれだな」


 ミラは第三師団の後方支援部隊を目視で捕えた。


「第七師団、救援に参上した!」

「お待ちしておりました! どうか、ご武運を!」


 彼らと合流し、戦闘部隊はすぐさま戦場に出た。


「私が先行する! 後に続け!!」


 ミラ達戦闘部隊は敵軍との距離を一気に詰め、開戦ののろしを上げた。




◇◇◇◇◇




「あわわ、始まったし」


 バンビが物陰からそーっと覗きながら言う。 

 俺達、弔葬部隊は後方支援部隊の更に後方から戦場を眺めていた。


「とはいえ、私達は戦いの間は何もできないんだけどね」


 バンビがそう言った。


 シオン達医療部隊は、第三師団と共に負傷者の治療に当たっていた。


「大丈夫だからねソーイチクン! シダンチョー超強いし! あんな奴らやっつけちゃうんだから!」

 

 バンビは武者震いをしながら俺にサムズアップをした。彼女なりに初めて戦場に出る俺を気遣ってくれているのだろう。怖いのは自分だって同じだろうに。


「バンビ、俺、怖くてトイレ行きたくなっちゃったよ……」

「あ、マジ? じゃあその辺でしてきなよ。ここ女の子ばっかでちょっとハズイかもだけど、みんな気にしないからダイジョーブ! むしろ漏らさないだけ偉い!」


 バンビは近くの崖の陰を指差した。

 戦場じゃ垂れ流しは当たり前とか聞くし、その辺のことは慣れているんだろう。


 では、お言葉に甘えて。


「じゃあちょっと行ってくる」

「うん! 気を付けてね!!」


 俺はそそくさと崖の陰に隠れると、風の力で一気に上空へと飛んだ。

 そびえたつ崖の頂上に着地して、戦場を見下ろす。

 戦っている人達、負傷し戦線を離脱した人達、傷つき力尽き命を落とした人達。


 シオンのおじさんやおばさんの顔が浮かんだ。温かかった笑顔と冷たい死に顔が交互にフラッシュバックする。


 安定した生活なんて今のこの世界にはない。あったとしても、俺だけそこにいるわけにはいかない。


 声を、濡れ羽色の美しい黒髪を失ったシオンの憔悴しきった顔が俺を突き動かす。


「…………」


 身体がひび割れる。俺の戦う意思が体中に広がるように亀裂が走る。


『お父さんっ……!お父さんっ……!!』


 チルちゃんの悲痛な叫びが脳内に響く。あの時のような光景がこの世界には溢れている。

 あの小さな身体から発せられる、静かな慟哭が俺の道を決めた。


 他の転生者や錬金術師の誰かじゃない。今、目の前の悲しみを断ち切ることができるのは俺なんだ。


「俺は」


 戦う。

 これ以上誰かの悲しむ姿を見たくない。


「俺は」


 決めたんだ。

 目の前で救える命をこれ以上取りこぼしたくない。


「俺は……戦士だ……!」

  

 俺は弔葬部隊として死者に寄り添い、塩の戦士として生者を救う。


 倒れるように崖の上から落下する。

 ひび割れた俺の体だった破片が宙を舞って砕け散った。


 「()()……!」 

第19話、いかがだったでしょうか。




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