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気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第一章 辺境の街

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ギルマスとの会議

 尾根にあるいつもの休憩ポイントに戻ってきた。

 全員が息を切らしていた。

 モーガンは咳き込むと、大量の血を吐いて倒れ込んだ。

「あ、こりゃやべーな」

 金属鎧が背中の部分で盛大にひん曲がっている。

 スティーブが彼を仰向けにしてキズポを準備する。

「おい!こいつだけでも飲んでおけ」

 口にポーション瓶を当てると、かろうじて一口だけ飲み込んでいた。色からするとハイポーションだ。

 しかし、その後も咳き込んで血を吐いていた。

「ああ、背中が当たって痛い。鎧を脱がせてくれ」

 モーガンの変形した金属鎧は脱がせるのも一苦労だった。

「コレ、最後まで飲んどけ」

 スティーブが残ったハイポーションの瓶をモーガンに渡す。

「リューさんも飲んだ方がいいですよ。出血がひどいです」

 アーサーにポーション瓶を渡された。

 言われてみれば、右の首元が濡れているような気がする。こすった手を見て見ると、べっとりと血がついていた。

「うわっ!」

「こめかみの上辺りと、あと頬にも傷がありそうです」

 痺れていて気が付かなかった。多分、ルイスの剣が折れた時だと思う。

 自分のポーションを使おうかと思ったが、渡されたポーションは既に封が切られていたので遠慮無く使わせて貰うことにした。

 自分では見えないので、半分傷口にかけてもらい、残りを飲み干す。

 その後、魔法で水を出しながら顔を洗った。患部と思われる場所は痛く無かったので治ったようだ。新品のヒドラ革が初日に血まみれだよ。服の中がヌルヌルして気持ちが悪い。頭部の怪我は血が出るからね。

「ここは大丈夫なんですか?」

 だいぶ気が緩んでいるようなのでアーサーに聞いてみる。

「あいつらは、高い木の生えているところを縄張りにしている。だからこの程度の高さの木が、しかも(まば)らにしか生えていないところには追ってもこない」

 それを聞いて少し安心した。

「モーガンさん。かばっていただいてありがとうございました」

 やっと落ち着いたモーガンにお礼を言っておく。

「いや、礼を言うのは俺たちの方だ。なあ」

 モーガンはアーサーに話を振る。

「ああ、そうだ。最初は全滅も覚悟していた」

 アーサーは暗い表情で言う。

「えっ!?」

「それだけやっかいな相手なんだよ」

 ここで、話し好きなスティーブが話に入ってきた。

「弓だと、あれだけ高所にいられたら威力が減衰するし、やつら攻撃を見てから木に隠れる事ができるから、なかなか当てられるものじゃない。魔法も威力こそ変わらないが、当てられないのは同じだ」

「じゃ、どうするんですか?」

「遠距離攻撃持ち二人以上で、おなじ目標を挟み撃ちにするとか。魔法なら範囲攻撃で隠れている木ごと燃やすとかという手もある」

「やりようはあるんですね」

「それにしたって、あいつらの石を防ぐ盾持ちが必須なんだよ。それも複数。四方八方から飛んでくるからさ。頭の後はどうしても視認できないからな。だから今回この程度の被害で逃げ切れたのは奇跡的だよ。ありがとう!命の恩人だ」

 スティーブに両手を握られた。その手には力が入っていた。

「それにしても、あんな魔物が出るなら、なんで盾一人しか持ってきていないんですか」

 責めるつもりは無いが、当然の疑問をぶつけてみる。

「それは本当に申し訳ないんだが、あいつらこの辺に居るような魔物じゃ無いんだ」

「もっともっと山の奥に居るんだよ」

「あいつら、挑発したって縄張りの外に出てこない。移動するなんて聞いたいこともない」

「縄張りに近づきさえしなければ、遭遇するはずのない魔物なんだよ」

 アーサーとスティーブが交互に説明してくれた後、口をつぐんだ。

「あれはハグレじゃない。群れ一つ分いたな」

「ああ、森の奥で何かあったのかもしれない」

 物騒な話を始めたアーサーとスティーブ。これはいよいよ冒険者の辞め時かもしれないな。

「魔力草の採集は、どうするんですか?」

「無理だ。失敗扱いになるかもしれないけど。どうしようもない」

「回り道して行くとか」

「可能だけど、それだと今日は確実に野宿になる。野営の準備は何もしてきていないし、壊れた装備もある。危険すぎるよ。今回の依頼でそこまでのリスクを背負う必要は無いね」

