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気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第一章 辺境の街

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宙返り

「リュー様、次が出番となりますので、この試合が終わりましたら速やかに壇上までお願いいたします」

 そこにはアナベラがいた。今日もまじめに働いている。特に仕事をお願いしたわけでもないけれど、任せておくとスムーズに事が運ぶのでこちらから口を出すことは無い。細かいことは任せておけばいいのだ。自分はレイモンドさんと大まかな方針やアイデアを出すだけで。

 次に自分の対戦相手にも同じように声をかけに行ったようだけど、セクハラが心配でアナベラさんの行動を見ていた。混雑したテーブルの間をスルリスルリと器用に抜けていく。

 すると、いやらしい目つきの冒険者の前を通った時、背後から伸びてきた手をノールックで払いのけていた。すごいスキルだ。大丈夫そうだね。自分にもできるようになるだろうか?

 そして前の試合が終わった。

 今回の大会はレベルが高い。

 全員が前回優勝者と同じような雰囲気がある。いや、雰囲気というか、オーラというべきか、魔力放射なのか。

「じゃ、行ってくる」

 VIP席を立ち壇上に向かう。


「赤コーナー、前回大会準決勝進出、この細腕のどこにそんなパワーがあるのか。数多くのにわかギャンブラーを破産に追い込んだ超大穴、リュー!」

 軽く手を振ると大きな歓声が沸き起こる。

「青コーナー、この辺では知らぬ者はいないトップランカー、スーパーノバのチームリーダー、ルーカス!」

 さわやかな笑顔でルーカスが手を上げると黄色い声援も数多く上がる。

 女子が騒ぐ理由もわかる。顔も体形も収入も文句無しの最優良物件だ。性格は分からないけど、外面はいい。年齢は30歳くらいに見える。

 とりあえず、いつものパフォーマンスをしておくか。

 さっきまで座っていたVIP席を振り向こうとしたら、すぐ近くにアナベラさんがジョッキを持って待機していた。なんとまぁ、気が利くことで。

 この場合のエール代は経費だろうかと余計なことを考えつつ、アナベラさんから受け取ったジョッキを高々と上げてから一気に飲み干す。

 しかし、飲んでいる途中に気が付いた。

 今日は強炭酸だった!

 ぐっとこらえて飲み干した。

 やばかった!

 口の周りについた泡を腕で拭う。

 すると次の瞬間には強烈なゲップが出そうになる。

 それを必死でこらえて、音が出ないようにうまく鼻から空気を抜いた。

 が、鼻がツーンとして涙目になる。

 もう最悪だ。

 でも大丈夫。ちゃんと盛り上がっている。

 次はオッズの確認だ。

 しかし、とんでもない倍率で顔が引きつる。

「この試合は、本日の最高倍率となっています。前回大会はこの高倍率を跳ねのけて勝ち上がったリュー選手ですが、さすがに今日はクジ運が悪かったかしれません」

 まあ、今回の大会で勝ち上がるのは流石に無理ゲーだと思う。

 しかし、秘策はあるのだよ。

 カウンターを見ると受付の一人が合図をしてきた。分かっているね。ホーミングの魔法を発動し金貨を親指で弾く。その金貨は奇麗な放物線を描いて飛んでいき、開いて待っている受付の手の中に収まるかに思えた。

