SS:オズワルド
Side story
俺はオズワルド。元Aランクの冒険者だ。
引退した俺にも仕事を用意してくれる冒険者ギルドには感謝している。
こんな俺でもギルドマスターが務まるのは優秀な事務方がいてくれるおかげだ。ヘクターにも感謝している。しかし、ギルバートは使えねぇ。俺の真似なんてしてないで、きっちり事務仕事をしろってんだ。
たいして仕事もできない俺がトップにいるのは、荒くれ者どもを押さえつけるためだ。今回のような強制依頼では、いくらペナルティで縛っても、命の危険を察知されたら逃げられてしまう。そもそもそれを判断できないヤツは高ランクになれない。死ぬからだ。
王都のような安全な場所には、お貴族様のギルドマスターがいる。危ない辺境は引退した高ランク冒険者というわけだ。俺もあと数年でこの仕事をやめて王都に戻るつもりだ。
『暁』が報告に来たときは頭を抱えた。
やっと魔力草の納品もできるようになり、それにより作られるハイポーションでフォレストワースの冒険者の動きも活発になる。十分な量が確保できない時、冒険者も冒険しなくなるからな。ポーションの値段が固定なのはいい場合もあるが、こういう弊害もある。錬金ギルド側との魔力草の価格交渉は面倒くさかった。あいつらのトップはお貴族様が多いからな、自分たちでは一切泥を被ろうとしない。ハイポーションの生産量が減るのだからその分全体の利益が減るというのを理解しようとしない。俺でも分かるってのに。
ロックレインモンキーか。これではまた魔力草を取りに行くやつらがいなくなってしまう。周り道をすれば取りに行けないことも無いが、今でもギリギリ日帰り可能な距離だ。野営必須となれば難易度も違うし、同じ依頼料では引き受けてくれなくなるのが目に見えている。
討伐にはAランクを呼びよせてもいいが、ロックレインモンキーは逃げることを知っている。逃げた個体がまた戻ってきたらどうする?さすがにそのたびにAランクを使うのでは効率が悪すぎる。それに、猿共が戻ってきたときに、また数パーティ全滅するまで気が付かないなんてことも考えられる。それは最悪だ。
今回は運よくBランクが4パーティいるし、遠距離攻撃もある程度数を揃える事が出来そうだ。しかし、メインアタッカーが死にそうなじいさんでは心許ない。魔力が少なくて、魔法は数を打てないという話だし。
そこにちょうどいい金髪エルフの凄腕弓使いがいた。ギルバートの話では、グレートボアを単独討伐した実績があるという。腕相撲協会の会長で、あのマチルダを下すほどの強者。だというのになんだ。危ないから行きたくないだと!ふざけるな!危ない事が嫌なら冒険者やってるんじゃねぇ!
しまいにゃ血だらけの上半身をさらして俺を脅迫だと!血なんざ冒険者やってりゃ見慣れているんだよ!
後でヘクターになだめられ、仕方なく下手に出てやったが、結局最後は金かよ。
本来ならギルドマスターが直接討伐に参加することなどないのだが、Bランクのやつらの実力がみんな横並びでリーダーを決めにくかったこともあるので、元Aランクとして猿共の遊び相手になってやることにした。そうすれば被害も減るだろ。やる気のない連中の見張り役も兼ねて。たまに実力を見せておかないと、肩書だけでは誰もついてこなくなってしまう。ああ、めんどくせぇ。
猿の討伐は以外にも苦戦した。
投石なんて舐めていたが、長い腕で、はるか頭上から投げ降ろされる石は、かなりの破壊力を秘めていた。B、Cランク程度の人間がまともに受けたらやばいレベルで。だいたい準備した盾が持たないかもしれない。
そんな中、あの金髪エルフは次々に猿を落としていった。
まず目についたのは尋常ではない矢の速さだ。そして、普通のアーチャーでは矢が届かない長距離だというのに、ほとんど外さない正確性。たまに横に曲がっているようにも見えた。魔法を使っているんだろうな。やっぱり魔法の扱いがうまいエルフってところか。
まあ、ちゃんと仕事はできるようだ。高い金を払った分は働いて貰わないとな。
すると、最後の詰めの段階で猿共が逃げ出した。これは予想していた通りだが、包囲網を突破されてしまったのは痛い。あのルートにはきっちりBランクのやつらを配置しておいたというのに。使えねぇ。
そう思った時、俺の近くをあの金髪エルフが飛ぶような速さで駆けていった。
包囲網の一番遠くにいたというのに、猿共に追いつき、走りながら次々と仕留め、最後の一匹まできっちりと狩り尽くした。最後の猿は顎から上が吹き飛ばされていた。矢傷じゃない。声をかけに行ったら血と肉片がこびり付いた弓を洗っていやがった。背中の矢筒には矢がまだ残っているというのによ。こいつは、いかれてやがる。
血を見ると性格が豹変するヤツっているんだよな。理性なんてかけらも無くなるタイプかもしれん。嫉妬心とか復讐心とかで、見境無くなる奴もいるからな。そうだ、2重人格っていうのも考えられる。
そんで褒めてやったというのに、表情の抜けきった顔で氷のような視線を返された。俺も少し接し方を変えんと刺されるかもしれん。とりあえず、こいつは要注意人物確定だ。
一息ついたのも束の間、またとんでもない物が現れた。
サイクロプスだと!ふざけるな!
