異世界でファーストガチャ。
いやー、どう考えたって可笑しいだろ。
そう思うけれど、見渡す限りの草原で自分の頬を思い切り引っ張ったら当然痛かった。夢じゃなーい!
とりあえず持っていた黒いリュックからスマホを取り出す。
ボタンを押してもうんともすんとも言わない。
真っ黒い画面に、ショートカットの短い斜めの前髪をした自分が写るだけ。‥うん、そうだよね。異世界だもんね、電波が届く場所なんてないよね。
そっとスマホをリュックにしまった。
お金はちょっとあるけど、それだって使えるのかわからない‥。
いや、そもそもこの世界に人って存在するの?神様、予備知識を授けるとかやってくれたっていいのよ?っていうか、これ泣いていいよね?
そんなことを思っていると、どこからか地響きと共に何かがこちらへ迫ってくる音がする?
「ん?」
後ろを振り向くと、黒い熊が見えた。
黒い熊‥、
熊ぁあああああ!???
山のような大きな巨体がドカドカと地面を蹴ってこちらへ一直線に走ってくる。やばい!!絶対食われるやつ!!!サッと血の気が引いて、ペンダントになっているガチャをギュッと掴んで、
「ガチャ回す!!!」
そう叫ぶとガチャがポンと出てきた。
「は、早く!!早く出て!!」
急いでガチャを回すと、中にあった赤い球体がころっと出てきて、私は渾身の力を込めてそれを開けると紙が一枚入っていた。
「か、紙!??武器じゃないの??」
私は非力な女の子なんですけど!??
紙を急いで広げると、中には『跳躍』と書いてある。
「跳躍?」
そう言った途端、グンと足に力が漲る。
もしかして‥、これで能力が使えるってこと?
驚きつつガチャを掴むと、またペンダントに戻ったので急いで首に掛けると、黒い大きな熊ががもうそこまで迫ってきてる!!
「神様、頼むよ〜〜!!!!」
できるだけ遠くへ逃げようと足に力を入れた途端、ものすごい勢いで地面を跳んだ。
「え‥!?」
10mは軽く跳んだ?
後ろにいた熊も驚いたのか一瞬動きを止めたのがちらっと見えた。
これなら逃げられるかもしれない?とにかく逃げの一手でいくぞ!!地面を蹴って、ともかく身を隠せる場所へ行こうと森らしきものが見えたので、そちらへ走っていくと、
「総員!!弓構え!!」
「っへ?」
森の中から、弓を構えた人達がざっと出てきて目を丸くした。
やばい!!これやられる!地面に降りた瞬間に、弓矢を構えている人達から逃げようとした途端、
「お前はこっちだ!」
突然グイッと手首を掴まれ、森の中へ引っ張られた。
「ちょ、ちょっと!!」
驚いて顔を上げると、そこには金色の長い髪を鬱陶しそうにかき上げた耳の尖ったものすごい美形がいた。えっと、貴方は誰?っていうか、なんだこのイケメン。
「なんでこんな危険な場所にいたんだ!馬鹿かお前は!!」
「ば、馬鹿って、私はこっちへ無理矢理‥」
なんで私がさも悪いとばかりに言われないとならんのだ!
こっちは神様のうっかりで送られてきたのに‥と、反論しようとすると、「射て!!!」という号令と共に無数の矢が黒い熊に刺さる。
「あの熊って‥」
「森の中を荒らしていたブラッドベアーだ」
「ブラッドベアー?」
「知らないのか?人間を襲うわ、希少な薬草を食べるわ迷惑な魔物だ」
そんなん知りません。
私、今さっきこの世界へ来たんで。
それよりとりあえず私は助かったのかな?それならサッサと鍵を見つけに行かないと。どうやら鍵を見つけないと帰れないっぽいし‥。とはいえ、鍵ってどこにあるんだ?
誰かに聞いてわかるものなのか?
と、ジロッと綺麗なその人が私を睨む。
「お前は、異世界人‥だな?」
「あ、はい。里渡ヒロと言います」
「ヒロ‥。俺はエルフ族のラヴィだ。ラヴィ・エルドラント」
「エルフ族‥?!」
「異世界人には珍しいようだが、この世界には普通にいる」
「え、ちょっと待って??異世界人ってこの世界では珍しくないんですか?」
「ああ、割とこの世界に渡ってくる。ただそれぞれ世界は違うようだが‥」
そうなんだ?!
こっちの世界は異世界人慣れしてるのか‥。
それなら安心して過ごせる、のか?ラヴィさんを見上げると、綺麗な長い金髪が肩からサラリと流れた。はーー、黙っていても喋っていても絵になるなぁ。
思わず見惚れていると、ラヴィさんは私をまたも睨む。
「‥お前はなんでこの世界へ来たんだ?」
「え」
「何か事情があるんだろ」
口が悪いと思ったけど、もしかして優しい?
ひとまず簡単に説明をすると、ラヴィさんは重い溜息を吐いて、
「‥これだから原始の神は面倒なんだ」
と、しみじみと呟いた。
まぁそこは完全に同意ですね。
神話とか好きなんですけど、神様なのに ‥ってよく思う。
けど神様の完全っぽくない所、人間臭くて面白い。
ギリシャはとんでもないけど。




