第13話 シオンの真価
「これで仮登録は済んだ。君は弔葬部隊の錬金術師となった」
ミラさんが色々な手続きを代わりにやってくれた。
こういうお役所仕事、昔っから苦手だったっけなあ。なんだかんだやってたけど。
「……本当にこれでよかったのか?」
「何がですか?」
「君は本来無関係な一般人だ。そんな君を、後方支援とはいえ戦場に出ることになる。前にも言ったが、どこかの都市で暮らすこともできたんだ」
「そこって絶対安全なんですか?」
「……もちろん連合の術師達が守っている。だが、絶対安全なんて口が裂けても言えない」
「ですよね」
話によると、敵性生命体は栄えている重要な都市部を重点的に襲っているらしい。
だからこそ、ヒスイ村は手薄だったのだろう。
もちろん、都市部に行けば行くほど、強い錬金術師たちが揃っている。
比較的安全なのはそういう術師達が集まっている場所だろう。
「ミラさん、奴らは一体、何者なんですか? どうして俺たちが襲われなきゃならないんですか?」
「……私にもわからない。奴らは数十年前に突然現れた」
この大国は五つの国に分けられている。。
一つは今いる母なる大地、土の国。
一つは風力が盛んな風車の都、風の国。
一つは辺り一面が海で覆われている水の国。
一つは巨大火山付近に身を置いた火の国。
そしてその四つの都市の中間にある王族の領土。
ある日、火の国と王族の国以外の三か国で、奴らが現れた。
黎明の頃は、奴らに蹂躙されていたそうだ。
だが、各国の錬金術師たちが手を組み、王族からの協力を得て、王国改め錬金連合国を立ち上げた。
連合は錬金術師たちを鍛えあげ、新たな錬金術や兵器開発に力を入れ、遂には奴らと勢力を拮抗させるところにまで行きついたのだ。
「そしてその戦いは今でもなお続いている。もちろん、犠牲者は最初の頃よりも減少したが、それでも一定の数出てしまっているのが現状だ」
「その犠牲者を回収して弔ってあげることが……」
「君たち弔葬部隊の役目というわけだ」
ミラさんはにこりと口角を上げ、俺に微笑んだ。
「君の化粧技術が必ず役に立つ。役割は違えど、志は一緒だ」
「はい!」
力強く返事を返して意気込みを見せた。
「それとこれを」
ミラさんは懐からシンボルのようなものを取り出して、俺に渡してくれた。
「君達非戦闘員には、『鉄』の称号が与えられる」
「鉄?」
「錬金術士には七つの階級がある。高い順から金、銀、水銀、錫、鉛、銅、鉄の順に並んでいる」
銅……そういえばヒスイに駐屯していた錬金術師が銅の階級を持っているとか言ってたっけな。
あの人、偉そうなこと言ってる割に下から二番目だったんだな……。
「ミラさんはどの階級なんですか? 銀とか水銀とか?」
「私は『錫』だ」
「ミラさんでも上から四番目なんですか!? じゃあ金とか銀はどんな人がなるんですか?」
「現代に金と銀の錬金術師はいない。金と銀はある意味特別な称号だからな。過去の凄まじい偉人達にしか与えられていない称号だ」
「偉人?」
「錬金術を最初に創り出した、『始まりの錬金術師』が『金』の称号を。続いて四元素錬金術を編み出した『四始祖』と呼ばれる四人の錬金術師が『銀』の称号を持つ」
始まりの錬金術師に四始祖か。この人たちが錬金術師の頂点だった人達ってことか。
「じゃあその金銀はその五人だけってことですか?」
「そういうことだ。だから現代で最も階級の高い錬金術師は『水銀』の称号を持つ四人の錬金術師だな」
「その人たちも連合の錬金術師なんですか?」
「協力関係ではあるが、正確には彼らは連合に所属してはいない。今のこの時代で、各元素の錬金術を最も高い練度で扱える術師だ」
「じゃあ現代で一番強い錬金術師が」
「その四人というわけだ」
最強の錬金術師ってことか。すげえ。ロマンあるなぁ。
「まずは一番下の鉄からスタートってことですね? じゃあ水銀目指して頑張ります!」
「……すまないが、君たちは鉄から上がることはできないんだ」
え? そうなの?
「戦闘に関する貢献度が上がるにつれて銅、鉛と上がっていくのだが、弔葬部隊のように直接戦闘とは関らない術師は鉄から上がることはない」
マジか。俺は鉄で打ち止めか。出世への道は絶たれてしまった……。
「それでも大切な役割だ。気を落とさないでくれ」
「あ、はい! ……そういえば、シオンのことですけど彼女は土の国の都市で暮らすことになるんですか?」
「いや、彼女のことだが」
ミラさんは一拍置いて俺にこう告げた。
「彼女は私の隊の医療部隊に加わることになった」
――頭の中が真っ白になる。
「な……なんで! どういうことですか!?」
シオンが第七師団に!? どうして! あの子は戦えないはずだろ!?