 最後にスティーブが自嘲気味(じちょうぎみ)の笑顔で言った。

「オークでも狩って、さっさと帰って報告だな」


 冒険者ギルドに戻ってきたのは昼前だった。

「なんだ。やけに帰りが早いじゃないか。何かあったのか?」

 ギルバートが声をかけてきた。

「ああ。ここで話していいかい?」

「・・・」

 アーサーの返事でしばらく考え込むギルバート。

「奥に来てくれ」

 真面目な表情になったギルバートは初めて見た。

「じゃ、報告よろしくお願いします」

 アーサーに声をかけて帰ろうとしたのだが。

「全員だ」

 ギルバートににらまれた。

 オークの分け前をもらって早く帰ろうと思っていたのだが、ダメらしい。

 アーサーに視線を移したら肩をすくめていた。仕方ない。


 別室に通され、アーサーが説明を始める。

 ギルド側の参加者は、ギルバート、ヘクター、そしてギルド長のオズワルド。オズワルドは古強者といった感じの見た目だ。元冒険者かもしれない。

 報告を聞いてヘクターとオズワルドが話し始めた。

「なるほど、群れですか。となると、追い払っても行く当てが無ければ、また戻ってきそうですね」

「となると殲滅(せんめつ)するしかないな。しかし、依頼を出して受けるヤツがいるか?」

「この街に居るBランクパーティ単独でロックレインモンキーの討伐は無理ですね。Aランクならいけると思いますが、殲滅するとなるとやはり複数集める必要があります」

「そういえば、明日は腕相撲大会じゃないか。ちょうどいい。またフォレストワースからAランク冒険者が来ているかもしれない。おい、ギルバート。護衛依頼票を確認してAランクが来ていないか調べて来い」

「はい」

 ギルバートがまじめに返事をして部屋を出ていく。面白いものを見た。

「しかし、前回は領主代行様から苦情がありましたから、フォレストワースのギルドでは高ランカーが移動しないようにお願いしているはずです」

「なにぃ」

 難しい顔をしていたオズワルドが不意にこっちを見た。

「おっ、そういえば見た顔だなと思ったら、おまえ腕相撲協会の会長じゃねぇか」

「あ、はい。ども」

 オズワルドの眼力が鋭いので、蛇ににらまれたカエルのように縮こまってしまった。

「本当なのか?」

「そうですね。今回は、レベルに制限を設けて普通の冒険者が参加できないようにしてあります」

「はぁ、余計なことを」

 いや、そんなこと言われても自分のせいじゃないと言いたい。

「仕方ない。今回は強制依頼にするか。人数多い方が安全だしな。ヘクター、逃げ出すやつがいないように門の出入りを規制しろ。Cランク以上は外に出すな。それと、盾だな。ギルドの保管分では足りないだろうから、兵士の装備を借りられないか交渉してきてくれ。暁は討伐後、ロックレインモンキー本来の縄張りまで調査に行ってもらいたい。あの辺までなら、行ったことあるだろ」

「そうですね」

 アーサーが代表して答える。

「その調査依頼は報酬をたんまり用意しておくから、今回の件の補填にしてくれ。それと、帰りに魔力草を取ってきてもらえれば、そちらも依頼達成という事にする」

「ありがとうございます」

「準備もあるだろうから、出発は明日だ」

「えっ、明日」

 思わず声が出てしまった。

「なんだ。なにかあるのか?」

 オズワルドに凄まれた。

「いえ、腕相撲大会が・・・」

 最悪、冒険者が居なくても大会は開催できるが、司会のスティーブはなかなか替えが効かない。

「そんなこと知るか。中止にすればいいだろ」

「えー・・・、そもそもAランクを呼んで安全に討伐してもらえばいいじゃないですか。緊急というわけでもないのなら」

 暁の依頼という事になると、遠距離攻撃枠として呼ばれてしまう可能性が高い。調査依頼なんて、かっこいい名前だが、何が起こっているのか分からないから見て来いって事だし、それ一番危険なヤツ。全力で拒否したい。

「Aランクを呼ぶと、金がかかるんだよ。奴らが一日にどれだけ稼ぐと思っている。移動にかかる時間とかも含めて、それ以上の報酬を用意しないと誰も受けてくれないんだよ。それに猿共に逃げられたらどうする?また戻ってきたら今日みたいな目に合うのはお前らだからな」

