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気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第一章 辺境の街

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ブラッディオーガ

 その日の夕方、冒険者ギルドのホールはごった返していた。

 暁を含めたBランクパーティ4つ。そして、選抜されたCランク合わせて50数名。

 そこにオズワルドが現れ、明日の作戦概要と仕事の割り振り、集合時間が告げられた。

 予定を狂わされて怒っているヤツもいたが、自分のように悲壮感を漂わせているのはいない。

 冒険者という種族は狂っている人間の集まりなのだろうか?

 それとも自分の感覚がおかしいのだろうか?

 しかし、これだけの人数が集まると少し安心感が出てくるのも事実。景気の良い煽り文句に扇動されて、戦地に赴く兵士達の気分はこんな物じゃないかと思ってしまった。


 次の日、各グループのリーダーに作戦詳細の説明があり、順次ギルドを出て行く。

 Bランクパーティは、猿たちが逃げると思われる森の奥の方に配置される。遠くに配置されるグループから順に出発していった。自分たち超遠距離狙撃グループは最後だ。そして今回、適当なまとめ役がいなかったために、ギルド長自ら指揮を執ることにしたらしい。

 猿たちは逃がすつもりは無いが、街の方向に逃がすことだけは避けたいとのことで、こういう配置となっている。

 指揮部隊は猿たちの投石が届く範囲内が定位置となっている。指揮部隊と気付かせてわざと狙わせる事で他の攻撃グループの攻撃チャンス作り、負傷リスクを低減させるのだそうだ。ギルド長も体を張っているね。あんなだけど少しは好感が持てる。


 時間は昼前、ゆっくり時間をかけ大きな包囲網は静かに完成した。途中、猿たちに見つかるなどのトラブルは発生せず、他の魔物との遭遇も無かったようだ。

 少し前にいるオズワルドから前進の合図があった。いよいよ作戦開始だ。これから包囲網を狭めていく。

 しばらく進むと、300mほど先に数匹の猿を視認することができた。うちらを含む後方3つのグルーブは、ハンドサインでコミュニケーションを取る。この距離でじいさん魔法使いは有効打を当てられるという。自分は不可能。そして、攻撃開始の合図があった。

 じいさんは目をつぶり集中、ものの4、5秒で目を見開いた。構えた杖の先から火の玉が飛びだす。その火は重力を無視してまっすぐ突き進み、サルがいた付近で大爆発した。

 ドン!!

 一秒遅れて大音響が(とどろ)く。火炎の中から火だるまの猿が煙を引いて落ちていった。

 これが他のグループへの合図となり、全てのグルーブが包囲網を狭め始めた。

 指揮部隊は先行して突入していく。その部隊には魔法を使えないのに杖を持った人がいる。そして、使った事も無いのに弓を持った人もいた。

 猿たちは右往左往していたが、指揮部隊を見つけると包囲するように動き始めた。

 猿たちの投石範囲内に入ると、杖を構えたり、矢を構えたりする。そこに石が飛んでくるので、構えるだけですぐに盾の後ろに引っ込む。上手い具合に猿を引きつけていた。

 さて、指揮部隊が仕事を始めたのでこちらも狙撃を開始する。

 矢を引き、風のエンチャントとホーミングをかけ、すぐさま放つ。誘導しながら次の矢を準備する。このルーティンを3~4秒間隔でこなし、次々と猿を狙う。

 3匹に命中した。しかし、猿は1匹しか落下しなかった。その後の2射は警戒されて木に刺さる。

 この間に弓を構えながら前進する。

 指揮部隊は移動し、落下した猿にとどめを刺して回るようだ。

 じいさんの部隊が止まった。おそらく、ほとんどの猿を射程に捕らえたと思われる距離。

 自分の射程はもう少し短いので、投石範囲に入らない程度にもう少し前進。そしてほとんどの猿を射程に収めた。

 猿は相変わらず(おとり)の指揮部隊に集中攻撃しているが、指揮部隊はなかなか崩れない。あそこには選りすぐりのメンバーが集められている。アーサーも選ばれていた。

 なので、今、暁の仮のリーターはスティーブだ。

 このまま左右の包囲グループ到着を待ってもいいが、やれることをやることにする。

 背の高い木にも幹が細い物はある。そんな木に隠れている猿の肩は隠れきれずに少し見えている。前回の撤退戦では余裕も無かったが今は違う。落ち着いて近くの猿から狙っていく。ホーミングを使って斜めから矢を当てていく。3匹に命中。内1匹は脇腹に深々と刺さり落下した。

 この森は背の高い木に下枝が少ない。猿たちのいる場所まで空間が空いている箇所が多いところに目を付けた。あの魔法が使える。

 まず索敵魔法で正確な猿の位置を把握し、風のエンチャントは加減して矢の速度を少し落とし、ホーミングで曲げる。あえて木に隠れている猿を直接狙わない。猿には当たらなくてもいいから、木に刺さらないように。矢が猿の近くを通過するタイミンクで雷魔法発動!

 バチッ!

