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第14話 ハサ

 土の国の南部に位置する町、ハサ。第七師団の馬車の群れが町中を凱旋する。


 最南部にあたるヒスイ村と比べるとそれなりに発展しており、建物は石造りが多かった。


 町の人々は俺達を大手を振って歓迎してくれた。


 中でもミラさんはたいそうな人気で、老若男女数々の人達がミラさんの名前を呼んでいた。慕われてるんだなぁ。


 一瞬、一人の子供が目に留まった。八、九歳くらいの女の子だ。人形を抱えて、髪を二つ縛りにしている。


 パッと見、ただの普通の女の子だが、俺が気になったのは彼女の表情だ。


 眉間にしわを寄せながらこちらを恨めしそうに睨んでいた。


 あの力に目覚めてから、動体視力も強化された。生身の俺でもこれくらいは見逃さないくらいに。


 すれ違う人たちを一人一人観察していく。誰も彼もがミラさん達に感謝の念や好意の表情を向けており、恨みがましく見るものはあの子以外いなかった。


 ……あの子はどうしてそんな目を俺達に向けていたんだろう。


 そんなことを考えているうちにこの町中心の建物へと辿りつく。


 馬車を降りてキョロキョロと辺りを見渡す俺を、ミラさんがこちらに来るように促す。


「ようこそおいでくださりました」


 町長らしき老人がミラさんと握手を交わした。


「少しの間だけ滞在させていただけるでしょうか」

「もちろん。団員の皆様もさぞお疲れでしょう。小さな町ですが、どうぞゆっくりおくつろぎください」


 土の国は四つの国の中で最も領土が広い。最も栄えて重要な部分まではまだまだ距離がある。ここで休息をとって英気を養うってことなんだろう。


 後ろから役人らしき人が現れて、町長とこそこそ話をしていた。

 町長は一瞬驚いた顔をして、悩ましく思案した。


「どうかなさりましたか」

「それが……」


 どうやら団員を迎え入れる為の宿には既に先客がいたらしい。つまり師団員全員の宿がないことになる。


「なんとか、先のお客様に場所をお譲りしてもらうよう掛け合いますので……」

「いや、それには及びません。アポも取らずに私達を迎え入れただけで非常にありがたく思っております」


 ミラさんは続けてどこか野営できる広い場所はないかと尋ねた。


「それなら少しはずれに丁度いいスペースがありますが…」

「助かります。案内していただいても?」

「はぁ、構いませんが……本当によろしいのですか?」

「我々は野営に慣れておりますので。場所さえ確保できれば一向に」


 そうだ、とミラさんは思い立ったように町長に質問した。


「どうか二人分だけでも宿を用意することはできませんか?」

「二人用の部屋が一部屋だけ開いておりますが」

「ありがたい。そこを貸していただきたい」

「もちろんです。手配します」


 そう言って町長は戻って行った。


 一部屋だけ予約できたみたいだ。

 恐らくミラさんが使うのだろう。ここの人たちで一番大変な仕事をしているのはミラさんだ。部隊の指揮を取るのだから身体だけじゃなくて頭や精神も使うのだろう。


 少しでも回復できるためにミラさんが一番ゆっくり休むのは合理的だ。


 俺も野営には慣れてきた。ここには市場もあるし食べ物の調達もできる。

 それだけで十分だ。

 

「ソーイチ君。君とシオン君は家族だったな」

「ええ。そうですけど」

「ならば一つ屋根の下で寝ていた。そうかな?」

「まあ、そういうことになりますけども」


 ……? なんの話をしているんだ?


「ここに滞在する間、君たちにはそこに寝泊まりしてもらう」

 

 へ?


「ちょ、ミラさん、それってどういう!?」

「私達は長期間の野営なんて慣れている。数か月の滞在にだって耐えられるよう訓練されている。だが、君たちはそうもいかない。国の中心部までもう少し時間がかかる。君たちにインターバルもなく野営を強いるのは酷だと思ったんだ」


 ミラさん、俺達を気遣ってくたのか。


「もしかしてここにしばらく滞在するってのも」

「君たちの消耗を考えたら、ここらで一休みするのが最善だと判断した」

「ミラさん! 俺、全然平気っす。全然疲れてません! 俺よりミラさんが宿で休んでください。こういうのって集団を纏めるリーダーが最善の休息を取るべきだと思います」


 ミラさんの心遣いはすごく痛み入る。本当に優しい人だ。マジリスペクト一生ついていくって感じで。でも俺は全然疲れてないしむしろ元気が有り余っている。


 これは虚勢を張っているわけではない。あの力に覚醒してからというもの、疲労感が全くと言っていいほどないのだ。あと数か月野営してもなんら問題はないはずだ。


 そんな俺よりもミラさんが体を労わる方が絶対にパフォーマンスがいい。


 それになにより――


「ほら、シオンも年頃ですし。俺なんかと一緒にいても休まらないでしょう。あいつ、ミラさんにすっごく懐いてるように見えるから、ミラさんが隣にいてくれた方が絶対いいと思います!」

「……なるほど。君の言いたいことはわかった。元気なのもよろしい。だが、私の見るところによると君たちの関係性はだいぶギクシャクとしている。違うか?」


 うっ、痛いところをつかれる。


 ご指摘の通り、俺はシオンとあれから会話を交わすことができていない。


 いや、もちろん今のシオンは喋れないから会話を交わすなんてことはできないんだけど。


 筆談でのコミュニケーションすら取れていないのだ。


 ミラさんの言う通り、正直うまくいってないのが現状だ。


「ここらで少しでも開いた距離を縮めるべきだと、私が思うがね」


 ミラさんは白い歯をニッと見せて笑う。


「それに、私が何年戦っていると思っているんだ君は。どんなところでも寝られるし、いつだって万全に近いコンディションを整えるように鍛えあげている。君の気遣いはとてもありがたいが、それには及ばないんだ」

「ミラさん……」

「悩んでるのは君だけじゃない。シオン君だって、君とどう接していいかわからないんだ。まずは、今まで通り側にいてやることから始めたらいい」

「……はい。ありがとうございます」


 ミラさんはにこりと笑って俺の頭を撫でた。


 惚れちゃいそうだねほんと。なんか頼れるお姉ちゃんができたみたいだ。

 一人っ子の俺には新鮮さがすごい。


「さて、野営の準備と行こうかな。元気が有り余っているソーイチ君にも手伝ってもらおうかな」 

「はい! 俺バリバリやりますよ」


 肩を回してはりきる俺をミラさんはクスクスと笑った。


「ああ、そうだ、ソーイチ君」

「はい?」

「くれぐれも節度は守るんだぞ。新しい命を迎え入れることは尊きことだが、部隊に入って早々産休を取るのはあまり心象はよくないからな」


 節度、新しい命、産休。

 繰り出されたキーワードを繋ぎ合わせてミラさんが何を言いたいのか俺のIQ53万の脳内PCで算出する。導き出された結論は――


「ちょっとミラさん! 俺とシオンはそういう関係じゃないって! てか襲わないよ! こんな状況で」

「ははは。本当に元気いっぱいだな君は」


 この人には本当に敵わない。でもちょっとそれはどうかと思う。


 俺たちの世界で職場の部下にそんなこと言ったら超セクハラだ。


 ミラさん、デリカシーは大事っすよマジで。俺が言えた話じゃないけど。

第14話、いかがだったでしょうか。




宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。




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