推薦状
次の日、またいつもと変わらない朝を迎える。
昨日はマリー達と森の木漏れ日亭でディナーだったが、エールは控えめにしたのでちゃんと朝起きることができた。まずは、メラニアさんのところへ。
「本当に大丈夫?」
目の前には2日分のハイポーションの入ったビーカーが並んでいる。
護衛依頼で街を出る前に、メラニアさんにはちゃんと連絡しておいた。二日分一気に補充するから無理しなくていいと。
「任せておいてください」
「じゃお願いね」
今日のメラニアさんは寝不足ではない。
昨日魔力草が届いたのは、日が沈んでからすぐ。日が変わるまでにここまで作って寝たらしい。
巨人の解体は今日で終了して戻ってくるらしい。夜は中央広場で巨人肉の料理がふるまわれ、お祭りとなる事がギルドから公表されていた。
よって、このバイトも明日まで。
その後は、レイラさんのところに顔を出す。
「お久しぶりです」
すると、顔を見るなり手を両手で握られた。
レイラは玄関先で人目もはばからず、その手を額に押し当てるようにして跪く。
「夫を救っていただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。護衛してもらっていましたから・・・」
それから、抱き着かれた。
おぅ!きれいな女性には耐性がありません。
「よかった。無事で」
それも耳元でささやかないでください。記憶が飛びそうです。
リビングのテーブルに向き合って座る。
「ひどいじゃないですか。話は、いろいろ聞いていましたが・・・。全然顔を出してくれないなんて」
「ごめんね。帰ってきた朝からバタバタしてて、もう一回現地まで行って昨日戻ってきたところ」
「働き過ぎじゃないですか?」
「自分でもそう思う。というのも、今のうちにお金を貯めておこうかなって」
「何か欲しいものがあるんですか?」
「いや、それはいろいろあるけれど、魔法学園に行こうかと・・・」
レイラは口に手をあて、目を見開いて驚いていた。
「あ、アレ。レイラさん?」
固まっているレイラを見て不安になる。
「ごめんなさい。本当に行く決心をしてくれるとは思っていなくて・・・」
「えっ!?冗談だったの!?」
だとしたらとても恥ずかしい。
「いえ、勧めたのは本気ですが、冒険者として成功しているといっていいほどなので、もう魔法学園なんて行かないと思っていました」
「ほっ。なら良かった」
「どうしたんですか?サイクロプスに止めをさして大活躍したと聞いていますよ」
「やっぱり何度も死にそうになって。冒険者はさっさと足を洗いたいなと。お金はいいんだけどね・・・」
「そうでしたか。でも、腕相撲協会の会長としても生活していくには十分な地位と収入があると思うのですが」
「それね。あれは飲んだ勢いってやつで・・・別にやりたい事じゃないんだよね。男性恐怖症も克服できたみたいだし。だいたいこんな細い腕の、ひ弱の代名詞のようなエルフの女が腕相撲協会の会長って、おかしいと思わない?自分でも思う。おかしいって。だいたい人前に出たり、目立ったりするのは嫌いなの。飲まなきゃあんなパフォーマンスなんてできないの」
「そ、それは、聞かなかったことにしておきます・・・」
「はは、そうね。これはレイラさんにしか話してないから」
二人でお茶を飲む。まずは落ち着こう。
「では、専攻は何にするのですか?」
「うん、魔道具科にしようかと」
「そうですか。私のお勧めは、花形の魔法騎士科か、魔法科なのですが」
「いえ、戦いはもううんざりなので。魔道具科でも防御魔法とか覚えられますよね」
「はい。基礎的な部分は全部やりますし、選択して受講することもできますので」
よし、大学みたいな感じだな。
「それでは、まずは推薦状ですね。卒業生の私で十分なのですが、もっと地位の高い人の推薦状なら試験の結果が悪くても入れます。ちなみに貴族ならほぼ間違いないです」
「流石に貴族は・・・」
「他には冒険者ギルドからの推薦でもいいと思いますよ」
「それなら、もらえそう。冒険者ギルドと商業ギルド、どっちの方がいいかな?」
「私には分からないので、両方もらっておけばいいのではないでしょうか。複数あっても確か問題無いはずです」
「ふむふむ。両方からもらっておけと」
「それと、試験は7月中頃です。申し込みが6月中だったと思うので、それまでに王都に移動した方が良いですよ。試験勉強する時間も必要です。試験を申し込むと王都の図書館を無料で使えるようになります。王都への移動も一週間くらいかかるので、それも見込んで6月上旬にはここを出発したほうが良いと思います」
「へぇ、春の入学で一年待つのかと思ったら、秋からか」
「そうです。入学が9月です。今は5月中頃なので、後2、3週間ですね」
「あ、意外と忙しいかも」
「そうですね。後、魔道具科は魔力が無くても入れるので、筆記試験の結果が重要だそうですよ。頑張ってください」
「それ、試験勉強一ヶ月程度で大丈夫かな?」
「リューさんなら大丈夫です。きっと。それに試験に落ちても来年があるじゃないですか」
「・・・それもそうか」
今更、入学年齢が40歳だろうが41歳だろうが大差ない。15歳くらいの子供で、学友と一年差が付いてしまうのとは大違いだ。なにせ、同年代の友達など居ないのだし。しかし、自分の子供のような年代と一緒に勉強か。ぼっちになってしまいそうでなんか不安。
中央広場はお祭りの準備で忙しそうにしている人々がたくさんいた。
冒険者ギルドに行ってみると、暇そうにしているのがギルバートしかいなかったので、仕方なく推薦状の話をしたら『その年で今更学校かよ』と鼻で笑われた。あいつ、ゆるせん。




