死線
今日は3回目の魔力草の採集だ。
尾根にあるいつもの休憩ポイントで休憩中。
「今日は、オークが多かったですね」
それらをうまくやり過ごしてきたが、そのため行程的には少し遅れ気味だ。
「まあ、そういう事もある」
アーサーの返事は落ち着いていたので、特に危機感は感じなかった。
「最近、ゴブリンが増えているようなんですよ」
「ゴブリンはたまに大繁殖するからな。そういう時は近づかないことだ。甘く見て数の暴力でやられた奴らを何人も知っている。僕らくらいになれば問題ないけどね」
自信たっぷりのアーサー。
「こう言っている奴らが死ぬんだ。いい見本だろ」
からかうスティーブ。
ひと時の穏やかな時間が流れていた。
尾根から沢へ降りていくと、背の高い木々に囲まれ始める。
降りていくといっても、山腹を横に移動しているだけで実際の高低差は無い。
しかし、何かがおかしい。
ピリピリとした張り詰めた空気を感じる。
索敵要員として少し前を歩いていたが、速度を落とした。
魔力感知に引っかかるものは無い。
「静かですね」
暁のメンバーが追いついてきたところで話しかけた。
「ああ、鳥の鳴き声すらない」
確かに、全くしない。
何気なく上を見上げると、はるか上空の木々の陰に動くものが見えたような気がした。体の芯から冷えたように感じ身震いした。まさかね。
魔物を呼び寄せしまうとか迷っている暇はない。索敵魔法を全方位に飛ばす。すると反応があった。
「木の上!半分包囲されています!!!」
100mほど距離を開けて何者かに包囲されていた。その数20以上。今、歩いてきた方向はまだ包囲されていない。
「逃げるぞ!」
アーサーの決断は早かった。
その声に合わせて後ろを振り向こうとしたとき、目の前に石が飛んできた。とてつもない剛速球。躱し切れない。手で防ぐのは間に合いそうだが、大怪我は免れない。無意識に身体強化を発動したのか、その刹那の時間が長く感じた。
ガギン!
そこにはモーガンのハンマーがあった。それにあたった石は砕けて飛び散る。
モーガンは体と手を懸命に伸ばしたまま私の方へ飛んでいた。そのまま目の前に着地するとこちらを振り返った。そして、後ろから守るように抱きしめられ、頭も押さえつけられる。
ガン、ガン、ガン、ガン!
モーガンの背中に背負った大きな盾に石が当たる音が響く。
第一波と思われる投石攻撃をしのぎ切ると、モーガンは素早く立ち上がりながら私を解放し、ハンマーを持った手で軽く背中を押してくれた。その口にはすでにキズポが咥えれられている。
他のメンバーは既に尾根に向かって駆け出していた。
ついさっきまで先頭にいた自分は、パーティが反転した瞬間に最後尾となる。しかし、モーガンが飛び出してくれたおかげで、殿はモーガンとなっていた。
ソフトボール大ほどもある石は、掠めただけでもただでは済まないレベルの速度で投げ下ろされてくる。この辺一帯は背の高い木が密集していて、敵は20メートル以上の高さに陣取っていた。反撃手段はこの弓しかない。
「ロックレインモンキーだ!リューを狙っている!」
遠距離攻撃持ちを真っ先につぶしに来るとは、敵は頭がいいらしい。
しかし、どうしたらいい。半包囲された状況で反撃ができるのか?弓を構えた瞬間に四方八方から石が飛んでくるだろう。
「モーガン!守れるか!」
「やってやる!」
索敵魔法によると包囲の網も移動している。これが自分たちの移動速度より速ければ包囲が完成するし、こっちが速ければ逃げ切れる。
視界の端に木々の間を飛び移って移動するサル型の影が見えた。肩幅は人間より一回り大きい。片手に石を持っているように見える。そうだ、木の上にいるんだから石だって無限に投げられるわけじゃない。
とりあえず前にいる敵を減らすことができれば包囲は完成しない。背中の矢筒から矢を取り出し、つがえる。しかし、まだ狙わない。
「うしろ頼みます!」
「ああ、任せろ!」
矢をつがえてから2秒。魔法の準備が整った後、速度重視、弓を引きながら構えを作る。ろくに狙いもせず、前方の木に飛び移ろうとしている奴に矢を放つ。しかし、ホーミングは外さない。
距離的にも高低差的にも油断していた敵は、枝を掴む直前に矢を受けたため手を滑らし、錐もみ状態で落下した。
ガガン!
左から、盾に石が当たる音がした。
ドギン!