 一発で猿は落下した。

 みんな上を見上げていたので放電の光が目立ったらしい。じいさんのグルーブや、指揮部隊の何人かもこちらを振り返っていた。

「なんだ今の魔法」

 スティーブが猿たちを警戒しながら尋ねてくる。

「とっておきのヤツです」

 そう言いつつ、もう一発。また一匹、猿が落下した。

 徐々に包囲の部隊が近づいてきて攻撃が始まる。猿はこっちを警戒しているので、包囲の部隊からは、ほぼ全身が見えている。そして、近くの包囲グループの攻撃を避けようとした猿を、またこちらから狙っていく。

 風のエンチャントのおかげで自分が放つ矢は速度が速い。包囲グループからの攻撃の着弾と、より長距離のこちらからの着弾が同時になり、猿たちは対応できない。次々と落下していき、それを指揮部隊のメンバーが(とど)めを刺す。

 数の暴力とは恐ろしいね。昨日とは完全に立場が逆転している。

「「「ギャギャギャ!」」」

 半分以下に減らされた猿は一斉に森の奥へ逃走を始めた。

 すかさず、じいさん魔法使いから魔法が放たれる。

 ドン!!

 一番遠くの猿に見事命中したが、その爆炎と爆風にも他の猿たちはひるまなかった。

 自分も逃げる先頭の猿を仕留める。

 奥から包囲していたBランクグループからも必死に攻撃が行われたが、4匹程度が包囲を突破していった。

「逃がすな!追え!」

 オズワルドが叫ぶ。

 みんな一斉に走り出した。

 猿たちは沢を登るように移動していく。街の方向には逃げなかったのでこれはこれで予定通りだ。

 しかし、ここで逃すと自分の安全が脅かされる事になる。この作戦を最後に冒険者辞めると言えれば良かったのだけど。

 風のように木々の間を駆け抜けていく。

「待て、リュー!無理するな!」

 スティーブの声が遙か後方で聞こえた。

 指揮部隊を追い抜き、ついには最奥にいたグループも追い越していく。

 猿たちは逃げるのに必死で石は持っていない。それでも地上を走る自分たちの方が早い。

 先頭にはBランクの身体強化持ちが何人かいた。

 弓持ちが一人、剣を持っているのが一人、ナイフを持っているのが二人。誰一人、盾は持っていない。そして軽装備。

 もう少し走ると木の高さが低くなってくる。そこまで行くと弓じゃ無くても攻撃が届くようになりそうだ。

 しかし、それを待つ必要は無い。ジャンプして矢を放つ。その矢は一番後方にいた猿の背中に突き立った。

 流れるような動作で落下してきた猿を切り伏せる剣持ちの冒険者。

 すご!

 プロだねぇ。

 このときは、自分が他の人にどう見られているのかなど考えもしなかった。

 次は弓持ちが急に立ち止まり、静止射撃。

 その矢は猿の肩に当たり、次の枝に飛び移れなかった猿が地面に着地する。

 そこへ加速して走り込んでいた冒険者がいた。その猿の振り向きざまに首筋をなでるナイフ。その手際も素晴らしいが、木々を飛び移る猿にホーミングも無く矢を当てるとは。高ランク冒険者の技術は素晴らしい。

 そんな冒険者達を追い抜き、ジャンプして矢を放つ。ここはもう必中の距離、落ちてくる猿は他の人に任せ、最後の一匹を追う。

 最後の一匹となった猿は、たびたび後ろを確認するようになった。しかし、それでは速度も落ちてくる。

 いける!

「待て、あまり先行しすぎるな!」

 誰かの声が聞こえたが、頭には入ってこなかった。

 場所は魔力草の生えている泉の辺りまで来ていた。

 この辺には、もう高い木は生えていない。

 猿は地面に降り立ち4本足でジグザグに走り出した。

 とても狙いにくい。それに地面を走ることで速度も上がっていた。しかし、追いつける。

 泉を越え、下草が生えている地帯にさしかかったとき、急に猿を見失った。

 一瞬の集中力の途切れ。

 その瞬間、猿は木を使ってうまく方向転換し、牙をむき出しにして襲いかかってきた!

