尋問
魔力草採集は全く問題なく終わり、延期した腕相撲大会の日がやってくる。
朝から、メラニアさんのところで魔素注入。
ポピーナとプライムローズで炭酸追加。
後は、腕相撲協会に割り当てられたテーブル席に座って、プライムローズのおいしい料理を堪能しながら、サラを応援した。
サラは、準決勝で惜しくも敗れたが、ちょうど参加しなかった自分の代わりのようなポジションだった気がする。ちっこい女の子が大男に勝利する姿は、何とも言えないロマンがあった。
優勝はバーナードだった。
実を言うと、街にも何人かドワーフが居たのだが、レベル制限に引っかかって出場できなかったようだ。これは、バーナードを基準にレベル制限を設けてしまったので仕方ないのかもしれないが、何か言われるのは嫌なのでバーナードには賭けなかった。
サラには賭けたから、そこそこ儲かったけどね。
この大会、高ランク冒険者が参加できないようにレベル制限を設けたが、スーパーノバのルーカス他、Aランクの冒険者をちらほらと見かけた。参加しなくてもこっちの街に移動してきたら意味が無いというのに。逆になんで先週いなかったんだ。
帰りがけに、まだ飲んでいるルーカスを見かけたので挨拶に行った。
「あの、先々週は家まで送ってもらったそうで、ありがとうございました」
「ああ、気にするな。俺が面白がって飲ませただけだから」
お前か~!!!でも飲んだのは自分からな、仕方ない。
「そんなことより、巨人の心臓に風穴を開けたんだって!?やるなぁ」
「あれは、その・・・、魔槍を借りまして・・・」
「魔槍といえども、無名の槍でそこまでやるのは流石だよ」
「あれ?後から聞いたんですけど、あの槍、ペネトラコルチガンテスという名前があったらしいですよ」
ルーカスはそれを笑い飛ばす。
「違うよ。あれは平凡な魔槍だ。君がサイクロプスを貫いたからその銘が付いたんだ」
「えっ!?」
「その銘は、持ち主の・・・アレ、なんだったか・・・」
ルーカスが言葉を詰まらすと、一緒に飲んでいた仲間が助け舟を出す。
「ケインですかい」
「そうだ、そのケインが銘を付けたのさ」
「そういう事だったんですね」
「凡人が使えば普通の槍かもしれない。達人が使えば普通の槍でも巨人を一撃で殺せるのかもしれない。真相は分からないが、しかし、あの槍は巨人を貫いた実績がある。それもサイクロプスの強化種だ。それだけのポテンシャルが証明された。それも大勢が見ている目の前でな。・・・とまあ、そいうことだ」
「へぇ、なるほど。おもしろいですね」
「そうだ。そして、おめでとう。君も晴れてジャイアントキラーの称号持ちとなったわけだ」
「は!?」
「いよっ、ジャイアントキラー!」
「おめでとう!」
「オレも称号ほしいぜ!」
聞き耳を立てていた周りの酔っぱらいからヤジが飛ぶ。
「違うから、一人で倒したんじゃないし!ジャイアントキラー何十人もいるから」
必死で弁解してみた。
「いや、ギルドが正式に認めているのは一人だけだ。間違いない」
「うそでしょ」
昨日、報酬をもらった時には何も言われていないぞ。
「んじゃ、冒険者章を見せて見ろ」
首元から手を突っ込んで胸の谷間・・・は、あまり無いけど・・・その辺りに収まっていた冒険者章を取り出してみる。生暖かいのがなんか少し気恥ずかしいのだが・・・。
「Dランクって聞いていたけど、Cランクになったのか」
「はい、昨日」
「ほら、ここにジャイアントキラーって書いてある」
素材が銀になって、豪華なデザインだと思っていた模様は文字だった。
これはなんか、やらかした感が強い・・・。
「おーおー、無口になっちまって、そんなにうれしいのか?そりゃそうだろうな。ダンジョンの深層や、魔の森の奥地で巨人を討伐することがあっても、だいたいパーティ組んでるし。素材を持ち帰れば討伐の証明にはなるが、誰がどのくらい活躍して倒したのかもわからないから、ギルドが個人にその称号を認めるのは滅多に無いからな。パーティの実績は個人の冒険者章には記載しない。俺もこれ見たのは初めてだぜ」
「なんだなんだ、俺にも見せてくれよ」
「なにぃ、冒険者章に書いてあるって?」
「どれどれ」
周りに酔っぱらいが押し寄せてきた。
「ちょっと、なんなんですか!引っ張らないでください!」
首に掛けてあるので、引っ張られると困る。
「近い、そんなに集まってこないで!」