なんでダンジョン種が地上に現れるんだよ。
ダンジョンを長年放置していると、中から魔物が溢れてくることがあるらしい。らしいというのは記録が古すぎるからだ。それも帝国のダンジョンでの話だし。
この国にあるダンジョンは1つ。それも塀でがっちりと囲まれているので中から魔物が溢れてくることは不可能だ。サイクロプスが出現した方向は、何処まで続いているかも分からない魔物の森の奥だ。帝国方面の真逆。となれば、これは新しいダンジョンがあるという結論に至る。それは大発見といっていいほど喜ばしい事だ。
だが、まずは今この状況に対処しなければならない。
サイクロプスはとんでもない距離からこちらを視認し、岩を投げつけてきた。
確実にこの地点までやってくるだろう。その場合、ここから街が見えてしまう可能性が高い。その時点で街は終わりだ。あの投石攻撃に対抗する手段は無い。
そして俺は戦うことに決めた。サイクロプスは1体、こちらは人数がいる。また巨体のため動きが遅い、Cランクでも回避は可能だと思われる。応援を呼んでも間に合わない。今ここにいるのが、俺たちの街の最高戦力だ。
戦いが始まると、遠距離攻撃がじいさんの魔法くらいしか効かないことが判明した。あの金髪エルフの矢もダメージを与えることができていない。サイクロプスにこんな防御力があったか?よく見ると一回り大きいような気がする。もしかすると、強化種かもしれん。ついていないときは、とことんついていない。
じいさんの魔法が顔に当たった後、巨人は明らかにじいさんに狙いを定めていたが、金髪エルフが見事に注意を引きつけてくれた。あの巨木の全力投擲は、じいさんが食らっていたら間違いなく挽肉になっていた事だろう。
その後も、また魔法が当たった時に巨人がじいさんの方に走り出したのには焦った。最高戦力を潰されたら勝機が無くなってしまうというのに巨人の足を止める手段が無かった。そのときも巨人を止めたのは金髪エルフだった。ここまでやってくれるとは。本当に期待以上だ。
しかし、俺達には決定打が無かった。足はかなり傷ついてきていたが、そのために巨人が警戒して足元に近寄れなくなった。そんな時、また金髪エルフがやってくれた。投げた槍が巨人の足にダメージを与えた。
今回はサルの討伐予定だったので盾や弓矢の準備は入念に行ったが、槍や剣といった近接武器の予備は用意していない。誰も投げるといった発想は無かった。投げてしまうと自分の武器が無くなってしまうから。しかし、この戦法は有効だった。矢と違い槍は巨人の足に深々と突き刺さった。そして、中には剣を突き刺したやつもいた。抜けなくなった剣は放置され、代わりに戦えないCランクから新しい剣を調達していた。
そして、じいさんからの畳みかける魔法攻撃で、ついに膝を付かせることにまで成功する。じいさんに魔力回復ポーションをたっぷり飲んでもらった甲斐があった。
ところがだ、やはり俺達には決定打が無かった。その状態でまた膠着状態に陥ってしまう。もう巨人は移動できない。このまま放置して帰還し、Aランクを呼びよせて討伐してもらう事も可能ではあるのだが、サイクロプスの回復力が不明だ。だれもこいつを放置して観察したりなどしたことは無いだろう。包囲したまま寝ずに攻撃を続けるしかないのだが、もうすぐ夜になる。連戦で疲労もたまっている。さてどうするか。
そんな時だった。金髪エルフの声が聞こえてきて、周りには人が集まっていた。さっきから何かと状況を打破してきたヤツだ。何か思いついたのかもしれん。
期待を込めて見に行ってみたが、期待通りのヤツだったよ。
魔槍の投擲は、実は金髪エルフに魔力だけ込めさせて、他のBランクの槍使いに投げてもらおうかとも思った。だが、今日は終始こいつの世話になってきたことばかりで、最後もきっちりと締めてくれるだろうことを期待して投げさせることに決めた。
作戦開始と同時に危険を覚悟でBランクの奴らを巨人に突撃させる。だというのに魔力を込めるのに時間がかかった。魔槍にどこまで魔力の許容量があるのか分からないから、それは仕方ない。それは聞いていたが、ここまでかかるとは思わなかった。徐々に飛ばされてリタイアする人数が増えてきて俺の心が焦り始めた時、魔槍が発光しているのが見えた。
おいおい。俺も魔法使いが使うオーバーブーストは知っている。しかし、それを魔槍に使うのかよ。まずいぞ、あれだけの魔力放散があると巨人に気付かれる。
「その剣を貸せ」
俺は、巨人に向かって駆け出していた。
自分の剣は、剣を折っちまったBランク冒険者に貸してしまっていたので、今持っているのはたまたま近くにいたCランクが持っていた普通の剣だ。それを巨人の足にたたきつける。クッソ切れ味が悪い。
さて、俺も吹き飛ばされる番かなと思ったが、巨人は金髪エルフの方を見ていた。
バカ野郎!魔力を込め終わったら、さっさと投げろってんだ!
全力で剣を振るう。するとついに巨人の骨が見えた。しかし、骨に当たった剣はあっさりと折れてしまう。ここまでか。
金髪エルフを見ると全身が発光していた。
バカだろ・・・。そこまでやる必要がどこにある。
ああ、そういえば頭がいかれていたな。
木が頭の上を通過していき、巨人の腕から放たれる。
死ぬなよ。
何もできない俺は、巨人の元から離れる。
次の瞬間、光り放つ槍が、赤く輝く尾を引いて飛んでいく光景が見えた。
だから、魔力込めすぎなんだよ。なんでそんなに殺意が高いんだ。