「わんっ」

 見知らぬ酔っぱらいの男が犬の真似をして金貨を加えた。

 一瞬、静まり返った会場だったが、男は加えた金貨をきれいに袖で拭い、いやそうな顔をした受付に手渡してお辞儀(じぎ)する。すると会場がまた一気に沸いた。

 お調子者の高レベル冒険者なのだろう。

 みんな無駄に運動能力が高い。

 ま、盛り上がったからいいけど。

「みなさん投票はもうお済みですか?では、締め切ります。両者、組み合ってください」

 腰を落としてルーカスと手を組む。

「こんな細腕で大丈夫か?」

 ルーカスはどうやら本気で心配しているようだ。

「前回、マチルダさんを倒しましたよ。マチルダさん知ってますか?」

「ああ、知ってるさ。全く信じられないが、そういうことなら手加減は必要なさそうだ」

「はい。でも準備があるので、ちょっと待ってもらっていいですか?」

「ん?・・・ああ」

 スティーブにも目配せして待ってもらう。

 さて、今回は最初から奥の手を使う。

 自分の欠点は単位時間当たりの魔力放出量が少ない事だ。だから身体強化魔法の出力も2倍程度で頭打ち。なので、あらかじめ魔力を絞り出しておく事にした。

 身体強化魔法を発動させずに体表近くに魔力を滞留させる。

 するとその尋常じゃない魔力を感じたのか、ルーカスが焦り始めた。

「おい、何をやっているんだ?」

 魔力が霧散しないようコントロールに集中していた自分は、握った拳を見つめながら、返事をせずに左の人差し指を唇に当てる。

 そのうちに体全体がうっすらと光り始めた。

 おっとまずい。

 すぐに魔力の放出をやめたが、限界に達したのかコントロールから魔力が離れていくのがなんとなく分かる。

 会場の雰囲気が変わり、ざわつきだした。

 限界に達する前にやめる予定だったが仕方がない。

 なにせ練習不足だし。

 視線を上げルーカスを見る。

 平静を装っているようにみえるが、笑顔が多少引きつっている。

 視線を横にずらしスティーブを見て軽くうなずいた。

「えー、準備が整ったようです。では、レディ・・・ゴー!」

 ここで、硬化魔法を発動させる。右の手先から肩までの表面だけに。

 身体強化は溜めに溜めた魔力で頑張っても4倍程度、急に練習してもすぐに結果を出せないのは仕方ない。そしておそらくその程度では勝てない。

 覚えたての硬化魔法だが身体強化より効率がいい。

 なので最初の少しの間、相手の全力を硬化魔法でしのぎ、攻め疲れたところを見計らい硬化魔法を解いて全力の身体強化で押し切る作戦だった。

 一昨日、昨日と、硬化魔法の解除も練習したし。

 ところが相手の強さは自分の想像の遥か上だった。

 意味不明なことに視界に腕相撲台が迫る。

 足が滑り、肘を支点にして体が浮き上がったのは感覚でわかった。

 その瞬間、負けを確信する。

 急いで硬化魔法を解除したが多少のタイムラグはある。

 そのため解除が間に合わず腰が跳ね上がっていた。

 滑る左手。全く抑えが効かない。

 あれ、これはどうなってしまうのか。

 全てがスローモーションに感じる。

 握られている右手は頭の上に達し、先ほどまで背中の方にいたはずの人々が上下逆さまになって見えてきた。

 みんな目を見開いている。

 そして、ついには天井が見えてくる。

 自分は腕相撲台の上で前方宙返りをしているらしい。

 まあ、なんてはしたない。

 こんな注目を集めている中で宙返りなんて、そして、運悪くスカートをはいている。パンツが見えてしまうかもしれない。ミニならアウトだが膝下まであるのでなんとかなっていると思いたい。

 それにしても天井が高くて良かった。

 足を少し折りたためば、天井をぶち抜かずにすみそうだ。

 不思議と自分は冷静だった。

 右手が頭の上を超えて背中に回り始めた。

 これ、このままだと肩が壊れるなと思ったら。

 ルーカスが手を放してくれた。

 そして・・・。

 気が付くとルーカスの腕に抱かれていた。お姫様抱っこというヤツだ。

 吐息が感じられそうな距離にある目の前のイケメンフェイス。それは、少し困り顔だった。

「・・・大丈夫か?」

 凍り付いた会場に響いた第一声はルーカスのものだった。

 そして時は動き出す。

「勝者、ルーカス!」

 スティーブの宣言で徐々に会場は喧騒を取り戻していく。

「すみません。受け止めてもらってありがとうございます」

「ああ、まぁ、なんというか・・・やっぱり軽いな」

 その言葉を聞いてから、なぜか急に顔が熱くなった。

 赤面症にでもなってしまったのか。とても恥ずかしい。

「あ、あの、降ろしてください・・・」

 言葉がうまく出てこない。とても小さな声になってしまう。

 違う違う、これは断じて違~う。

 何かやってくれそうなムーブからの、あっさり負けたものだから恥ずかしいだけ。

 イケメンにあてられたからでは無いのだと断言しておこう。

 くっ、気をつけねば。心が肉体に引きずられてしまうのは本当かもしれん。

「ま、そう言わずに、せっかくだからもう少し付き合えよ」

 ルーカスは軽い荷物でも扱うかのように、ひょいとリューを右肩に担ぎ直した。

 そして左手を高々と掲げ観客に笑顔を振りまいていく。

 もうどんな顔をしたらいいのか分からなかった。


 フラフラしながら席に戻るとサラが話しかけてきた。

「大丈夫ですか?」

 目をつぶり(うつむ)いたまま席に座った。

「はぁ、疲れた・・・」

 しかし、あのパフォーマンスからの瞬殺。ド派手な負け方ってないよな。

 恥ずかしい。

 料理の皿を少しどけてテーブルに突っ伏す。そして少し心を落ち着かせる。

 よし、いい方に考えるんだ。男性恐怖症は完全に克服したと思っていいだろう。

 すると、鼻腔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。

 自分の試合前には無かった匂い。

 顔を上げる。サラが注文していた美味しいお店のお高い料理がテーブルに並んでいるのを期待して。

 そして、固まる。

 お皿はあれども全て空。

「あれ?おいしい料理は?」

 すると三人とも視線をそらした。

 嘘でしょう。

「え、まさかみんな食べちゃったとか?」

 しばらく視線で牽制し合っていた三人だが、結局、代表としてサラが口を開いた。

「ごめんなさい。あの・・・その・・・あまりにもおいしくて。つい・・・」

 これがアーサーやモーガンの言葉なら許さなかったかもしれないがサラでは仕方ない。なんとなくそういう気になってしまう。

「じゃ、追加で注文しようかな」

 すると、サラの表情がさらに曇った。

「あ、あの・・・売り切れてしまったそうです・・・」

「え?」

 はっきりと聞こえていたのに思わず聞き返してしまった。

「すみません!すみません!」

 必死で謝るサラ。

 ああ、今日はなんて日だ。

 魂が抜けていくような虚脱感に襲われた。

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