第12話 バンビ・ウラリス
「な゛あ゛に゛こ゛れ゛え゛! 超 む゛す゛か゛し゛い゛ん゛て゛す゛け゛と゛お゛お゛お゛お゛お゛! !」
俺は第七師団の葬儀部隊だかなんだかの副隊長にメイクを教えていた。
正確にはメイク道具の錬成。ファンデとかチークとかリップとかの。
この世界にもメイクという文化は確かに存在する。だが、俺たちのいた世界程発展はしていない。
だからといって、この世界の人達が元の世界の人々より容姿が劣っているというわけではない。
例えば、バンビは元から綺麗かわいいの顔立ちをしている。
元の世界にいれば、お茶の間を席巻するギャルタレントになってただろう。
だからこそ、勿体ない。
俺ならこいつをもっときれいにできる。
「だーから言ってるだろ? 水と土の比率を3:2にして、そっから火で炙って抽出するの!」
「そ゛れ゛わ゛か゛ん゛な゛い゛よ゛お゛お゛! !」
しかしこのザマだ。何度説明しても全然うまくいかない。俺は教えるのに向いていないんだろうか。
ひよりならもっとうまく教えられたんだろうなぁ。
「大体なんでそんなにピッタシ比率がうまくいくのさ! 錬脈回路だけの錬成ならともかく、マナ混ぜながらそんな細かいの出来ない! 錬脈回路での錬成も無理だけど!」
「あ、なるほど……」
そうか、そりゃあ違うわけだ。みんな普通、四元素を扱う錬金術を使っている。
俺みたいに三元質のみの錬金術とは違うんだ。
そりゃあ認識に齟齬が出る。無理に決まっていたのだ。
そう考えるとひよりってすごいんだな。
専門外の三原質の錬金術を俺に教えてくれるなんて。
やっぱあいつすげー才能あるんだな。
……あれ? 待てよ。よく考えればひよりって俺の事見守ってるんだよな。
ひよりの手帳を取り出す。
あいつ、俺が大変な時に何やってたんだ?
危ない時は助けてくれるんじゃなかったのか!?
文字が書かれている最後のページを開く。
案の定、ひよりの一方的なメッセージは更新されていた。
『ごめんなさい、想一。
今、私達も滅茶滅茶修羅場でどうしてもそっちに行けなかったの。護ってあげられなくてごめんね。
でも心配はしていません。そろそろ想一が覚醒する頃だと思ってたから。 』
そっか、ひよりも戦ってたんだ。俺達とは別のところで。
覚醒。
それはあの白い異形のことだろうか。
ひよりは知っていたのか。あの白い異形の正体を。
だったら教えてくれよ! あれは一体何なんだ! 俺は一体どうなっているんだよ!
『P.S 想一のことだからあの白いのなにー!? っとか思ってるでしょ。
あれが本来の塩の錬金術の真骨頂なの。誰にも破壊できない不壊の肉体。
繋ぎとめる塩の錬金術らしいよね 』
らしいよねじゃないんだよ。おい。
『でもあの正体が想一ってことは誰にもバレちゃダメ。絶対に隠し通して。
あの力は錬金術師の世界にとってすっごいすっごいタブーな存在なの。
もしバレちゃったら、想一どんな目にあわされるかわからない。
カイボーとかされちゃうかも 』
縁起でもない!
『三原質の錬金術で戦ってもダメ! 普通戦えるレベルまで三原質の錬金術は使えないの。
勘のいい人なら、そこから想一の正体に辿り着いちゃうかもしれないからね。 』
そういうことか。
あれだけ念を押して俺に戦わせないように釘を刺していたのはこのことだったんだ。
『生き延びてね、想一。その力がきっと世界を救うカギになるかもしれない。 』
ひよりのメッセージはここから途切れている。
俺が世界を救うカギってどういうことだ?
