花と可愛いエルフ。
あっという間に夕方になって迎えに来たラヴィさんが、私達の並なみならぬ気合の入りように驚いていたけれど、事情を話すと真っ青な顔をして私の体を隈なく見てから、
「今日でバイトはやめだ」
と、あっさり宣言した。
「ヤダーー!!!絶対ヤダ!!あいつらに負けたくない!!」
「確かにお前は魔力も力もない」
「根性ならあります!!」
「‥そこは認めるが、何かあったらどうする」
「根性でカバーします!!」
私は絶対あいつらに負けたくないのだ。
轟々と後ろで炎を燃やしている私を見て、ラヴィさんは大きなため息を吐いた。
「‥あとで妖精が嫌いなものをやるから身につけておけ」
「っへ?」
「子供は一度言い出すと諦めないからな」
「子供は余計です」
だって私はともかくチェルナ君やオーリさんがあんな風に言われるの、やっぱり腹が立つんだもん。ムッと頬を膨らませる私をラヴィさんがまたもため息を吐き、オーリさんとチェルナ君を交互に見た。
「‥チェルナ、オーリ、手を焼くと思うが、明日もこいつを頼むぞ」
「「はい!!」」
「あれ?そんな感じ???」
チェルナ君とオーリさんはニッコニコで返事をしたけど‥、
何だ?もしや私だけ子供枠だったのか?
二人はギルドの隣の寮に住んでいるので一緒に帰るらしい。私とラヴィさんは一足先に帰らせてもらうことになった。お店から荷物を持って店を出ようとすると、オーリさんが私を呼び止めた。
「ヒロさん、これ」
「え?あ、花!」
しまった!
ラヴィさんに渡そうと思ってた花をすっかり忘れてた‥。
手渡された綺麗にラッピングされた一輪の白い花は、いつの間にか綺麗に虫も取られていて、その手際の良さと気遣いに胸がほっこりと暖かくなる。
「オーリさん、ありがとうございます!」
「いえいえ、また明日頑張りましょうね」
「はい!じゃあ、また明日」
手を振ってラヴィさんの待っている店の出口に行くと、ラヴィさんが私をじとっと見たかと思うと、手を差し出した。
「あ、はい、これ」
オーリさんにラッピングして貰った花を手渡すと、ラヴィさんが目を見開き、
「違う!手だ!!仕事をしているとすぐ忘れるのか?お前は子供!しかも、まだこの世界に来て間もない迷子になったらどうなるかわからない存在だぞ!!」
「はいはい」
「はいは一回!」
ラヴィさんの手をしっかり握ると、プイッと前を向いてズンズンと歩き出したけれど、いや、その前に花を受け取って欲しくてですね?慌てて追いつこうと歩幅を広めに歩くけど、スピードが早い!ちょ、ちょっともうちょっとゆっくり歩いてくれ!!
「ラヴィさん、お花なんですが‥」
「‥‥‥その花は妖精が好む。気をつけろよ」
「あ、それなんですがね‥」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「これ、ラヴィさんにプレゼントしたくて買ったんです」
「へ」
ピタッと足を止めたラヴィさんに、ラッピングされた花を手渡すと、ラヴィさんはぽかんとした顔で花と私を交互に見つめた。
「‥これは、オーリからお前に、じゃないのか?」
「違いますよ。予約しておいたんで綺麗にラッピングしてくれたんです。綺麗でしょ?これを妖精が狙ってたんで喧嘩の幕が切って落とされたんですよ」
「‥妖精が、」
「でも、いつもお世話になってるラヴィさんにたまにはプレゼントもいいかなって‥。あ、でもよく考えたら庭に一杯お花がありましたね‥」
チェルナ君は喜んでくれるよって言ってたけど‥、庭にもお花があるしなぁ。もうちょっと考えて何かと一緒にプレゼントしたら良かった?なんて思いながらラヴィさんを見上げると、
そこには真っ赤な顔でお花を見ているラヴィさんが立っていた。
「え、えっと?」
「‥‥俺に、」
「あ、はい。ラヴィさん、いつもありがとうございます!」
「わ、わかった、から、そんな大声で言わなくて良い」
「いえ、感謝はしっかりと!が、我が家の家訓なんで」
「‥どんな家訓だ」
そう言いつつも、白い花をじっと見つめたラヴィさん。
ふわっとまるで花が咲くように顔を綻ばせた。
あ、笑った!
笑ったぞ?思わず目を見開いてラヴィさんを見つめると、ラヴィさんはパッと慌てて横を向き、小さな声で、「‥‥俺も、ありがとう」とお礼を言ってくれた。
いや、私がむしろ感謝しててですね?とも思ったし、ラヴィさんにお礼を言われるような事をした覚えはないんだけど‥。それでもさっきまでグイグイと私の手を強く引っ張っていたラヴィさんの手からちょっと力が抜けて、優しく手を握り返してくれたのが嬉しくて、ニマニマしてしまう。
「‥なんだその顔は」
「え?いつもの可愛い顔ですよ」
「‥‥おかしな子供だ」
「そりゃ子供ですからね」
そんな軽口を叩きながら夕暮れの中、お日様のように赤い顔のまま前を向いてひたすら歩くラヴィさんにこっそり笑った。
ちなみにラヴィさん、「妖精が来ないように」と家に帰るなり花に魔法をかけていた。
「ラヴィさん可愛い過ぎないですか???」
と、思わず叫んだのは言うまでもない。




