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レーシング・ドリーム  作者: ぽにょ
第1章 「グランサイクルinJapan」
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始まりのレース

こんにちは!ぽにょと申します。

今作はサイクルロードレースの話となっております。

是非気軽に読んで行ってください!

よろしくお願いします!

朝日が地平線を割って昇ると同時に、小さな町はにわかに騒がしさを帯びた。今日という日は、この小さな町にとって一年で最も熱を帯びる日——伝統あるロードレースの開催日であり、町全体がそれに心を預けていた。

スタートラインに立つ僕──立花迅(たちばなじん)は、すでに全身を緊張感に包まれていた。まるで空気まで震えているかのような静寂の中、僕のすぐ隣に佇むのは、かつて日本選手権を二度制した男、佐伯真(さいきまこと)。歳月と実績がその背中に重厚さを加えていた。

「今日もワンツーフィニッシュを狙おうぜ、迅」

真さんは柔らかい笑みを浮かべ、いつものように軽やかに言った。

「もちろんです、真さん。今日は1番の走り、見せつけてやりますよ」

僕は拳を軽く握り、目を細めて応じた。その言葉の裏に、確かな自信と敬意を滲ませながら。


号砲が鳴る。空気が震える一瞬の静寂を破って、選手たちは一斉に飛び出した。僕と真さんの走りは、まさに”息が合っている”という表現が陳腐に感じるほど、緻密で美しかった。僕は鋭くプロトンを切り裂き、ペースを上げて集団の人数を削り、そして絶妙なタイミングで真さんがヒルクライムに差し掛かりアタックを仕掛ける。僕らは地元チーム「リバース」のダブルエース。いつだって、この町のレースでは2人が最前線を支配してきた。

観客の歓声が風のように背中を押す中、僕は最後の直線でペダルを蹴り尽くし、誰よりも先にフィニッシュラインを駆け抜けた。直後、ぴたりと2位に滑り込んだのは真さんだった。

「やったな、迅!今日も見事な走りだったな!」

息を弾ませながら、真さんは腕を叩いてくる。

「真さんのおかげです。いつも、本当に助けられてばかりで」

僕は照れくさそうに微笑み、言葉に真摯な感謝を込めた。だが、祝福の声と拍手の喧騒が町を包む中、僕は一人、静かな思考の海に沈んでいた。僕には、もっと大きな舞台で走りたいという夢がある。そのとき、背後からスーツ姿の男が静かに歩み寄ってきた。

「立花選手、少しお時間を頂けますか?」

「……はい? 何か、ありましたか?」

不意の呼びかけに僕は目を丸くしながらも、落ち着いて応じた。

「実は、国内トップチーム『チーム・ワルツ』が、あなたの走りに強い関心を持っています。アシストとしての起用を前提に、是非一度、お話しできればと」

その言葉を聞いた瞬間、僕の心は大きく脈打った。夢が、現実へと形を持ち始めていた。



数日後——僕は「チーム・ワルツ」との契約書にサインし、新たな一歩を踏み出す日を迎えていた。駅のホームで僕を見送るのは、やはり真さんだった。

「迅、お前なら大丈夫だ。『ワルツ』でも、お前の力を見せてこい」

その言葉は信頼という名のバトンであり、重さを伴って心に届いた。

「ありがとうございます。絶対、もっと強くなって戻ってきます」

敬意と覚悟を抱いて、僕は慣れ親しんだ駅の改札をくぐった。





新しいユニフォーム、新しいチーム、新しい役割。「チーム・ワルツ」で僕に与えられたのは、エースではなく、エースにすべてを捧げる“アシスト”という立場だった。だが、僕はそれを不満とは思っていない。むしろ、それを通じて戦略、持久力、そしてより高みへ到達するための技術と経験を得られると確信していた。いつか、もっと上のチームに移籍し、自らがエースとして総合優勝を勝ち取る——そのための通過点に過ぎない。だからこそ、今はこの役割に全力で応える。それが、自らの未来を切り開く最短距離なのだ。



そしていよいよ、チーム・ワルツの一員として、初のレースの日がやってきた。いきなりのステージレース出場という大抜擢。「グランサイクル in Japan」は世界最高峰のレースのひとつであり、海外チームもいくつか参加している。今年は日本開催のため、国内チームの数も多い。このレースで爪痕を残せれば、国内外問わず、上位チームへの移籍のチャンスだって見えてくる。そんな想いを胸にアップをしていると、背後から聞き慣れた懐かしい声が届いた。

「よっ、迅。調子はどうだ?」

振り向けば、そこには真の姿があった。

「真さん!お久しぶりです。リバースも今年出場してたんですね!」

「おう。まさか迅の新チームデビュー戦で対戦することになるとはな。俺も驚いたよ」

「僕はアシストなので、真さんと直接対決する場面はないかもしれませんが……お互い頑張りましょう」

「おう!」

ちょうどそのとき、チームメイトが声をかけてきた。

「迅君、監督が呼んでる」

真さんに軽く頭を下げてから、僕はその場を離れた。歩きながら、つい後ろを振り返る。真さんの背中には「51」のゼッケンナンバーが輝いていた。

「5」——前年の総合順位が5位だったチームであることを示す数字。

「1」——そのチームの絶対的エースであることの証。

昨年、オーストラリアで開催された「グランサイクル in Australia」で、リバースは真を単独エースとして送り出し、アシストすら満足に揃っていない中、彼は堂々の総合5位に入った。

対する僕のゼッケンは「2」だった。

一の位の「2」はアシストであることを示し、十の位が空白であるのは、「前年の総合優勝チーム」に属している証拠。そう、僕が移籍した「チーム・ワルツ」には、日本を代表するもう一人の英雄、富田慧(とみたけい)が所属している。富田さんはスプリントで真さんを凌ぎ、TTタイムトライアルでは互角の実力を持つ男だ。ヒルクライムでは真さんが上を行くが、それ以外の総合力では、ファンの間でも意見が分かれるほど。

「日本のエースは誰か?」と問われれば、多くのファンがこの2人の名前を口にする。僕はふっと息を整えた。——今、自分はその頂上を目指す道の上に立っている。間もなく、チームミーティングが始まろうとしていた。

1話完読ありがとうございました!

この話では最初から、グランサイクルinJapanが

始まるまでが読めますね。

2話はグランサイクルinJapan一日目です。

では引き続きよろしくお願いします!

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