お茶と優しさ。
窃盗犯にきっちり灰を混ぜた水を飲ませたけど、窃盗犯に飲ませた灰の水も飲みたがったラヴィさん。チェルナ君と慌てて止めて、一緒にお茶屋さんへラヴィさんを引きずっていった。
「これか?これでもないか?」
と、多分10杯以上は飲んだけど私に限界ってものがないと思っているのか?流石に13杯目でギブアップした。不服そうな顔をしていたけど、ここまで付き合ってあげたんで勘弁してくれ。
「最後の一杯が一番ミントに近かったです」
「そうか!じゃあそれを買っていこう!」
「先生が世話をかけるな‥」
「大丈夫チェルナ君。灰の水を飲ませたくない気持ちはわかるよ」
「おい、何そこでコソコソ話している」
じとっとこちらを睨みつつ、お茶っ葉を買ったラヴィさん。
いや〜〜、うちのエルフは世話が焼けるなって話をしてただけですよ?
チェルナ君は、騎士団で一悶着あったのでその事務処理を手伝うということで、魔法の授業は明日に‥と約束してギルドへ戻っていった。真面目な上に勤勉である。あれで12歳とかすごいな。
「チェルナ君、すごいですねぇ」
「あいつは人一倍真面目だから‥、時々肩の力を抜いた方がいいと思うんだが」
「ラヴィさんが真っ当なことを言ってる」
「俺はいつでも真っ当なことを言ってる」
お茶を人に13杯も飲ませた人が何か言ってるよ。
「それにしても、ラヴィさんは何で異世界人の研究をしてるんですか?」
「え、ああ‥。異世界人はこちらにない考え方をしてるし、技術も驚く事があるからな」
「考えはわかるけど、技術?こっちには魔法があるのに?」
「魔法はあっても全員が持っている訳じゃない。チェルナの種族である獣人は本来魔力を持たない。だから怖がられたり、追い出そうとする」
「え?」
怖がられたり、追い出す?
さっきチェルナ君が言ってた、「捨てられた」ってもしかして本来持ってない「魔力」を持ってたから?でも、それって祝福されたから‥でしょ?
「ラヴィさんは、そういうの許せないんですね」
「‥まぁ、それはそうだな」
ぶすっとした顔で返事をしたけれど、照れ隠しなんだろうなぁって思うとつい笑ってしまう。
「何をニヤニヤしてる」
「いや〜、ラヴィさんみたいに優しい人に拾われてラッキーだったな〜って。お茶を13杯も飲まされてちょっとお腹タポタポですけど」
「‥そこは、その、飲ませすぎて悪かった‥」
最後の方の言葉が尻すぼみになっていたけど、流石にまずかったと思ってたらしい。それなら許してやろう。そうこうしていると、見慣れたラヴィさんの家の門が見えてきて、ちょっとホッとした。
「あ〜〜、まだそんなに経ってないのにラヴィさんの家に入ると、帰ってきた〜て感じがする」
「‥お前はどこでも住めそうだな」
「失礼な。こんなに繊細な乙女に対して」
「野宿できるって話してたのに?」
「野宿ができても繊細なんです〜〜」
家に入って、乱雑に置かれた絵本を綺麗に整えて仕舞おうとすると、
「おい、片付けつつ聞いてやるから音読10回」
「ええ〜〜!?また?じゃ、妖精の部分だけで」
「‥‥今は妖精の話は聞きたくないから、獣人の部分にしてくれ」
差別は良くない!
けど、妖精は別らしい。
絵本をチラッと見ると、妖精って羽が生えたイメージだったけど色々いるんだなぁ。
可愛らしい小さい小人に、おじさんの姿をしたチェルナ君くらいのサイズの人、でっかい巨人も妖精らしい。へ〜、面白いなぁ。
「ラヴィさんは妖精に会ったことあるんですか?」
「‥‥ある」
「へー!可愛いんですか?」
「‥‥前も言ったがな、妖精は本当に外見だけだ。中身はこれっっっっっっぽっちも可愛くない!!」
「実感がこもり過ぎ‥」
「当たり前だ!穢れた土をわからないように何故細工する!!結果的に自分の首を絞めることになるかもしれないのに、目先の楽しさだけに釣られてあいつらは本当にロクなことをしない!!」
まぁ、確かにそのせいで街があわや大惨事になる所だったしなぁ。
キッチンでお湯を沸かして、早速ミントに似ていたお茶をカップに淹れてあげた。
「はいはい、まぁお茶でも飲んで落ち着いて下さい。私の世界のミントは心を穏やかにする効能もあるんです。こっちのはどうですかね?」
薄い緑のお茶を見て、ラヴィさんがむすっとしたままカップを受け取る。
「‥このお茶も穏やかにするらしい」
「じゃあ似てるんですね。異世界でも同じ味って嬉しいな」
「お前も飲め。‥そうすれば、ちょっとは気が紛れるだろ」
「へ」
「‥こっちに、ずっといたら故郷の味が懐かしくなる時もあるだろ」
え、もしかして異世界の味を知りたいってだけじゃなかったの?
私がホームシックになったらって思って、たんまり買い込んだの?
まじまじとラヴィさんを見ると、どかっと椅子に座ってそっぽを向いたままお茶を飲む。なんてわかりにくい優しさなんだ‥と思うのと同時に、そのぎこちない気持ち嬉しくて、結局私は14杯目のお茶を一緒に飲んだ。




