白い花と妖精。
ラヴィさんは何かあった際にすぐ対応できるよう、今日は1日騎士団と自警団と交代でパトロールするらしい。仕事内容を聞いて、心底嫌そうに顔を歪め、「‥‥1日仕事」と呟いた。
「先生、ガッツリ稼いで悠々と研究!それに一度拾ったヒロを最後までお世話です!」
「‥いや、私は帰る予定なんですけど」
「うん、でもそれまでの間しっかりお世話です!」
「いや、できれば自活を‥」
しかし私の言葉は聞かれることなく、ラヴィさんはあっという間に屈強な体をした騎士団に両腕を拘束されて連れて行かれた。‥宇宙人が捕獲されたみたいな図だな。
すでに一仕事終えたようなチェルナ君と、私とオーリさんで早速一緒に花屋まで歩いていく。ギルドの近くらしいけど、どんなお店かとワクワクしてきた。
と、チェルナ君が思い出したように笑って、
「先生が絶対に渋るのは想定内だったけどヒロの機転は良かったね。あのまじない面白いね」
「そう?結構小さい子でも普通にやるんだよ」
「小さい時からやるの?まじないを?」
「うん。でもそんな怖いまじないではないような‥」
と、思ったけど、ゲンコツとか針を飲むとか‥やっぱり怖いか。
チェルナ君に「他にもあったら教えて」と言われて、なんか他にあったかな〜なんて思っていると、オーリさんが緑が沢山置いてある一角を指差した。
「あそこがぼくの働いているお店です」
「え、あれが?うわ!!可愛い!!」
オーリさんが教えてくれたお店は、オレンジの壁をした店の前に沢山の花と観葉植物が並んでいて、店の中には見たこともない花や植物が所狭しと床に並び、天井にまで植物がぶら下がっていた。そんな花や植物達の間に、ドライフラワーが入ったキャンドルや、香水の瓶、可愛らしい鉢植えやランプが飾られていて‥、一目で好きになってしまった。
「素敵〜〜!!」
店の中はお花の良い香りでいっぱいだ。
これはワクワク一択でしょ!オーリさんはニコニコ笑って、
「普段はドワーフの店主と店を回しているんだけど、ちょっと腰を痛めてね。それで今はほぼ僕が回しているんだ。だけど、今回は祭りで忙しいだろうからってギルドに仕事の募集をかけてくれたんだ。でも、皆警備の仕事の方がお金も集まるからなかなか引き受けて貰えなくて‥、本当に助かりました!」
そうだったんだ。
警備の方がお金がいいとか‥、知らなかった。
でも、こんな素敵な職場で働けるなら私は断然こっちを選ぶな。
「私はお花屋さんで働くの楽しみだったから、むしろラッキーですね」
「そう言ってもらえると嬉しいです!じゃあ、早速お仕事教えますね」
ここへ歩いてくるまでは猫背気味だったオーリさんが、今は背筋をしゃんとして店の中でテキパキと動きつつ色々教えてくれて、大変頼もしい。
チェルナ君を顔を見合わせ、つい微笑んでしまう。
「チェルナ君も素敵なアルバイトに誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして。たまには先生から離れて気分転換もしないとね。クッションに埋もれてたら何にもできないし」
「‥確かに」
二人でクスクスと笑いつつ、お花の水やりや手入れの仕方を教わる。
ラヴィさんと一緒に植物の手入れをしていたお陰でコツを掴むのは早かった。ううむ、こんな所でラヴィさんからの知識が役に立つとは‥。
複雑な気持ちになりつつ、白い花が沢山付いている枝に手を伸ばすと、
「あ、ヒロさん。その花に付いている虫は取らなくていいです」
「え、虫を取らないんですか?」
「その白い花を小さな妖精が好んで欲しがるんですけど、虫がいると嫌がって寄ってこないんです」
「妖精って虫が嫌いなんですか?!」
ラヴィさんみたい!とちょっと驚くと、チェルナ君が横でぶっと吹き出した。オーリさんはふふっと小さく笑って、
「妖精族は多種多様なんですけど、小さな妖精もいるんです。それこそ羽の生えた妖精とかね。でも、可愛い顔をしているんですけど、勝手に花を持っていくんで手を焼いてて‥」
「ラヴィさんと同じことを言ってる‥」
「いやぁ、結構この季節は苦労するんです。‥同じ妖精族なんで、あまり言いたくはないんですけど」
そうでしたね。
巨人族だけど妖精の括りに入ってるもんね。
「オーリさんは妖精云々の前に、いい人だなぁって思いますけど‥」
「そ、そうですか?」
照れ臭そうに微笑むオーリさんに頷くと、チェルナ君が花を見て、
「ね、ヒロ。この花を先生にプレゼントしてあげない?」
「え、でも虫が付いてるよ?」
「妖精が来ないなら喜ぶし、ヒロが渡してあげれば喜ぶと思うよ」
「ええ〜〜、そうかなぁ?」
絶対顔を歪めて嫌そうな表情をすると思うけど‥。
でも初バイトで得たお金で感謝の気持ちとしてお花を贈るのもいいかもしれない。
「帰りに買っていこうかな」
「そうしてあげて!」
ま、愛弟子のチェルナ君の言うなら確実か‥。
そう思って出来るだけ虫が少ない白い花を一本予約しておいた。




