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第15話 初めが肝心

 芝生のようなふかふかした草が生い茂る広場に俺達は野営の準備をしていた。


 今気づいたけど、この第七師団は比較的女性が多い気がする。もちろん男性も多少はいるのだが、割合的には8:2か7:3で女性が多い気がする。


 ミラさんは女性だからついてくる人に同性が多いのか?


 でも男ならきれいな女性についていきたくなるような気もしなくはないが……。


「そういえばソーイチ君はまだバンビ以外の弔葬部隊とは会っていないんじゃないか?」

「確かに。話したのはバンビだけかもしんないです」

「弔葬部隊はあそこで固まっている。今のうちに挨拶した方がいい」


 ミラさんに促されて、部隊の端に陣取る集団のもとに向かう。すると、バンビが俺に気付いてやっほー、と手を振っていた。

 

「ソーイチクンお疲れー。みんなと会うのは初めてな感じ?」

「ああ。まずは俺から自己紹介するよ。本日から部隊に配属されました、ソーイチ・オトギリです。よろしくお願いします!!」


 こういうのは初めが肝心だよな。気合を入れて挨拶をした。


 すると、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。よかった、それなりに歓迎されてんだな俺。


 頭を上げると、甘栗色の長い髪をした大人の女性が目の前にいた。


「初めまして。私は第七師団弔葬部隊隊長、マール・リデウ・アクラシアムよ。どううぞマリアと呼んでちょうだい」

「あっ、これはこれはご丁寧に部隊長! 自分はソーイチ・オトギリと申します」

「それはさっきも聞いたわ」


 口を抑えてうふふと笑うマリアさん。優しそうな人が上司でよかったー。めちゃめちゃおっとり癒し系だよ。


「マリアさん、俺達の村のみんなを弔ったのは――」

「ええ。私達で間違いないわ」

「……そうですか。皆さん、ありがとうございました」


 俺は部隊全員に深々とお辞儀をした。


「どういたしまして。仕事ですもの」 


 マリアさんは他の隊員にも挨拶をするように促した。


 この部隊は十数人くらいの小規模な部隊だ。しかしその全員が女性。

 

 元いた世界だと葬儀系の業界の男女比は5:5くらいだったけど、随分偏りがあるんだな。

 紅一点ならぬ、黒一点じゃん。俺。


「あなたが例のお化粧の子ね?」

「はい。ヒスイ村のみんなにやったのは俺です」

「そう。あなた、とってもお上手なのね。私達よりも高い技術を持っている」

「いえ、そんなことは……」

「どこで覚えたの?」

「それは、えっと……ヒスイ村に住む前にいたところで。ここと似たような仕事をやってたんです。軍とかじゃないんですけど」

「そう! 葬送師をやっていたのね!」


 葬送師?……葬儀屋みたいなものか?


「そうです! そういう感じの……」

「じゃあ、私達のやっている仕事もある程度はわかっているのね?」

「えーっと……」


 これはどうしたものかな。葬儀屋の仕事がここでいう葬送師と同じかわからない。

 

 下手にしらばっくれても後でボロが出るかもしれない。ここは正直に教えて欲しいと言おう。


「えっと、俺のいたところ、結構特殊な感じで。みなさんと同じようにやっているかわからないので、一応イチから教えて欲しいんですけど」

「もちろんよ。少しずつ仕事を覚えて行ってちょうだいね」 


 マリアさんは快く了承してくれた。


 よかった。本当に優しい人だ。ミラさんとは違うタイプの人。ミラさんは喋っていて勇気とか元気とかが湧く人で、マリアさんは癒されるタイプの人。なんだかホッとする。


「そうだ、テント立てなきゃ。俺やりますよ。ミラさんの手伝いとかしてたんで結構慣れてきたんで」

「ふふふ。頼もしいわね。男の子が来てうちも賑やかになりそう」


 まっかせてくださいよ! はりきってテントの設営を手伝った。



◇◇◇◇◇◇




 マリアさん達の手伝いも終えて、俺はミラさんが取ってくれた宿へと足を運んだ。


 指定された部屋の前に立ち、扉を三回ノックする。


「シ、シオン。ソーイチだけど、入っていい?」


 …………………


 反応はない。もしかしていないのか?