それにむさ苦しい男たちの顔が近い。自分が模様だと思ったほど小さな文字なので、みんな近くから見ようとして集まってきた。
こうなってしまうと、良からぬことを考える輩も出てくるわけで。
「ちょっと誰!変なところ触らないで!」
とは言ったものの酔っぱらいが止まる訳もなく。縮こまって精一杯ガードしようと試みたが無駄だった。
「うおー!!!」
頭にきたので身体強化魔法全開で立ち上がる。
何人かが宙を舞い、花が咲いたように外側に向かって将棋倒しとなった酔っぱらい達。
しかし、背中から抱き着いている奴が一人いた。その両手は胸をしっかりとガードしてくれている。
犯人はお前だな。何も言わずに横目でギロリを睨む。これはご褒美を上げないといけないな。一瞬微笑む。
「ひっ」
犯人の笑顔が引きつって、体が少し離れた。その瞬間を見逃さず、あごに肘をくらわせる。
白目をむいて力なく崩れ落ちる犯人。一発KOだった。
しかし、この体は目が良い。犯人の口元から飛んでいく白い歯を見逃さなかった。
怒りにまかせて力を使うのは良くないな。次からは、少し加減をしようと思った。
「おー、怖っ」
目と鼻の先にいたルーカスが、からかうような言葉と態度で両手を挙げている。
「何で見ているだけなのよ」
「おもしろいから」
ルーカス笑っていた。
こいつは~。
犯人は伸びていてかわいそうだったので、抜けた歯を差してからポージョンをぶっかけておいた。そのうち目覚めるでしょ。
「ところで、血を見ると性格が激変するって話を聞いたんだが本当か?」
ルーカスから尋問が始まった。
「嘘です」
「ギルドの会議室で、血だらけの鎧をたたきつけてギルマスを恫喝したって聞いたんだが」
「・・・嘘です」
「矢が残っているのに、異常な執着で最後の猿一匹を追いかけまわし、頭を弓で叩き潰したとか」
「・・・嘘です」
「巨人に大木をたたきつけられてからブチ切れて、冗談じゃなく巨人に雷が落ちたとか」
「・・・嘘です」
「いや、実際に見た人間から聞いたんだが・・・」
「・・・全部が噓ってわけじゃないですけど、なんか違う!そんなのじゃない!この話は面白半分で盛られているんです!」
なぜか周囲からドッと笑い声が上がった。
この酔っぱらいどもがぁー!人を酒のつまみにしやがって!
「まあまあ、そんなに怒るなよ。楽しく飲もうぜ。ほら」
ルーカスはコップを差し出してきた。その少し減っている中身を見て一言。
「なに、飲みかけ!?」
「いいから飲んで見ろって」
顔に近づけられたコップから、ふわっと香る良い匂い。エールでも無くワインでも無い。ちょっと興味を引かれたので一口飲む。
「ん、おいしい」
高めのアルコール度数に、ほどよい甘さ。
「そうだろう、そうだろう。ミードって酒だ。飲んだこと無いか?」
「無い。けどもう帰る」
コップを突き返した。お酒は美味しいが、揶揄われてばかりで楽しくない。
「そう言わずに、少し飲んでけよ」
「飲みかけじゃないのを奢ってくれるなら、少し飲んでいってもいいかも」
「よし。おーい!こっちにミード二つ!」
ルーカスは、早速注文していた。
そして、お酒はすぐに届けられる。それを持ってきたのは女将さんだった。
「あんまし騒ぐんじゃ無いよ。他の客に迷惑だろ。それに店の物を壊したらどうなるか分かっているだろうね」
それから、こっちを向く。
「おまえさんも、ほどほどにしときなよ」
「ああ、まだ大丈夫ですよ」
女将さんに心配してもらってしまった。
「ミードはこれで売り切れだから、大事に飲みな」
「はーい、そうします」
「女将、はいこれ」
「まいど」
今、ルーカスがお金を払っていたが、金貨二枚に見えた。
「ん?このお酒、いくら?」
気になって聞いてみた。
「いくらだと思う?」
またルーカスが揶揄おうとしているように見える。
「一杯で金貨一枚だよ」
そのとき女将さんが去り際に振り返りながら教えてくれた。
「高っ!!!」
プライムローズで2食くらい食えるよ!
その後は、ちびちびとミードを飲みながら、猿討伐の弁解と、巨人討伐の顛末を話したりした。あの討伐に参加した人もいたので、他の人の話も聞けて面白かった。周りには自然と人が集まってきて、テーブルなど関係なく椅子を持ち寄り輪ができる。
ちなみにルーカスは明日から巨人の足跡をたどって魔の森の奥地へ赴くらしい。あの高額依頼を受けたのだ。
どこまで行く事になるのか知らないけど、これぞ冒険というような依頼だ。頑張ってほしい。




