異世界人と出会い。
お風呂がスライムのお陰でものすごく綺麗になって大満足な私とは対照的に、ものすごく落ち込んでいるラヴィさん。
「あんなにいい奴だったのに‥」
「そんな親友をなくしたような言い方しないで下さい。いいじゃないですか、お風呂を綺麗にしてもらったんだし」
「俺が、もっと部屋を汚くしていれば‥!!」
「スライム冥利に尽きる一言かもしれませんが、これ以上汚さないで下さい」
せっかく綺麗にしてくれたんだからいいじゃないか。
それより私はようやくお風呂に入れる事で一安心‥って、待てよ?昨日はなんだかんだで入らなかったけど、着替えがないな。
とはいえお金もないし、どうしよう‥。
そう思っていると、玄関の扉を誰かが叩く音がする。
「チェルナです!先生いますか?」
ちょっとだけ高い、少年のような声が聞こえると、ラヴィさんが「忘れてた‥」と言いつつ扉を開く。
と、そこには真っ白い猫の獣人が立っていた。私よりも少し背が低いけれど、白いブラウスに赤いリボン、少しくすんだ赤い半ズボンを履いていて、その後ろから真っ白な尻尾が揺れている。
「猫‥」
思わずボソッと呟くと、真っ白い耳がピクッと動いた。
「猫じゃなくて、猫獣人だ。先生、色々拾ってますけど、まさか人間を拾ってくるなんて‥」
「ちょ、拾われたんじゃ‥、いや、拾われたのか?」
「ほら!またすーぐ興味を持つとあれこれ拾ってくるんだから!」
‥おいおい、明らかに小さな子になんか言われてるぞ、エルフの大人さんよ?私はじとっと思わずラヴィさんを見ると「毎回じゃない!」と言われたけれど本当か〜〜?
「っていうか、先生って‥」
「ああ、チェルナは俺の弟子だ」
「弟子!?」
白い猫ちゃんが?
目を丸くすると、チェルナさんは私を緑と青の瞳でちろりと見て、
「初めまして、ギルドで魔法使いをしているチェルナだ」
「えっと、人間のヒロと申します」
「ヒロは原初の神にここへ送られてきたんだ!」
「‥原初の神。また面倒なのを‥」
おーい、うちの神様よ面倒って言われてるぞ?
チェルナさんはため息を吐きつつ部屋へスタスタと入ってくると、ポケットに手を入れて小さな布の袋を取り出した。
「はい!ギルドから前回のブラッドベアーの討伐と、魔の花の処理の報奨金です」
「ブラッドベアーは大した事してないが‥、」
「何言ってるんですか!先生、ちゃんと騎士達に防御の魔法を掛けていたでしょう!あれがなければ皆大怪我をしているんですよ?!魔法の安売りはしてはいけません!」
「はいはい。ありがとうな」
布の袋を受け取ったラヴィさんは、布の中から3枚の金貨を取り出して私に手渡した。
「え、これ‥」
「お前の出したスライムのお陰で手早く片付けられたからな」
「先生?!何をして‥」
チェルナさんが目を見開いて、私とラヴィさんを交互に見る。言いたい事はわかる。私だってそれはないでしょって思ってるもん。
「いや、でもラヴィさんが魔法を掛けてくれたからであって‥」
「でもお前、お金ないだろ」
「うっ」
「うちもご覧の通り、そこまで潤沢な訳じゃない。ひとまず1ヶ月分くらいの生活費を渡しておくから、そこから必要な物を買い揃えておけ」
至極真っ当なことを言われた‥。
確かにお金もない。ついでにどれだけここにいるかもわからない。
どうしようかと思ったけれど、ここは素直にお金を受け取っておく事にした。
「‥ありがとうございます」
「先生!いいんですか?こんな子供に大金を渡して!!」
「17歳だそうだ。お前より5つ上だぞ?」
「絶対嘘ですよ!どう考えても僕とそう変わりません!」
日本人若く見え過ぎるのも問題だな‥。
思わず遠くを見つめていると、ラヴィさんが私を見て、
「丁度いい。街を案内がてら買い物にでも行こう。食料が何もないし」
「先生、買い物にはちゃんと行って下さい!」
「つい忘れるんだよなぁ‥」
チェルナさん‥、いやチェルナ君でいいのかな?
ラヴィさんのそんな様子にため息を吐くと、キッと私を睨みあげ、
「ヒロとか言ったな!いいか、先生は料理も掃除も片付けもできないからな!」
「あ、それは知ってます。でも掃除は昨日頑張ったんで大分綺麗だと思いませんか?」
「そう言われてみれば‥!?」
「おい、いい加減怒るぞ」
「大人なのにしっかりしてないからー」
「そうですよ、先生!しっかりして下さい!!」
私とチェルナ君に責められたラヴィさんはウンザリした顔をして、
「大人は窮屈で堪らん‥」
そうぼやいたけれど、結構自由にやってるような気もする‥。
ちらっとチェルナ君を見ると「自由気ままです」と教えてくれた。先生、言われてますよ。




