第11話 どんな時でも腹は減る
俺たちは赤髪の女性、ミラさんに促されて馬車へと乗り込んでいた。
彼女達の拠点である、土の国と呼ばれる主要国へ移動するらしい
俺たちの処遇はそこで決まる。
俺は馬車の荷台の屋上で、顔を膝に突っ伏していた。
シオンも同じ馬車に乗っているが、合わせる顔がない。
あれからずっと頭の中で考えていた。
村が滅んだのは俺のせいなんじゃないかと。
結果的に俺はあの化け物どもを倒した。倒せる力を持っていたんだ。
もし、おばさんのお使いを引き受けたのが俺じゃなくて本来依頼されていたシオンだったら。
みんなと一緒に俺が怪物達に襲われていたのなら、俺が覚醒してみんなを守れたのかもしれない。誰か一人でも救えたのかもしれない。
「なに余計なことしてんだよ……」
あの時俺がシオンから無理矢理仕事を奪ったせいで村が滅んだ。俺のせいだ。みんなを助けることができたかもしれないのに。
きっと、シオンだってそう思ってるはずだ。
だから目も合わせてくれないんだ。
「ソーイチ君」
なんで俺みたいなやつが生き残っている。
俺は元々死んだ人間のはずだ。
元の世界で命を終えた人間だ。
「ソーイチ君!」
この世界の人間とは違う。
死んだみんなは、一度しかない人生をあんな悲惨に終わらせてしまったんだ。
どうして俺なんかが…!
「ソーイチ君!!」
ハッと我に帰って顔を上げる。
ミラさんが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫か? 気分が優れないように見えるが......」
「……すみません、考え事してました」
頭をかいて、愛想笑いで誤魔化す。
でも今俺、上手く笑えていないんだろうな。
口元だけ引きつらせて、いびつな表情をしているのが自分でもわかる。
「……無理もない。あんなことがあったんだ。考え込んでしまうこともあるだろう。自分を責めないことだ。君が生き残ったことは決して悪いことではないのだから」
「俺、ずっと考えてて。俺なんかが生き残ってよかったのかなって。本当はもっと生きたかった人が、生き残るべき人がいたんじゃないかって」
俺の言葉を聞いて、ミラさんは考え込むような仕草を見せる。
そしてゆっくりと言葉を開いた。
「君のような境遇の人間をよく見てきた。その度に君と同じようなことを言っていた。精神医学のことは私は専門外だが、君が抱く罪悪感をサバイバーズギルトと言うらしい」
「サバイバーズギルト……」
「彼らを見る度に私はどう、言葉をかけるべきかよく考えることがある。その度にこう思うよ」
ミラさんは俺の手を両手で包み込んでくれる
「君が生きてくれて、私は嬉しい。君がどんなに生き残ったことを責めようと、必ず君の生を心から喜んでくれる人がいる。それだけは覚えていてほしい」
「……俺には……わかりません」
「シオン君が生きていた時、君は嬉しくなかったか?」
「それは……」
シオンが無事だとわかって不快に感じたことなんてあるものか。
心底ほっとしたさ。
「彼女と少し話した。筆談だがね。自分だけ生き残ったことに対して思うことがあると言っていた。彼女も君と同じものを抱えている。それに寄り添えるのは私でも他の誰でもない。君だ」
そう言ってミラさんは俺の肩を熱く叩いた。
「支えてやるといい。家族なんだろう?」
「…………」
「まあ、すぐに立ち直れなんて言わないさ。これを」
ミラさんは食事の入ったトレーを渡してくれた。パンと干した肉、野菜のスープだ。
においをかいで腹の虫が鳴ってしまった。
「よかった。食欲はありそうだ」
ミラさんはそれを聞いてクスクスと笑った。
少し恥ずかしい。
「こんな時でも、お腹は空くんですね」
「ああ。こんな時だから食べなければいけない。食べれるということは、生きることができるということだ」
ミラさんは懐から携帯食料のようなものを取り出してかじる。
君も、と促されて俺もスープに口をつける。
あったかい。
一口食べたらもう止まらない。
パンと干し肉を同時にかじり、むせ込んでしまう。それをミラさんにまた笑われてしまった。
「そういえば、君は祈りを捧げる時、こう祈っていたね」
ミラさんは合掌のポーズをとってそう尋ねた。
「私の知っている祈りとは違った。こう、手を組んで祈るのが一般的だと思うのだが」
背筋に緊張が走る。しまった。俺がここの世界の人間じゃないことがバレてしまう。
「あの村ではそういうふうに祈るのかな」
「……実は俺、ここよりもっと遠くの国から来たんです。すごい小さな国で」
下手に肯定するのはいい手ではない。シオンに聞かれたら一発でバレてしまう。
「そうか、なんて国なんだ?」
「それは――」
「師団長、お話が」
馬車の荷台から、団員がミラさんに声をかけた。
「ああ、すまない。今行く。とにかく、君たちの今後については心配しなくていい。中央の都市に身柄を預けるように掛け合うつもりだ」
そう言ってミラさんは荷台に戻って行った。
◇◇◇◇◇
馬車の中でこっくりこっくり舟をこぎながら、微睡んでいる。
寄り辺のなくなった俺に残された道は二つだ。
村よりももっと栄えた中央の都市でひっそりと暮らすか
あるいは――
「ねぇねぇ君君♪」
やたら明るく、きゃるんきゃぴきゃぴした声が聞こえてきた。
その声が俺に向けられたことに気づくのに少し時間がかかった。
「君だってばそこの君! えと、ソースケ? ソータロ? それともソーダクン?」
「……想一」
「そうそう! ソーイチ、ソーイチクン。君だよね? 遺体にメイクしたの!」
「そう……だけど」
「あたし達に教えてよ! あのメイク! すっごい綺麗だった! 死人に化粧とか発想がなかったわーマジで天才! ちょーリスペクト!!」
……なんなんだこのギャルは
金髪で碧眼。テンプレのような外国かぶれの白ギャルだ。
年端は十八、十九辺りか。
人が傷心の時にデリカシーのないことをずけずけと。
「……あんた誰」
「あーごめんごめん。自己紹介してなかったね」
ギャルは立ち上がる。彼女の身に纏っている召し物は、まるで冠婚葬祭に着る時のような黒装束にシスターの要素を足したような服装だった。
「あたし、バンビ。バンビ・ウラリス。第七師団弔葬部隊副隊長ね」
「弔葬部隊?」
「そ、死者の魂とか弔ってんの。よろねー」
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