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気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第一章 辺境の街

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伝説ではなく事故です

 楽しい時間だったがお酒も無くなり、そろそろ帰ろうかと思ったところでトイレに行った。そして席に戻ってくる途中、酔っ払いの(たむろ)する間を素早くすり抜けようとして、床に落ちていたジョッキに気付かず踏んでしまう。

 ガン!!

「いたたたた」

 派手に転ぶ途中で、テーブルにおでこをぶつけてしまった。お酒さえ飲んでいなければ、この程度で転ぶなんて事は無いはずなのに。

「おっ、これは豹変するところが見れるのか!?」

 ルーカスが変な煽りを入れてくる。

「何言っているんですか。このくらいで怒ったりしませんよ」

 でも、頭の中では『誰だ!こんなところにジョッキを転がしたままにした奴は!』と叫んでいた。

「いや、血が出てるぞ」

「は?」

 ぶつけたところを触ってみた。そしてその手を確認する。

「嘘でしょ」

 少しだけ血が(にじ)んでいたようだ。レベルも高くなったのに、こんなに簡単に血が出るのか?よっぽど打ち所が悪かったらしい。

「でた!ブラッディオーガ降臨!」

「誰がブラッディオーガだって!」

 酔っぱらいをすかさず黙らせる。変な二つ名を付けないでもらいたい。周りに輪のように集まって飲んでいたので誰がヤジを飛ばしたのかよく分からない。

 ポーションを使おうと思ったら、さっき犯人に一本使い、サラにも準決勝前に飲ませたので無くなっていた。仕方ないのでハイポーションを一滴、傷に塗り込む。

「おいおい、なんだその瓶。それキズポか?やたらと効果高いな」

 周りにいるのは冒険者が多かったのでポーションの効果はみんな知っている。

「ハイポーションだから、こんなもんでしょ」

「ハイポーション!」

「こんな傷にハイポーションかよ!」

「いくら俺らでもハイポーションは常用しねぇよな」

「ジャイアントキラーだからな、報酬たんまりもらったんじゃね」

「やっぱ頭おかしいな」

「いや、血を見たからだろ」

「誰!頭おかしいって言ったヤツは!」

 耳が良すぎるのも考え物だ。悪口がみんな聞こえてしまう。

「おっ、やっぱりキレやすくなったか」

「キレてません」

 ルーカスの煽りで逆に冷静になった。おかしい、つい先月までは仏の龍平と呼ばれ、帰宅直前に頼まれた仕事も嫌な顔一つせずに引き受けていた筈なのに。

「ほーら、ほーら、キレてみろっ」

 ルーカスがおでこをつつきながら煽ってくる。子供かっ。こいつは多分、自分の強さに自信があるからこんな事をしているんだろう。確かにこの前は手も足も出ずにあっさり負けたけどねっ。

 そんなことを考えていたら、いたずら心が刺激された。ちょっと驚かせてみようかなと。

 目を閉じ魔力を(まと)いながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 ルーカスとの間にはテーブルがあるわけでは無い。ここだけ少し隙間があり、そこを中心に輪ができていた。お互いに別のテーブル席で椅子に横座りし、ルーカスはテーブルに背中を預けている。

 そんな険悪な雰囲気を察して女将さんが駆け寄ってきた。

「ほら、二人とも飲み過ぎだよっ。ルーカス、あんたも煽らない」

 魔力が飽和し体が発光し始めた。というのにルーカスは余裕の表情を崩さない。

 この程度では驚かないか。仕方ない、身体強化全開だな。

 振り返った女将さんの顔が引きつって、二人の間に手を伸ばしてきた。体を張って止める気らしい。

 その手をかいくぐるように姿勢を低くしルーカスに迫る。

 右パンチをフェイントに、椅子(いす)をつま先で軽く蹴上げるつもりだった。『金的されるかと思った。まあ、びっくり』作戦だ。

 ところが右パンチを繰り出すと、ルーカスは腰を前にずらし、頭を下げる形で避けようとしてきた。

 ルーカスは、パンチが空を切り、泳いだリューの体に下から抱きついて首筋にキスをしようなどと不埒(ふらち)な事を考えていたのだが、それは実現しなかった。

 本命の蹴りが止めきれずに股間に吸い込まれる。

 だって的が積極的に当たりに来るなんて考えもしなかった。

 キーン!

 なんて音はしなかった。

 ガッシャーン!!!

 エビのように腰を引き、宙を飛ぶルーカスがテーブルを弾き飛ばす。

 そして、腰を高々と上げたまま、床にキスをしていた。口から泡を吹いて。

 まさか、一泡吹かせてやろうと思ったら、本当に泡を吹かせてしまったという。これは事件では無く、事故だ。

「ああっ、ごっごめんなさい!!!」

 すぐに駆け寄り謝ったが、反応は無い。

 ルーカスの股間からは血が滲んできたような気がした。

 これは不味い!

 中がどうなってしまったかなんて知りたくも無ければ確認したくもない。

 さっきのハイポーションを急いで股間に振りかける。

 見た目的には、お()らし状態。これはひどい。

「んぐーっ・・・」

 ルーカスがうめいたので、すかさず残りを口に含ませた。

「あぁー・・・、効いたぜ」

 ルーカスはまだ青い顔をしていて余裕は無さそうだった。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 必死で謝る。とにかく謝る。怒らせてしまったら、地獄行き決定となってしまう。ルーカスを止められる人間なんてこの場にいないのだから。へたするとこの街にもいない。

「さすがブラッディオーガ・・・いい蹴りだ」

 ルーカスが苦しそうな笑顔のまま、かすれる声で賞賛してきた。

 ん、実はまだ余裕ある?

 この後、女将さんから散々に怒られた。

 蹴りはちゃんと止めたのに。この惨状はルーカスが腰を引いた勢いで引き起こされただけなのに。言い訳したいところをぐっと堪える。大人だからね。酔いは一瞬で冷めたよ。

 そして、ブラッディオーガの伝説が更に追加されてしまったのだった。

『酒場で流血したら、絡んできたトップランカーに床をなめさせた事件』


「はい、お姉さん帰りますよ」

 仕事終わりのマリーに引っ張られていく。

 あれからまた何杯かワインを飲んでしまった。

「はぃ・・・」

「ちゃんと真っ直ぐ歩いて下さい。こんなんで、王都に行って大丈夫ですか?」

「・・・」

 おかしいな。お酒の飲み方を知っている大人だったはずなのに。何度目の醜態だろうか。

「こんな事していたら、身ぐるみ()がされますよ。ただでさえ目立つのに」

「・・・」

 そういえば、今、見た目は、誰にも見向きもされない中年おやじじゃなかった。

「はぁ」

 マリーに溜息を吐かせてしまった。

 反省しよう。

 しかし、記憶はあるので少し前進。・・・なのか?


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