遭難時には動かない。
やってきたドラゴンから身を隠そうとしたら、木の後ろで休んでいたドラゴンの尻尾を踏んづけてしまった私。
黒いドラゴンが黄色の目玉をギョロッと動かして私とラヴィさんを睨んだ途端、二人で叫んで走り出した。
「なんでお前は!!そうやって色々やらかす!」
「あ、酷い!木の後ろにいたのラヴィさんだって気が付かなかったくせに!」
「グアァアアアアアアア!!!!」
「「だぁああああああ!!!」」
ズシズシと走って追いかけてくるドラゴンからなんとか逃げようとするけれど、あっちのリーチの差がえぐい!加えて私の方がやっぱりラヴィさんより遅いから、どうしても逃げるのが難しい!
「ラヴィさん、二手に分かれましょう!」
「はぁ!?子供がバカ言うな!食われたいのか!!」
「でも一緒に逃げてたら捕まっちゃいますよ!」
「ダメだ!絶対一人になんかできるか!」
大人としての矜持を保ってくれるのは有り難いけど、捕まって食べられたら元も子もないじゃないか〜〜!と、木々の向こうに金色の光が見えた。
「ラヴィさん!あれ、金色の光!」
「え?」
木々の向こうにふんわりと浮かぶ鍵が見えて、やっぱり鍵が原因の異変だったのがわかった。
「あれを捕まえれば‥!」
ラヴィさんがそう言って、そちらへ行こうとした途端、足元の地面がボロッと崩れた。
「「え」」
私は左に、ラヴィさんは右に落ちていく。
「わ、わ、わ!!」
なんとか頭を守りつつ地面にあちこち打ち付けつつ落ちた先は、崖の下。
上を見ればドラゴンが足を止めて、こちらをジロッと睨んだけれど、流石に崖の下まで追ってこなかった。ズシズシと足音を立てながら戻っていったけど‥。
「ど、どうしよう!早く戻らないと!」
あちこち擦り傷だらけで痛いけれど、立ち上がって周囲を見回す。
うん、おんなじような黒い地面‥。
ラヴィさんの名前を呼んでみるけれど、返事がなくて‥、不意に不安が押し寄せてきた。
そっか。私はここでは何も知らない人間なんだ。
だからあれだけ私を心配して、頑なに手を離すまいとしてくれたのかも‥。そう思ったら、あのわかりにくい優しさに胸がギュッと痛くなる。
「ええい!今はラヴィさんを探さなくちゃ!」
パチンと両頬を叩いて、右側へ落ちていったラヴィさんを探しに行こうとすると、茶色のドアがそこにポツンと置いてある。
「ど、ドア!??」
なんでここにドアが?と、思っていると、ドアがガチャッと開いて白い猫の獣人‥チェルナ君が立っている!!
「チェルナ君!!」
「ヒロ?え、なんで、ここって一体‥」
「あ、ちょっ、まっ」
ドアを閉めないで!
そう言おうとしたら、こちらへチェルナ君がやってきた途端にドアがバタンと無情にも閉まり、あっという間に消えてしまった‥。
「あああああああ」
「え、ドアが!!っていうか、ここはどこ?」
「‥ラヴィさん曰く、デュエンって国。異変の元の鍵をさっき見つけたんだけど、ラヴィさんとはぐれちゃって‥」
「え、鍵?昨日言ってたのが現れたのか?」
「うん、実はさっき街で異変があったの」
私の言葉にチェルナ君が目を丸くした。
そっか、私とラヴィさんは時間を巻き戻してこっちへ来たけれど、チェルナ君は何も知らないんだった。簡単に説明をすると、チェルナ君は驚きつつも話を聞いてくれて‥、
「‥鍵って、もしかして金色の光に包まれてるやつか?」
「そう!!なんで知ってるの?!」
「‥後ろ」
「え」
勢いよくチェルナ君が指差した後ろを見ると、少し離れた場所でふわふわと浮いている鍵があって‥、
「あれだぁああああ!!!」
「ちょ、ちょっと待て!ヒロ!!」
ここであったが百年目!!
金色の鍵を目掛けて黒い岩の上を走って行こうとすると、突然その岩が動いた。
「え」
岩かと思ったそれは黒いドラゴンで、私とチェルナ君を食べようと大きな口をバカッと開けた。
「「うわぁあああああ!!!」」
鍵を捕まえようと思ったのに、食べられる!!
と、チェルナ君が私の手首を掴むと、
『氷の精霊よ!力を貸して!!』
そう叫ぶと、ドラゴンの口には特大の氷がズボッと入った。
まさか私達じゃなくて氷が口に入ったドラゴンは、驚いた拍子に尻尾で私とチェルナ君の体をポーンと空へ弾き飛ばした。
「わぁあああ!!」
『風よ、二人を受け止めろ!!』
誰かが叫んだ途端、私とチェルナ君はふんわりとした柔らかい布団に着地したように地面に落ちた。
「チェルナ!ヒロ!!大丈夫か!?」
「ら、ラヴィさん??!」
声のした方を見ると、それはもう傷だらけだし服はボロボロのラヴィさんが息を切らせて駆け寄ってきて、私達を見るなりホッとした顔をしたかと思うと、
「遭難した時は、動かないのが鉄則だと覚えておけ!!」
と、思い切り怒られた‥。
だ、だって鍵が〜〜〜!!




