忘れたくない思い出。
皆でゾロゾロとお祭りへ向かうと、辺りは人でごった返していた。
いつもは街といってもそこまで人がいっぱいじゃないので、ちょっと驚いて周囲を見回した。
「うわ〜〜!すごい人!!」
「‥なんだってこんなに集まるんだ」
「先生、今日はお祭り当日ですからね?」
「どうしますか?先ずは何か食べますか?」
あちこちに屋台が見えて、やっぱりお祭りは異世界でも同じ感じなんだなぁなんて感心しつつ、早速ラヴィさんの手を引っ張る。
「ラヴィさん!あっち!あの美味しそうなの食べたいです!」
「‥‥お菓子はご飯を食べてからにしろ」
「じゃあ、そこのお肉食べたいです!」
「はいはい、ほら行くぞ」
ラヴィさんはげんなりした顔をしつつ、一緒に屋台まで行ってくれた。じゅうじゅうと炭火で焼かれたよくわからないけど美味しそうなお肉にお腹がぐうっと鳴った。
「‥まったくお前は食い気ばかりだな。で、何本食べる?」
「それはそうですよ!美味しそうなの食べたいじゃないですか!あ、ちなみに4本でお願いします!」
私とラヴィさんが話すのをお店の店主さんが可笑しそうに笑って、
「そうそう。美味しいから是非食べていってくれ。これな、女王と一緒に働いていた異世界人が好きだった肉のレシピなんだぜ!うちの爺さんのまた爺さんが異世界人に助けられた上にレシピまで教えてもらったんだ!」
「そうなんですか?!うわ、楽しみです!」
店主のおじさんがニカッと笑って、お肉を紙のお皿に4本のせて渡してくれた。ラヴィさんと一緒に少し離れた場所で待っているチェルナ君とオーリさんの元へ行こうとすると、ラヴィさんがなんだか感慨深そうにボソッと、
「‥異世界人を覚えている人間もいるんだな」
と、呟いた。
「そういえば、知らない人もいるって言ってましたね」
「大分昔だしな。それに異世界人は薬を作って以来他の貴族達に妬まれて、晩年はひっそり亡くなったと聞いたから‥」
「そうだったんですか?‥それでも、ああやって覚えてくれている人がいるって同じ異世界人としては、なんだか嬉しいです」
ニコッと笑うと、ラヴィさんは周囲を見渡した。
「以前、世界中を巻き込む大戦があってな。そのきっかけが人間の王だったんだ」
「え」
「魔族と獣人が手を組んで立ち向かったが、妖精が寝返って魔族と獣人を倒そうとするし、エルフもそれを止めようとしたけれどかなり血が流れた」
「あ、だから妖精をあんまり良く思ってない‥?」
私の言葉にラヴィさんは静かに頷いた。
「人間にとってはもう遥か昔の話だが、長命種にとってはつい最近の事だからな。ただその戦いの決着をつけたのが、戦いを起こした人間の王の息子‥つまり女王の祖先だ」
「え」
「‥王の代から、ずっと諍いを起こさず平和に暮らせる世界を作れという考えを受け継いできたんだろうな。だから高価な薬を全ての人達に配る事を、女王もしたんだろうな」
ラヴィさんは「異世界人への対応は納得してないが」と付け加えると、私をじっと見つめた。
「‥もし、何かあったらいつでも言えよ」
「っへ?」
「差別はまだ無くなっていないがお前が受けるいわれはない」
「それは、私が異世界人だから?」
「‥そもそも誰しも受けるものじゃないだろ」
それまでザワザワとした人の声にかき消されそうだったのに、急に音が消えて、私とラヴィさんの二人だけがこの世界にいるような感覚になった。
「‥ま、今日は祭りに来たお陰で異世界人のことが少し知ることができて良い収穫だった。肉、冷める前に食べるか」
「‥はい」
嬉しい気持ちが胸の中いっぱいにじわじわと広がって、ラヴィさんの手を握りながら人混みの中をかき分けて行くけれど、前を向いて歩くラヴィさんの背中をジッと目で追ってしまう。
忘れ去られてしまいそうな存在をちゃんと覚えていてくれる。
ずっと大事に想っていてくれる。
‥それって簡単な事じゃないよね。
大きな手が私をしっかりと離さないように握ってくれるその力に、その優しさに、いつか帰るかもしれないけれど忘れたくないと思うと、離れがたい気持ちになってしまう。
「ラヴィさん」
「ん?どうした?」
「私も忘れません。ラヴィさんに優しくしてもらったの、忘れません」
私の言葉にラヴィさんが目を見開くと、ちょっと目を横に逸らし、
「ついでに格好良くて魔法にも優れていたと覚えておけ」
「わかりました。虫とお風呂と野菜が嫌いなのもしっかり覚えておきます」
「お前は!!もっと良い部分を覚えておけ!!」
キッと睨んできたけれど、顔が赤いから意味がないんだよなぁ。
うん、でも、この楽しいやり取りをずっと忘れたくない。
できればラヴィさんにも覚えていて欲しいな‥なんて思いつつ、ラヴィさんの手を引っ張ってチェルナ君とオーリさんの方へ駆けていった。
ちなみにお肉は甘辛い味で追加で10本頼みました。
焼肉焼き鳥焼き豚大好き!!肉は最高です。




