延長戦(中)
巨人を見ると、木をたたきつけるのではなく振り回していた。
辺りは木がすっかり倒され、ちょっとしたスペースができていた。
枝や根っこが残ったままの木は避け難い。足元に近寄らせたくない巨人に、近寄りたい冒険者。膠着状態に陥っていた。相変わらず矢や魔法は飛んでいるが、巨人には効果が無いようだ。
周囲を囲う冒険者の少し外に、指示を出しているオズワルドがいた。
そこにはアーサーもいたので、ルイスとともに戦況を聞きに行くことにした。
「おっ、無事だったか。スティーブは?」
アーサーはこちらにすぐ気づいた。
「盾を取りに行っている。それとポーションの補充。戦況はどうだ」
ルイスが答える。
「見ての通り膠着状態だ。警戒されてなかなか近づけない。何人か犠牲も出た。討伐は無理かもしれないな」
三人でオズワルドの方を見た。近くの人間としきりに何か話している。まだ決断はできないようだ。
そこにスティーブが戻ってきた。
「こんな所にいるとは。ほれ、ポーション。そして、矢も持ってきたぞ」
「気が利きますね」
スティーブは矢筒も持っている。盾持ちに配られていたギルドの備品だ。矢が無くなった時に補充できるように持たされていたものだ。中身の矢は、吹き飛ばされたときに盾と一緒に使い物にならなくなっていた。今回、そこに補充して、手にも抱えて持ってきていた。
巨人の足は大分出血していたが、まだ健在だ。膝辺りに矢がたくさん刺さっている。巨人が動くたびにパラパラと落ちていく。自分の特注矢は抜けていない。返しが付いているし。
そこに、じいさん魔法使いから放たれた槍のような炎が膝に着弾した。
「ゴアァァ!!!」
巨人の叫び声。膝の周辺に刺さっていた矢は、吹き飛んだものもあるが、燃えているものもある。
そして、時間を置かず同じ場所に2発目が着弾した。
「グオアァァ!!!」
膝を付きかける巨人。結構効いているようだ。
近づこうとする近接職。
巨人は木を振り回しそれをけん制すると、かがんだ状態から勢いをつけてじいさん魔法使いの方に走り始めた。
「まずい!止めろ!!!」
オズワルドが叫ぶ。
にわかに動き出す冒険者たち。
自分も巨人の方に走り出す。
「おい待て!どこに行くんだ!」
スティーブが追いかけてくる。
別に何も考え無しに走っているわけではない。巨人の方ではあるのだが、真っすぐに向かうのではなく少し逸れ、巨人と入れ違いになるように広場に出た。ここからなら障害物が無いからあの魔法が使える。
「近寄らないでください!」
その忠告で、駆け寄ってこようとしていたスティーブは立ち止まる。
雷魔法を含めた魔法3点セットを発動し、矢を放つ。狙いは頭。
木の合間に巨人の頭が隠れる前に間に合え!
そして、全力で発動する電撃。
バチッ!バリバリ!
巨人は一瞬動きを止め、つんのめるように前に倒れた。
「よっしゃーーー!!!」
思わず叫んだ。
「よし、今だ!かかれー!」
「「「ウォー!」」」
オズワルドの声に呼応する冒険者。
巨人もすぐに起き上がろうと、木を振り回す。
何人もの冒険者が弾き飛ばされるのが見えた。
あれは大丈夫なのだろうか。
自分も急いで逃げる。ここは広場だから巨人から丸見えになってしまう。さっきの二の舞はごめんだ。遠くの茂みに飛び込み、巨人を観察する。
巨人が立ち上がると、背中の辺りに剣を突き刺していた冒険者が飛び降りた。そして、肩に乗って首を何度も切りつけていた勇敢な冒険者が手で払われて落下していた。いや、ギリギリで飛び降りたらしい。
巨人は真っ先に、こちらをにらみつける。
自分は隠れているから大丈夫だと思うが、こちらに走り込んできているスティーブがしっかりとその眼力に捉えられている。
こっちに来るなと叫びたいところを必死でこらえた。
だが、この隙にも足に斬りかかる冒険者がいたために、巨人の視線はそちらに移る。
助かった。
巨人は近くの木々をなぎ払うように木を振るう。それが折れれば新しい木を引き抜き、それを振るう。まるで乱暴にゴミを掃き掃除しているかのようで、また近寄れなくなる。明らかに先ほどより出血が増えているが致命傷には至っていない。
ここは雷魔法のギリギリの射程範囲。
茂みから出で、また魔法3点セットで矢を放つ。
バチッ!