「ぐっ!」
後から、すこしくぐもった音と金属音。
耳のすぐそばから、止めていた息が漏れる声がした。
覆いかぶさるような体制のモーガン。その体に石が当たったに違いないが、しかし、倒れ込んでは来ない。
「大丈夫ですか!」
モーガンは厳しい表情で、何かを言おうとしたようだが声が出なかった。代わりに体を押される。そして、前を指差していた。これは早く行けという事だと理解して走り続ける。
先ほど落下したサルが、2度3度とバウンドして斜面を転がり落ちてきた。そこにルイスが確実に致命傷となるような一太刀をすれ違いざまに入れる。
そのサルを飛び越えていく自分とモーガン。
「「「ギャギャギャ!」」」
複数のサルの叫び声がこだまする。なんらかの意思疎通のようだが分からない。
すぐさま2射目の準備に入る。先ほどは、前方左のサルを落としたので、今度は右側、谷側から包囲して来ようとしている先頭のサルを狙う。
狙われたサルは、こちらをしっかりと警戒していたようで、次の木に飛び移ろうとはせず、木の後ろに体を隠す。
それでも構わず射撃。
少し外れた軌道を取っていた矢は急激に曲がり、木に隠れたサルの肩に突き刺さった。
しかし、サルは落下せず。代わりに石が数個落ちてきた。
ガガン!ギン!
左から飛んできた石をモーガンの盾が受け、右から飛んできた石をルイスが剣で受ける。
「痛っ!」
砕けて飛び散った石が右頬をたたく。
谷に体半分飛び出していたルイスはモーガンの差し出したハンマーにつかまり、引っ張ってもらいながらぐるりと回って最後尾の位置に着地した。
「「「ギャギャギャ!」」」
また複数のサルの叫び声が聞こえてきた。
ルイスとモーガンの連携に感心している暇はない。今度は後ろを狙いたいが、どうすればいいのか。
矢をつがえた状態で少し勢いをつけ、前方に飛び上がりながら横回転。回転中に矢を射る。はっきり言って狙っている時間は無い。放った後にホーミングで誘導する。
矢が飛んで行った方向にいたサルが素早く身を隠したが、隣の木にいたサルは石を投げようと振りかぶっていた。あまいっ。
ホーミングにより曲がった矢は、石を投げようとしていたサルに突き刺さる。
そのサルも落ちそうになったが、しっぽで枝を掴み落下を免れていた。
今回、飛んできた石は1つ。モーガンが盾ではじく。自分はギリギリまで後ろを見たまま誘導していたので、着地で少しバランスを崩した。その間にルイスが脇をすり抜け追い越していく。
「「「ギャギャギャ!」」」
「すまん!剣が折れた!代わってくれ!」
4本目の矢をつがえながら、前を走るルイスの手元を見ると剣の半分から先が無くなっていた。
「わかった!」
すぐにアーサーが立ち止まり振り返った。すると剣を下段に構える。
「モーガン!」
アーサーの脇をすり抜けるタイミングだった。
ガン!キン!
石が盾にあたる音に加えて金属音が聞こえた。
え、この音は、石切ったの?
確認したくて軽く振り返った。
アーサーは剣を振りぬいていた。しかし気になったのは、サルたちの隠れるような動き。
どうやら先ほどまでの攻撃で、サルたちもかなり自分の視線を警戒しているようだ。
これなら包囲から脱出できるかもしれない。
それから、数回振り向いてみたが、回数を重ねるごとに隠れるサルが減っていく。
なので、今度は矢を構えながら、3射目と同じように一回転ジャンプする。
手前のサルたちは木に隠れたが、少し遠くを移動していたサルの跳躍が目に入った。あいつは距離的に油断しているな。2匹目に射たサルとの距離よりかなり遠い。だが距離があると、いくら風のエンチャントで速度が上がっていても、矢が飛んでいる時間が長くなる。回転ジャンプしているので最後まで誘導するのが難しい。後ろ向きでジャンプして、回転せず後ろ向きで着地する?それはさすがに転びそう。3射目も危なかった。
考えた末、向きを絞った索敵魔法でターゲットのサルを確認してみる。位置的にはかなり正確に把握できている。
よし、索敵魔法で矢を誘導してみよう。
また矢を構えながら、一回転ジャンプする。遠くの油断しているサルは、また次の木に向かって飛んだ。矢を放ち途中まで目視で誘導。その後、着地してからは索敵魔法で確認した位置に誘導する。すると放った矢はサルに命中したらしく、枝に激突して落下していく。ちらりと後ろを振り向くと、心臓辺りに突き刺さっているように見えた。
「「「ギャギャギャ!」」」
「よし、全力で逃げるぞ!」
アーサーの掛け声で走るペースが一気に上がった。
サル達を引き離しにかかる。
自分も加速する。木々の間を駆け抜けるのは慣れている。飛ぶように走ると、先頭を走るスティーブをいとも簡単に追い越した。
「「「ギャギャギャ!」」」
叫び声の距離感から分かる。サル達も全力で追いかけ始めた。
なので、先頭にいて余裕のある自分が、もう一回矢を構えながら一回転ジャンプする。
すると全てのサルが木に隠れた。矢を放つ必要はもう無い。
ここで稼いだ数秒で、安全圏に脱出することができたのだった。
いよいよ、この章のクライマックスに向けて
怒涛(?)の戦闘パートが始まります。