 正面の藪の中から急に現れる猿。

 矢を放つのは間に合わない。

 放ったとしても、猿と激突することは避けられない。

 咄嗟に弓に防御魔法を発動し、先端を猿に向けた。

 噛まれたらいやだという意識、その先端は猿の口に向けられ、突き刺さった。

 肩が外れるような痛みを感じ、咄嗟に弓から手を離す。

 猿の顔の位置が右に逸れたが、残った胴体の半分を躱し切れず激突した。

 両手両足でガードしたが、かなりの衝撃を感じ、2mほど斜め上空に跳ね飛ばされる。

 そして地面を転がる。

 運良く木にぶつかることも無かった。

 すぐに片膝立ちになり、倒れ伏した猿を見つめたが、二度と動くことは無かった。

「ふう」

 一息ついた。

「大丈夫か」

 そこに追いついてきた、剣を持った冒険者が手を差し出す。

「痛っ!」

 右手を挙げようとしたが、肩が痛くて上がらなかった。

 左手でポーチからキズポを取り出し飲み干す。

 ぐるりと肩を回すと、痛みは取れていた。

「ポーションか?珍しい瓶だな」

 まだそこに立っていた冒険者は再び手を出した。

 治ったばかりの右手で掴み、立ち上がらせて貰う。

「どうも」

 とりあえず、お礼だけ言っておく。瓶の話題にはあえて触れない。

「さすが、森の妖精エルフだな。速いわ。まあ、ただ者じゃ無いとは思っていたけどよ」

「それはどうも」

「俺は、ガルフだ。よろしく、会長さん」

「どうも。リューです。会員の方ですか?」

「おう。先週は予選落ちだったけどよ。そういえば今日は残念だったな。大会が中止になっちまって」

 そこに、弓を持っていた冒険者が歩いてきた。

「いやー、さすがですね。あの速度で走りながら、あの距離を簡単に命中させますか」

「いえ、魔法を使っているだけですよ。それよりは、魔法無しで当てられるあなたの方が凄いです」

 一応、()め返しておく。実際感心したし。

「いえいえ私なんて。そして、この弓。私には重くて引けませんよ」

 猿の口に刺した弓を持ってきてくれていた。刺さった部分に血がべっとりとついている。軽く引いてみるが折れてはいないようだ。

「これも、身体強化魔法なんです」

 そんな感じで冒険者仲間としての話に花が咲いていると、ぞろぞろと後続が追いついてきた。

 そして、泉の側でお昼休憩という事になったので移動した。


 何人か水を汲んでいる人がいたので、その辺は安全な水辺なのだろうと判断した。

 真っ先に弓を洗う。弓と弦の間にピンク色の肉片が挟まっていた。そういえば、あの猿がどうなっていたのか確認はしていない。しかし、そこは考えない方が良さそうだ。

「よう」

 そこに、なれなれしく肩に手を乗せてくるヤツがいた。

 声からすぐに分かる。オズワルドだな。

「なんですか?」

「弱気なことを言っていた割にやるじゃねぇか。血を見ると豹変するタイプだったとはな。最後の一匹まで追い詰めて殺すとか、恐れ入ったぜ。弓で頭をえぐるとか、殺意高すぎだろ」

 聞きたくなかった事まで聞いてしまった。今この指でつまんでいる肉片はアレだな・・・。

「・・・」

 ポチョン。

 肉片を泉に捨てた。

「まあ、なんだ。いろいろ煽っちまって悪かったな。働きに関しても期待以上だったし、結果も完璧だ。ありがとよ。報酬は期待していてくれ」

 振り向いて目が合うと、オズワルドはひきつった笑顔で去って行った。

「おう、おめーら!魔力草採っても買い取らねーからな!今日の買い取り分は全部『暁』の指名依頼だ。明日なら買い取ってやるよ。ただし、今日採集した物を明日納品しても二束三文だからな!」

「ちぇー、なんだよ」

「けちくさいな」

「小遣い稼ぎくらいさせろってんだ」

 魔力草を採集しようとしていた連中は口々に文句を言った。

「指名依頼がほしいなら出してやるよ」

「・・・」

 そう言われても、儲からない仕事はしたくないので、みな顔を見合わせながら無言で立ち去っていく。

 弓を洗い終えたところで、暁の所に顔を出した。

「リューさん。何したんですか?最後の一匹まで追い詰めて惨殺したって話題になっていますよ」

 アーサーが笑いながら言う。

「え!?なんで?」

「弓で殴って頭を破壊したという噂ですよ。それ返り血じゃ無いですよね。ほら、頬に傷まで作って」

 アーサーはハンカチを取り出すと、頬を軽く拭いてくれる。そして、見せてくれたのは血だった。いつの間に怪我してた?自分でも触ってみるが痛みは無い。既にポーションで治っているようだ。しかし、手には血が付いていた。

「三本筋が付いていましたよ」

 考えられるのは、猿と激突したときに爪がかすったとかかな。

「弓持っているのに追いかけていって弓で撲殺って、どんだけ能筋なんだよ」

 スティーブは大笑いしていた。

「ちがう!殴ったわけじゃ無くてたまたま当たってしまっただけ」

「当たっただけで頭が吹き飛ぶわけ無いだろ。くっくっく」

「猿が突っ込んできたから!」

「もう、その言い訳、苦し過ぎるから。矢が残っているのに追いかけていって格闘戦しているその事実だけで十分おかしいから」

「すばしっこくて当てられなかったの!仕方が無かったの!」

「それにしたって、腰のナイフ使えよ。弓で殴り殺すってなんだよ。綺麗な顔しているのに頭いかれているってもっぱらの評判だよ。ぶははっ」

「ア゛ーーー!!!」

 なんでそんな話になってしまったんだ。頭を抱えて思わず叫んだ。

 この日以来、冒険者の間でブラッディオーガと呼ばれるようになったことを自分は知らなかった。

 その呼び名を知らない人でも、『頭のいかれた金髪エルフ』で誰もが認識できたらしい・・・。


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