命中しているが、巨人は一瞬動きが止まるだけで倒れなかった。睨まれるのと同時に隠れる。今回も木は飛んでこなかった。
さっきの雷撃が有効だったのは、走っていたから倒れただけだったらしい。
もう一度試してみたが巨人は倒れなかった。
ただ、隙は作れるので何人かが斬りかかっているが、逃げ遅れたヤツは木でなぎ払われた。
このまま続けてもいいが怪我人が増えてしまう。死人も出ているかもしれない。
何か無いかと考えていると広場に突き立っている立派な槍を見つけた。
誰かが投げた槍だ。
巨人に刺さっていた筈だが、抜け落ちた物だろう。
拾いに行ってみると折れてはいなかった。穂先も付いている。
これだ。
別に槍投げの経験は無いが、ここに広場があるし、全力で走り、風のエンチャントを乗せて更に勢いを付け、ホーミングでなんとか当てられないだろうか。
スティーブはこんな所にも付いてきてくれていた。
「ちょこまか動くなよ」
と、憎まれ口をたたいてはいるが。
「ちょっとこの槍投げてくるから」
弓と矢筒をスティーブ預け、広場の遠くの端まで移動する。
射線を確認し、巨人の奥に人がいない場所に横移動する。街に向かう直線上にはいないはず。少なくとも作戦開始時にはいなかった。
巨人の周りは、また膠着状態に陥っていた。
それを確認した後、全力で走り始める。
スピードに十分乗ったところで投擲。
「行けぇ!」
胸の辺りを狙ったはずだが、力んだためか少し下の方に槍は飛んでいく。風のエンチャントで更に加速しながら。
では、狙いは膝だ。しかし、ホーミングの効きは矢より悪かった。曲がり難い。
槍は太ももの下辺りに横から突き刺さった。
「ゴアァァ!!!」
巨人が叫び声を上げたよ。効いている、効いている。よし。
すぐに近くの茂みに飛び込んだ。
睨まれたかどうかは分からないが、この場所は巨人から近いので、そのまま森の中を走りその場から距離を取る。
木の陰から巨人を確認したらこちらを見ていなかった。
ほっとする。
そして、数人の槍を持った冒険者がこちらに走ってくるのが見えた。
どうやら、槍投げ戦術は有効と見なされたらしい。
彼らは自分のように遠くから投げるのでは無かった。
こちらの広場の中央ぐらいから走り始め、巨人の振り回す木が届かないギリギリの所から投擲した。そのため狙いもそんなに狂うこと無く、足首やアキレス腱の辺りに深々と突き刺さっている。
ふらついた巨人は木を杖代わり使い、倒れないようにこらえた。この隙を逃すまいと、切り込み部隊が渾身のアタックを仕掛ける。何人かは切るのではなく、自分の体重を乗せて剣を突き刺していた。突き刺さった剣はそのまま放置され、巨人の足には槍や剣が何本も生えているような状態となる。
そして、じいさんの魔法、炎の槍が、前回と寸分違わず同じ場所にたたき込まれる。
その結果、ついに巨人は膝をついた。
こうなってしまうと、後は見ているだけだな。
巨人を気にしつつ、スティーブと合流した。
冒険者達は巨人に群がっているが、膝をついただけなのでまだ木を振り回している。不用意なヤツは弾き飛ばされていた。
アレで死なないんだから、レベルとポーションの恩恵は凄まじい物があるな。自分たちも端から見たら死んだと思われたかもしれない。




