異世界人は女子です。
着の身着のまま来てしまったので、白い猫の獣人のチェルナ君とラヴィさんと私で早速街へ買い物へ行くことになった。
昨日も今朝もゆっくり見られなかった街並みをキョロキョロと見ていると、チェルナ君はそんな私を見て、「やっぱり子供じゃないか」と言ったけど、私はまだこっちへ来て一日しか経ってないんです。
と、白い壁に沢山のカバンや籠がぶら下げているお店らしき場所に来ると、ラヴィさんが私を見て、
「ここに服やら雑貨が置いてある。ちなみに我が家に歯ブラシは予備があったが石鹸はない」
「え」
「先生、堂々と言わないで下さい。洗剤はあるんですか?」
「洗剤も昨日で切れた」
「‥洗剤も買ってこよう」
遠くを見つめる私にチェルナ君がポンと肩を叩き、
「こっちの世界の言葉は読めるのか?」
「えっと‥」
「わからない物は教えてやる。あと安くてよく落ちる洗剤も」
「チェルナ君!!ありがとう!!!」
なんというよくできた弟子なんだ!!
感動しているとラヴィさんが、「俺も石鹸ならわかるぞ」と言ったけれど、完全にラヴィさんは戦力外だと思います‥。
チェルナ君は、ギルドの寮に住み込みをしているそうで12歳だというのに一人で家事全般をこなし、ギルドで魔法使いとして働く傍ら事務仕事を手伝ったり、ラヴィさんに魔法を教えてもらっているらしい。なんと出来た子供であろう。
「チェルナ君すごいねぇ」
「ま、まぁな!僕はいずれ大魔法使いになりたいからな!」
「いや〜なれるよ。そんだけしっかりしてるんだもん。やばい、私の方が大きいのに‥」
「まぁ少しずつやればいいさ」
猫のヒゲが嬉しそうにピクピク動いて可愛い。
いくつか服や下着、石鹸も洗剤もしっかり買ってから、オススメのパン屋や食材売り場やお菓子屋さんなんかも教えてもらって大助かりである。
沢山の食材が入った紙袋を抱えたチェルナ君は、ホクホク顔でラヴィさんを見上げる。
「食材もたんまり買ったし、先生料理もして下さいね!」
「ええ〜〜‥、料理?」
「人間を拾った以上はしっかり育てないと!拾った者の責任は重大ですよ」
「‥私は動物か」
ウンザリするように言ったけど、ここは子供扱いされておこう。
チェルナ君とラヴィさんと家に戻ると、そろそろお昼の時間だ。ラヴィさんはどこから本を取り出して、
「じゃあ、今日は何か作ってみるか‥」
「作れるんですか?」
「失礼な!本の通りに作れば大概できるはずだ!」
「そんな正々堂々とした気弱な発言初めて聞きました」
とはいえやる気があるのは大変良いことだ。
私とチェルナ君はキッチンへ食材を運ぶと、ラヴィさんは早速腕まくりをして、
「えーと、この魚の白ワイン煮のソテーとやらを‥」
「先生、白ワインはありません」
「え、じゃあ、豚肉のバラバラ揚げ‥」
「初心者が揚げ物できるんですか?」
「じゃあ何なら出来るんだ!!」
「「それ聞いちゃいます?」」
本をべシンと床に叩きつけたけど、料理本に罪はないぞ。
私は本を拾って、ページをめくる。
「あ、これならラヴィさんもできるかも」
「なんだ?」
「ポトフです。材料を切って入れて煮る!シンプルだけど美味しいですよ」
ニコッと笑うと、ラヴィさんはレシピをまじまじと見て、「見てろよ」と言うとじゃが芋を剥こうとナイフを持ったけれど‥、
「ゆ、指!!指が切れそう!!」
「わ、わかってる!」
「人参は猫の手!!」
「猫の手ってなんだ??」
「こう手を丸めて、切るんです」
文字通り手取り足取り教えている傍ら、チェルナ君は珍しいものを見るような目付きで「先生が料理をしている姿、初めて見た」としみじみと感動していた。大人、マジで頼むよ。
スープを作るだけなのに私とラヴィさんは疲労困憊である。
なんとか鍋に切った野菜を入れて、あとは水を入れるだけになると、ラヴィさんは水道に向かって、
『水よ、鍋を満たせ』
そう言うと、水がヒュッと蛇口から出ると鍋の中に自動的に入っていく。
「ま、魔法だ‥すごい!」
思わず感動して鍋に入っていく水を見ると、疲れた顔をしていたラヴィさんはちょっと誇らしげに微笑み、「これくらい簡単だ!」と胸を張った。
「先生、水くらいご自分で捻って出して下さい‥」
呆れたように言うチェルナ君にむすっとしたけれど、少しでも格好つけたかったのかな。そろそろ水がいい感じに鍋に入ったので、蛇口を捻って止めようとすると水がまるで「なんで止めるの!」とばかりにまるで滝のように水を浴びせた。
「わ、わぁあ!!!」
「いきなり水を止めるから‥」
「お前、ちゃんと水に感謝してから止めるんだぞ」
「そんなの知らないんですけど!!?」
さも異世界の常識のように言うけれど、私はまだこっちへ来て一日しか経ってないのに‥。仕方がないので買ったばかりのチュニックにお風呂場で着替えてから戻ると、二人が目を見開いた。
「あの、どうかしました?」
「「お、女の子だったのか!??」」
二人の声が揃って響いた。
‥え、私、ずっと男だと思われてたの?!




