元凶
休憩も終わり、そろそろ帰ろうかという頃、にわかに討伐隊が騒がしくなる。周辺を警戒していた斥候からの話で、遠くに何かがいるらしい。
オズワルドも動き出し山の斜面を登っていった。
少し遅れて暁も付いていく。
斜面を登り、地滑りによりできたと思われる崖の上に到着すると、前方に木が無いために森の奥の方まで見渡せた。とてもいい景色なのだが、集まった冒険者が指を差して騒いでいた。
確かに何か動いて見える。頭かな。木より高い位置にある頭って何だよ。そのとき、その頭の手前にあった木がすうっと消えた。顔がよく見えるようになる。その中央には大きな目がただ一つ。
「サイクロプスだ!」
誰かが叫んだ。
ざわめきが大きくなる。
10Km以上は離れていると思うのだが、あの一つ目はよく見える。そして、巨大だ。
「サイクロプスはダンジョンにしか生息していないはずなんだけど・・・」
アーサーも言葉を詰まらせていた。
しばらく巨人を眺めていた。また、前方の木が倒され、近くの木々から鳥たちが飛び立つ。
「あれ、こっちに向かって来ていますよね」
「そうだね」
隣にいたアーサーが言葉を返した。
「これって、このままだとまずいんじゃ・・・」
「街の外壁では防げないね」
あっさりとそんなことを言うアーサーの顔を見ると、アーサーもこちらを振り向いた。険しい表情をしている。
次にオズワルドを見た。彼らも何やらしきりに話をしている。緊張感が伝わってきた。
また巨人に視線を戻すと、この距離で目が合ったような気がした。巨人の歩みが止まる。
嘘だろう。こっちを認識したのか?
次に巨人は口を開いた。何か叫んでいるように見える。
ビリビリとプレッシャーを感じた。いや違う、これは魔力波だ。何人か、気の弱い冒険者が尻もちをついている。飛んでいた鳥も数羽、落下していくのが見えた。
「グオオオオオォォォォーーーーー!!!」
たっぷりと時間が空いた後、腹の底に響く重点音が響き渡った。冷や汗が首筋を伝う。
ここにいる誰もが言葉を失っていた。
巨人を凝視していると、しゃがみこんだのか、見えなくなる。
次に現れた巨人は何かを持って振りかぶっていた。
「おい!みんな気を付けろーっ!!!」
誰かが叫ぶ。
ゴマのようなものが巨人の上に見える。
「何か投げたぞ!」
それは分かるのだが、この距離だよ。届くのか?いや、届いたにしても当たらないだろう。
ゴマはしばらく上に上がっていき、そして落下してきた。それは急激に大きく見えるようになる。結構なサイズの巨石だった。
ドドーーーーーン!!!
石は崖の下あたりに落下し、雷のような音と地鳴りがした。
崖の近くに居た冒険者が数人、足元の崖崩れに巻き込まれて落ちたようだ。
自分も衝撃でバランスを崩しそうになった。
そして、土煙で巨人を見失う。
「泉に集合だ!」
オズワルドが叫ぶ。
「一人残って、巨人を監視しろ!」
自分は嫌なので、さっさと斜面を下る。
とはいっても、誰が残ったのか気になる。振り返りながら降りていたら、一人、崖の近くの木に隠れて残っていた。一緒に猿を追いかけたナイフ持ちの人だった。名前は知らない。
泉の畔でオズワルドと他のBランクチームと思われる主だったメンバーが集まっていた。もちろんアーサー達も混じっている。
自分はそれを周りから見ている傍観者。
手前の山の陰になっていて、ここからは巨人が見えない。おそらく石も飛んでこないと思われた。あれから二つ目の石は飛んできていない。心配はしていなかったが、崖崩れに巻き込まれた人も問題無かったようだ。このランク帯の冒険者は皆しぶとい。
「どうする?街まで撤退してバリスタで倒すか?」
「川の対岸には、巨石がごろごろしている。届かない距離から投げられたら街は終わりだ」
「さっきの斜面をもう少し昇ると、街が見える。ここからでも届くんじゃないのか?」
「それは、まずいな」
「巨人の移動速度はどのくらいだ」
「さっき見た限りでは、数時間でここまで来るだろう」
「それでは、応援を呼んでも間に合わない」
「夜になったら動きが止まるのでは?」
「ダンジョンの魔物は寝ない。昼も夜もお構いなしだ。サイクロプスは夜目も利く」
「このサイクロプスがダンジョン種だとは限らないだろう」
「地上種は確認されたことは無い。だが、その可能性もある」
「そんな曖昧な情報を当てにするわけにはいかないだろ」
「・・・」
沈黙の中、皆がオズワルドの次の言葉を待っていた。
「よし。ここで一当たりするぞ。全員参加だ。異論は認めない」
その言葉を聞いて戦慄した。あんな化け物と戦うのか。
「まずは街に連絡だ。住民全員避難させる必要があるだろう。その辺を判断するのは領主様だがな。で、誰を行かせるかだが・・・」
そのとき、オズワルドと目が合った。
そうだよ。この中で唯一のDランクなんだし、足の速さを生かして伝令とか。戦わなくて済みそうだ。
「あまり戦力を減らすわけも行かないしな」
目線がそれる。そんなばかな!