「落ち着くんだソーイチ君」
俺はいつの間にか、ミラさんの肩を掴んでいた。ミラさんは落ち着いて俺の手を払った。
「彼女との会話でわかったことがある」
ミラさんは指先にボゥッと炎を灯した。
「我々が使う錬金術は大気中のマナと結合することで発現する。つまりマナを消費しているわけだ。しかし我々にはマナは見えていない。あくまで仮説としてそう成り立っている」
「それは……知ってます」
「シオン君は、彼女にはマナが見えている」
『なんていうか、他の人たちの錬金術って、周りに漂ってるマナが減ってるように見えるの。でもソーイチが錬金術って周りのマナに全然影響がないの。だから不思議だなあって』
そういえばシオンが言っていた。
本当だったんだ。
そもそもシオンは俺の錬金術を見てマナを消費していないことに気づいていたじゃないか。なんでそこで気づかなかったんだ。
「彼女はマナに含まれる元素一つ一つを認識できる。つまり一単位レベルの緻密な錬金術ができるということだ。四つのマナを全く同じ配分で錬成させて行う高等技術。わかるか?」
「回復錬金術……」
ひよりに見せてもらったことがある。
俺がまだへたくそだった時、強すぎる錬金術を扱いきれずに暴発させてしまい、大けがを負ったことがあった。
その時にひよりが俺に施してくれたのが回復錬金術だ。
ひよりは一瞬で俺の体を全快にしてくれた。
そしてこうも言っていた。
『ソーイチはマナが使えないから回復術は使えないから注意してね☆』
「私は彼女の前で指を少しだけ切った。そして回復術の原理を教え――」
ミラさんは左人差し指をこちらに差し出す。
「同時に試してもらった。四元素を均等に配分して錬金できるかと」
傷一つない、真っ白できれいな指だった。
「思った通り彼女は回復術をものにした」
「でもっ、シオンの錬脈回路は強くないはずです。だったら、せいぜい指の先を切った程度の傷しか治せないはずだ!」
「私もそう思ったよ」
ミラさんはおもむろに鎧を脱ぎ捨て、中に着込んであるインナーをめくった。
ちょ! 急になんなんだぁ!?
真っ白なお腹にきれいなへそ、ちらりと見える下乳に釘付けになる。
「な、なにを」
「君はこれを見てどう思う」
「へえ!? そりゃ、結構なお手前といいますか、すっごく綺麗と言いますか、いやあ、いいもん見たなというか」
「そうだ。きれいになっているんだ」
ミラさんは続ける。
「私の身体には敵性生命体たちとの戦いの傷が深々と刻まれていた。決してこんなきれいな身体ではなく、見るに堪えない醜い消えない傷跡がな」
「そんな、そんなのはどこにも――」
「彼女が治してくれたんだ」
息をのんだ。
そういうのって現代の技術でも再生が難しいんじゃ。
「皮肉なものだ。女としてのミラ・ミカエリスはあの時死んだと思っていたんだがな」
ミラさんは自嘲気味に笑う。
「彼女の錬脈回路は確かに並のモノだ。だが、異常に効率がいいんだ。彼女の錬脈回路に、マナ自体が大量に吸い寄せられている。より少ない生命力と弱い回路を膨大なマナの力でカバーできる」
「そんなこと、村では一度も」
「環境の問題だろう。優秀な錬金術師の強力な術を見ておらず、一般的な術師のソレばかり見てきたから、錬金術とは、自分が出せる力などその程度だと無意識にセーブしていたんだ」
「シオンは……あいつは納得してるんですか!?」
「彼女から申し立ててくれた」
「なっ……!」
「自分の力で誰かの命を救うことができるのなら、是非とも使ってほしい。と」
「…………」
――ああ。言うさ。あの子ならきっと言う。
目の前で傷つけられている人がいた。助けてあげたかった人達がいた。
シオンも悔やんでるんだ。もしかしたら自分がみんなを助けてあげられたんじゃないかって。
「君の気持ちもわかる。できることなら私だって彼女にできるだけ安全なところで暮らしていて欲しい。もちろん君にもだ。だが、ここに所属する術師たちも彼女と同じ生い立ちを持つ者もいる。入隊を希望している以上、彼女だけ特別扱いで入隊拒否はできない」
「医療部隊は……俺達と同じで後衛なんですよね?……前線で戦うことなんてしないですよね?」
「もちろん、基本的には後ろに下がってもらう。医療班の安全は何よりも優先すべきことだ」
だが、とミラさんは
「場合によっては前線に出て、その場で治療を行うこともある。もちろん護衛もつけるが、絶対安全とは言えない」
「そんな……」
「君たちだってそうだ。団員として共に戦場に足を運ぶ以上、どこで命を落とすかわかならない。私達、連合国所属錬金術師に絶対の安寧はない」
…………俺は甘かった。
自分が危険な目に合うことだけを覚悟していた。
心のどこかで、シオンは安全なところに避難できると思ってた。
でも現実は、あの子はより危ない戦場におもむく事になってしまった。
甘かった。
これがこの世界の現実だ。
自分の大切な人だけ安全なところで守ってもらえるなんて、甘かったんだ。
「もうすぐ町に着く。休息を取ったら一気に中央まで進む。今のうちに体を休めておくといい」
そうミラさんは俺の肩に手を置いて荷台の中へ戻って行った。
もうすぐ近くの町に辿り着く。少しの間だけ滞在するそうだ。
煮え切らない心中のなか、馬車は俺たちの世界のよりも遥かに早く駆けて行った。
第13話、いかがだったでしょうか。
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