「入るぞーっと」


 そーっとドアを開ける。


 そこにいたのは上半身裸で、下はショーツ姿のシオンがいた。手には今脱いだばかりだと思われる服が、ベッドには寝巻と思わしき衣類が。


「うわっ、ごっごめん!!」


 慌ててドアを閉めた。


 やっべーやっちまった。マジでやらかした。


 冷静に考えたらシオンは喋れないんだから反応なんてできるわけがないじゃん。


 バカだな俺、やっぱバカ。うすうす気づいてたけど、嫌でも突きつけられるよ自分のバカさ加減が。


 そう頭を抱えていると扉が開く音が聞こえた。


 そこには寝間着姿のシオンがいた。真っ白でフリルのついた女の子らしい寝間着。


 シオンは無表情でこちらを見ていた。


「えっと、入っていい?」


 シオンは小さくコクンと頷いて自分のベッドに戻って行った。


 俺は中に入って、ベッドの上におかれていた寝間着を取って廊下で着替え、自分のベッドに腰掛ける。


「…………」

「…………」


 すっごい気まずい。


 今までシオンと二人きりになってこんな気まずい思いしたことなかったのに。


 素直におしゃべりできない。別に見つめ合ってないけど。


 でもせっかくミラさんが俺たちのことを気遣ってこの場を設けてくれたんだ。


 何か喋らないと。会話しないと。俺が会話の主導権握ってリードしないと。


「あ……あのさ、今日、俺、弔葬部隊のみんなと顔合わせしてさ。みんなめっちゃいい人でさ、よかったよほんと」


 なんてぎこちない世間話の振り方だ。しかもただの自分語り。


「シオンはどうだった? 医療班の人達と打ち解けた?」


 シオンは答えない。無表情でどこかを見つめている。


「ああ、ごめん、喋れないんだった。全く参っちゃうよな。俺って」


 シオンの目の前で紙とペンを錬成する。 


「はいこれ。筆談はできるんだもんな」


 それを見てシオンは目を見開いて強張る。


「あっ……」


 信じられないものを見るように紙とペンを凝視していた。


 シオンは虚空を見てたんじゃない。浮かぶマナを眺めていたんだ。


 錬金術を使用すると辺りのマナに影響が出る。それがシオンにとって当たり前のことだった。


 それを覆すイレギュラーな存在が現れた。俺だ。マナを使わずに物質を作り出す異物。


 そんな俺の錬金術を見て、ありえないものを見て、フラッシュバックしたんだ。


 月と共に映し出される真白な異形を思い出す。


 シオンにとっては、ただの三原質の錬金術ですら自分の常識を超えた恐ろしいものに見えたんだ。


「ごめん。怖いよな、こんなの。ごめん」


 慌てて紙とペンを背中に隠す。


「てか、気持ち悪いよな。俺、なんでこんなことできるんだろな」


 引きつったような、ぎこちない笑顔を貼り付けて俺は早口でしゃべる。


「ごめん、俺、寝るからさ。いびき、うるさかったらごめんな」


 勢いよくベッドにダイブして布団に包まり、シオンとは逆方向を向く。



 ――なにをやっているんだ俺は。シオンを怖がらせて。なんなんだ俺は。



 後ろから布の擦れる音がした。シオンも横になったのだろう。


 滑稽な話だ。シオンと向き合うどころか、シオンの顔まともに見れないなんて。


 彼女が俺の方向に身体を傾けて寝ていることを、そっぽ向いて寝てる俺は知らない。


 気づくわけもなかった。

第15話、いかがだったでしょうか。




宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。




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