てか、俺の体ほんとにどうなっているんだろう。
そんなことを考えながら手帳を眺めていると、横から怒り心頭になったバンビが耳元で叫ぼうとしている。
「あたし無視して何してんのーーーーー!!」
ぐあああああ音波攻撃! 鼓膜キーンってなった。
「なにそれ! もしかして秘密のメイクレシピ!? 見して見せて見せなさい!!」
「だあああよせ! これは紳士のたしなみだ! プライベートフェチズムだ!!」
わーぎゃー、と手帳を巡る取っ組み合いになる。金色の髪の毛が俺の顔面にぺしぺしと連撃を食らわせる。くしゃみ出そう。
「えぇ……、ソーイチクン女の子と一緒にいるのに自作のカンノー小説見てるんだ。それやめた方がいいよ? 結構きもいし、割とマジでヒク」
「あーそうさ、気持ち悪い奴なんだよ俺は。大体、男のくせに女の子より化粧うまい奴なんて変だろ? そーいう奴なんだよ俺は」
「なんで?」
真っ直ぐな瞳が、俺を真っ直ぐに射貫いた。きょとん、とした顔で俺を見据えてくる。
「なんで、ソーイチクンが私よりメイクうまかったら変なの?」
「そりゃあ、メイクって女の子がするもんだし? 男がうまかったら不自然だろ」
「不自然だとだめなの? ソーイチクンのメイクすっっっっごく綺麗だったよ?」
曇りない瞳、曇りない言葉が俺の心に突き刺さる。
「あの時女の子、いたよね。小さな女の子」
「……ああ、いたさ」
「私、あんな小さな子が殺されるところ何度も見てきた。すっごい嫌な気持ちになった。げーって吐いちゃったりもした」
「……ああ、わかるよ」
「でも私、戦えないから、護れないから、ああいう子達を助けることって絶対にできないの。弱いから」
「…………」
「私にできることは、その子たちが死んじゃった後にだけ。そこでしか何かをしてあげられないんだよ」
「…………」
弱いから、戦えないから、守れない。
そんなことは決してない。
強くたって、戦えたって守れないときは守れない。
もし強いだけで何かを守れるんだったら、俺はきっとあの場でみんなを救えたんだから。
「だからね、ソーイチクンはあの時、あの場で最大限にできることをしたんだよ。あの場ではあれがきっと正解だった。あの子は最後の最後で哀しい被害者じゃなくて、かわいくてオシャレな女の子でいられたんだよ」
……なんて不謹慎な話だ。
死体見てかわいくてオシャレだなんて笑えない。
でも俺も根っこは同じだ。
あの時のひよりの死に顔に魅入られてあの業界に入ったんだ。
あれ? なんであんなに化粧うまくなったんだっけ?
……思い出した。一番最初の仕事。
確か、八十才のお婆ちゃんの死化粧を担当したんだ。
家族葬だった。おじいさんは先に他界してて、参加していたのは息子夫婦とお孫さんと、
お婆ちゃんの妹さんだった。
『よかったねぇお姉ちゃん。最後にこんな美人さんにしてもらえてねえ』
妹さんは俺の手を取って何度もお礼を言ってくれたんだ。
『ありがとう。お兄ちゃんありがとうねぇ。こんなに幸せってないよお姉ちゃん』
動機は歪だった。ひよりに魅入られて、呪われて、縛られて、それを誤魔化して入った業界だ。
それでもあの瞬間だけは、初めて自分の仕事に誇りを持てたんだ。
死者だけじゃない。俺の化粧は生者の心も確かに救ってたんだ。
「……はは」
なんで忘れてたんだろう。どうして思い出せなかったんだろう。
俺があの仕事を死ぬまで続けていた理由。
俺はただ、何かに寄り添って生きていたかったんだ。
手を取り合って、共に前を向いて歩きたかった。
「……悔しい、悔しいなあ……」
「へ? どったのソーイチクン」
会って間もないこの子に敵わないと思ってしまった。
どうして俺はこうも女の子に弱いんだろうか。
「ありがとう、バンビさん。俺、今自分が誇らしいよ」
俺がそう微笑むと、バンビさんは「バンビでいいよー」と真っ白な歯を剥き出しにしてダブルピースをバチコリ決めた。
ふと、視界に赤い髪束が目に入る。ミラさんが話に入るタイミングを見計らっていたそうだ。
咳ばらいをしてこちらに入ってきた。
「すまない、邪魔だったかな」
「シダンチョー! おつでありまーっす」
バンビはビシッ! と敬礼した。この人だれにでもこうなんだろうな。
「ソーイチ君、君の今後なんだが――」
「ミラさん」
俺は立ち上がってミラさんの目をまっすぐ見て、こう言った。
「俺を弔葬部隊に入隊させてください」
小難しいことを考えるのはもうやめだ。
第12話、いかがだったでしょうか。
宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。
レビューもお待ちしております。