「うっ」

 それは確かに勘弁してほしい。

 でも危ない所へは行きたくない。

 どうにかして行かなくて済む理由を考えていたら、いいことを思い出した。

「強制依頼って確かCランク以上ですよね」

「はぁ?だからどうした」

「よかったぁ。じゃ、Dランクは対象外じゃん」

「こいつ何言っているんだ?暁だったらBだろ」

 オズワルドは、ヘクターに尋ねる。

「そういえば、リューさんはDランクでした」

「おいおい、何寝ぼけたことを言っているんだ。ロックレインモンキーを仕留められるほどの腕利きが、Dの訳ないだろ」

「それなんですが、冒険者登録してからまだ一月経っていないんですよ。暁とは魔力草採集時の臨時パーティです」

 ヘクターさん、ナイスアシストです。

「という事なので、もう帰ってもいいでしょうか?」

「ちょっと、待て。まだ話は終わっていない」

 オズワルドに睨まれた。

「ギルマスの権限でCランクにしろ」

「無理ですよ。先週上げたばかりですし。実績が何もありません」

 オズワルドの無茶振りをヘクターはあっさり却下した。

「この一週間でなにもやっていないわけないだろ」

「切り株抜きやってました」

 そこは話に割り込むように正直に言う。

「はぁ?」

「「「えっ!?」」」

 アーサー達も驚いている。そういえば、そんな話はしていなかった。

「ちょっと調べてきますね」

 ヘクターさんが飛び出していく。

「あの塩漬け依頼をか」

「そうです。誰もやらない切り株抜きです」

「なんでそんな依頼をやっているんだ」

「そりゃ、危険なお仕事はしたくないので。森の中は危ないじゃないですか」

「どんな腰抜けだよ。おまえ本当に冒険者か?」

「冒険者は、お金のために仕方なくやっているだけです。他に仕事があれば今すぐ辞めてもいいんです。というか、今ここで辞めてもいいくらいです」

 お仕事はいろいろ見つけたので、冒険者でお金を稼ぐ必要はもう無い。

「ちょっと、待て。はやまるな」

 オズワルドは、額に指を当てて下を向いている。ちょっと面白くなってきた。

 そこに、ヘクターが帰ってきた。

「切り株抜きしかやっていないですね。後は、アイアンイーグルというEランクパーティと共同でゴブリン数匹の討伐です」

「マチルダを(ひね)る力もあるってのに、なんでそんな依頼を受けているんだ・・・」

 なんか、独り言のようにつぶやいていたので、これは返事をしなくていい場面?

「おまえ、何者だ。何しにこの街に来た」

 急に、オズワルドのトーンが低くなる。

「ただのエルフですが」

「そんなの見りゃ分かる」

「森の中で一人暮らしをしていたんですけど、危ないから街に出てきただけです」

 またこのパターン?

「どこの森だ」

「分からないですよ。ずっと森にいたんですから地名なんて」

「・・・」

「まあまあ、ギルマスも、そんな事より明日の対策をしましょう」

 ヘクターさん、ナイスです。

「だがよ。おかしいだろうが。こいつが、森の中でなにか仕掛けてきたんじゃないのか?」

 そんなめちゃくちゃな嫌疑はかけないでほしい。

「じゃ、余計に明日、私は行かない方がいいですよね」

「まあまあ、リューさんも少し落ち着いて」

 アーサーがたまらず止めに入る。

「そうですよ。ギルマスもよく考えてください。暁の皆さんは今日、帰ってこれなくなっていたかもしれないんですよ」

 ヘクターも止めに入った。

 そうだ。モーガンの凹んだ鎧と、歪んだ盾しか見ていないからそんな事が平気で言えるんだ。ここは、派手にパフォーマンスしてうやむやのうちに帰らせてもらおう。

 ヘクターとオズワルドが口論しているのを横目に、鎧を脱ぎ始めた。革の服を脱ぎ、そして買ったばかりのヒドラ側のシャツをテーブルの上に脱ぎ捨てた。

 ビシャっと血がテーブルに飛び散る。

 みんなの視線を一身に受けた。

 あっ、やば。そういえば今日は暑くなりそうだからと鎧下を着ていなかった。貧相な胸だが一応手で隠す。

「失礼します」

 そこに、ちょうど女性職員がお茶を持って部屋に入ってきた。

 ガチャン。

 上半身血だらけの私の体を見てトレーを取り落とす。

「し、失礼しました!」

 全員が固まっていた中、モーガンが静かにコートを肩から掛けてくれた。いつもならスティーブの役回りのような気もするが、今日は体を張って守っても貰ったし、モーガンの株が爆上がりだな。

「早くシャワーを浴びたいんですが、帰っていいですかね」

 その時、シャツを脱ぐときにこすれた部分、鼻、頬、耳、顎、にも血がついてかなりホラーな見た目だったらしい。鮮血もいいが、乾き始めたどす黒い血も効果抜群だ。

「あ、あぁ」

 オズワルドはそれ以上何も言わなかった。


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