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第10話 第七師団 師団長 ミラ・ミカエリス

 錬金連合軍第七師団、師団長ミラ・ミカエリスは虎の怪人を追っていた。


 想一が滞在していた村より離れた場所で幹部階級の虎の怪人率いる、敵性生命体と戦争を繰り広げていた。

 

 相手は少数精鋭だったがこちらは数で圧倒しており、長い戦いの果て、怪人集団を全滅させ、虎の幹部をあと一歩のところまで追い詰め、逃してしまった。


 それから数日経ち、奴らの動向を探っていた。


 村に突如現れた敵性生命体を駐屯術師達が目視で捕捉、即座に応援を要請し、第七師団は応援に向かった。


 しかし、村と第七師団の距離は遠く離れており、部隊が村周辺に到着するまでに一夜明けてしまった。


 ミラは馬車の最前列で辺りを警戒していた。

 遠目に、人影が見える。怪人か人かの区別はつかない。


「止まれ」


 後方にいる部隊に静止をかける。

 ミラは馬車から降り、腰に提げてあるサーベルを引き抜いた。


「総員、警戒態勢。前方に人影在り、前方に正体不明の人影在り」


 無線に似た錬金器具(大気中のマナに含まれる空気の元素を媒介に音声を伝達する器具)で部隊と連携を取る。


 静止して様子を伺う第七部隊。前方から現れたのは村の娘と思われる少女だった。

 

 少女の表情は尋常ではない。消耗しきった顔はやつれきっており、髪の毛の一部がストレスで白く変色している。黒と白のツートンカラーに変貌した頭髪が痛々しい。 


「ヒスイ村の者か」


 ミラが少女に問うが、少女は答えない。正確には答えようと口を開いているが、声を出せないでいるように見える。

 必死で彼女の来た道を差して何かを訴えていた。


「……わかった。怖い思いをさせてすまない。村に案内してくれるかな?」


 少女はコクンと頷いて、道を引き返そうとしたが、

 ミラは彼女を気遣い馬車に乗せてあげた。


 少女の道案内を頼りに第七師団は森を抜け、ヒスイ村に到着した。

 既に、日が上ろうとしていた。


 全員馬車を降り、辺りを警戒する。

 道端には血痕や、魔獣の残骸が散見される。

 

 ミラは少女の案内を頼りに先行する。

 そしておかしな光景を見た。

 村人だと思われる死体が並べられ、顔は綺麗に化粧を施されていた。


 この世界にも化粧という概念は存在する。だが、ここまで美しく人の顔を彩る技術を見たことはない。

 

(一体だれがこのようなことを……)


 ミラは奥に人影を確認した。

 

 それは少年だった。一人の少年が美しく飾られた屍の中、一人手を合わせながら祈りを捧げていた。


 日の出の逆光でその顔は確認できなかったが、確かに慈悲の元、故人をしのぶ鎮魂の相が見えた。


 やがて、彼は動き出す。踵を返してこちらに向かおうとする少年を、ミラが呼びかける。


「そこの君!」




◇◇◇◇◇◇



 

 急に呼びかけられて心臓が飛び跳ねそうになる。

 

 また奴らか!? まだ戦えるか!? 


 そう身構えた矢先、目に入ったのは、赤い髪の女性だった。

 歳は二十代半ばくらいか。紅の髪を真っ直ぐに伸ばした精巧な顔立ちをした女性だった。


「これを君が?」

 

 女性は俺に問いかけた。声色は優しかったが、ほんの少し警戒が見える。


「えぇ。……みんな、俺の知り合いです」

「……そうか、辛かったね。もう大丈夫だ。私達、錬金連合軍第七師団が来た。君を保護しよう。彼女の他に生き残りはいるかな」


 そう言って、赤髪の女性は後方を差した。

 そこには黒と白とが入り混じった髪の、よく見知った顔をした少女が佇んでいた。


 「……シオン?」

 

 間違いない。シオンだ。でもその髪色はなんだ? どうして白くなっている部位があるんだ?


「ストレスだろう。あまりに強いショックを受けると錬脈回路に異常をきたし、髪が変色することがある。体質にもよるが、珍しすぎることではないだろう」


 赤髪の人がそう補足してくれる。


 ……当然だ。家族や知り合いを惨殺され、自らも殺されそうになったんだ。

 そのうえ、共に暮らした、家族だと思っていた人間が異形に姿を変えた。

 こんなことがいっぺんに起こって平常でいられるわけがないんだ。


「……君に聞かなければいけないことがある」


 真剣な面持ちで赤髪の人が辺りを見渡しながら聞いてくる。


「あれをやったのは誰だ」


 彼女の視線の先には、俺が切り落とした虎の怪人の首が転がっている。


「私達はあいつを追っていた。奴は敵性生命体の幹部に当たる地位にいた。相当の手練れだろう。私一人では殺しきることができなかった。一体だれが奴を殺したのか」

 

 赤髪の人は続ける。


「君は見たんじゃないか? 奴を叩きのめした存在の姿を。じゃなければ君一人生き残っているのはおかしい」

「……彼女は、シオンは何か言っていましたか?」


 赤髪の人はシオンに目線を向ける。


「……彼女は喋れたのか?」

「え?」

「彼女は、喋れないんだ。ここに来る時も、身振り手振りで必死に私達を誘導してくれた」

「そんな! シオンが……!」

「恐らく、この一件でのショックが言語障害も引き起こしてしまったのだろう」

 

 ……そんな、まさか……!

 シオンを見る。俺の視線に気づいたシオンは、身体を両腕で抱きながらすぐに目を逸らした。

 奇麗なツヤのある黒い髪だけではなく、言葉すらも失ってしまったのか……


「ただ、筆談はできるそうでね。彼女にも事情を聞いた。ギリギリのところで命を繋いだそうだ」


 ……シオンは俺のことをこの人たちに報告していない?


「奴を葬った存在に心当たりはあるかい?」


 赤髪の人が再びシオンに問う。シオンは首を振ってそれを否定する。

 

 シオンは俺の変貌をその眼で見届けたはずだ。ならばその問いに答えるのは簡単なはずだ。

 こちらを指さすだけで終わることだ。

  

 シオンは……俺を庇ってくれているのか?

 

 今ここで、俺の正体を明かしたらどうなる。俺も奴らの仲間だと思われて、この場で処刑されるんじゃないか?

 

 それを危惧して、シオンは黙っていてくれているのかもしれない。


 であれば、俺の答えは決まった。


「すみません。俺、森で気絶してたみたいで。村に戻ったらもうこの有り様で……だからせめて、みんなが安らかに眠れるように、やれることを……やったんです」

「そうか、……辛かったな」


 赤髪の女性は俺の頭を撫でてくれた。

 年上なんだけど、本当は同年代かちょっと下の女の人に頭を撫でられるのは何とも言えない感覚だ。


 なんともいえないだけに。


 なんとも泣けてくる。


 なんだかこの世界に来て涙もろくなった気がする。

 

 精神が肉体に引っ張られているのかそれとも、

 ただそういう年齢になったのかはわからなかった。

第10話、いかがだったでしょうか。




宜しければ、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら嬉しいです。




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