「おい、そこのお前とお前。街に走れ。俺が帰るまでAランクは呼び寄せるんじゃないぞと、ヘクターに言っておけ、忘れるなよ」
指名された二人は急いで駆け出して行った。去り際に少し笑顔を見せたのは見逃さない。くそっ!運のいい奴らだな。
次にオズワルドは全員に聞こえるように声を張った。
「ここで倒せないと判断したときは、森の中を南に誘導してフォレストワースで迎え撃つ。誘導はBランクパーティが行う。誘導できなかったら・・・、街は終わりだろう」
静寂の時間が流れた。
「よし、まずは装備の確認をしろ。盾なんて役に立たないからな。いらなければここに置いて行け。ポーションを使った奴は申し出ろ。支給する。それとハイポーションは、全員分無いのでこちらで分配は決めさせてもらうが、使うのをためらうな。近くに居たやつが使ってやれ。死人は出すなよ。危ないと思った時は距離を取れ。この中で、サイクロプスと戦たことのある奴はいるか?」
しかし、誰も手を上げる者はいない。
「まあそうだろうな」
そして、またしてもオズワルドと目が合った。
「おい、腰抜け」
「なに?」
ひどい呼び方だな。不機嫌に返事をした。
「何でそんなところにいるんだよ。おまえはBランクパーティ暁の臨時メンバー扱いだ。こっち来い。さっきの咆哮で、金玉縮み上がったか?」
「そうね。縮み上がって跡形も無いわ」
笑いが起こる。
くそっ、セクハラで訴えてやる。
私だけで無く全員の緊張をほぐそうとしてくれたのかもしれないが、人をダシに使うな、と言いたい。
「しかし、あの投石はヤバいな」
「石が無いところとなると、少し行ったところに湿地帯のようなところがある」
「湿地帯はダメだ。ヤツも動きが鈍るかもしれないが、こっちも足が使えなくなる」
「いや、木が生えていない程度で、地面はそれなりに固いが」
「待て、木が無いと近づくのが大変だぞ。遠距離だけでは倒せないだろうし」
「では、この手前の山を少し下ったところはどうだ。窪地になっていて、ヤツが近づくまでは隠れていられる」
「時間も無い、贅沢は言えないからな、そこにするか」
オズワルドの決定にみんなが頷く。
「で、巨人の基本戦術だが、足を攻撃して倒してから急所を狙う。あのサイズだと心臓には刃が届かないだろうな。狙うなら首か」
「近接職は、囲うように散らばれ。ヤツの前には絶対に出るなよ。視線を感じたらすぐに離れろ。そしてヒットアンドアウェイだ。忘れるなよ。遠距離職も散らばってヤツの気を逸らせ。左右に展開。正面には出るな」
「近距離職が多いから、遠距離の護衛に少し付けるのはどうでしょうか。盾を持たせれば、岩は無理でも礫くらいは防げるかと」
アーサーが提案していた。
「よし、それで行く。選抜はおまえがやれ。大丈夫だとは思うが斥候職は周辺警戒。それと足に自信のあるヤツに囮をやらせる。・・・こんなもんでいいか。他に意見のあるヤツは?」
「囮は俺がやりますよ」
格好いい事を言ったのは、一緒に最後まで猿を追った二人のナイフ持ちのもう片方の人だった。よほど足に自信があるのだろう。自分は・・・手を上げたりしない。
「無茶はするなよ。みんな死ぬんじゃ無いぞ。ここで倒せなくても、数日間の徹夜ピクニックが待っているだけだ。フォレストワースにご招待して、Aランク冒険者にボコして貰えば全て解決だ。行くぞ!」
「「「オー!!!」」」




