いじめダメ絶対
しばらくして子供達は満足したようだった。
「すごい。ほとんど食べちゃった。ありがとう」
美味しそうに食べてくれて作ったかいがあったというもの。
「これ、残ったのも、もらってもいいかな」
大きい方の子供が、おそるおそるといった感じで聞いてきた。まだ数人分はありそうだった。
「いいけど、でも入れ物どうしようかな・・・」
お皿も余分なものは買っていないし。
「今から、お皿持ってくるよ」
小さい子が今にも走り出しそうだった。
往復どれだけ待たされるのか分からないし、君達、仕事中だよね。
住んでいる所まで持って行くかな。スラムだと思うけど一応聞いてみることにした。
「待って、おうちは何処?」
「あっちの方」
小さい子供は指を差す。
・・・まあいい。
「うんち捨てる場所は?」
「あっちの方」
小さい子供は同じ方向を指差す。
「近いのかな?」
大きな子の目を見て聞いてみる。
「うんまあ。北門の方。川の近く」
「じゃ、途中まで一緒に行こうか」
スラムだったら足を踏み入れない。が、汚物捨て場は確認しておきたい。
子供たちが汲み取り作業している間に家に戻り、夜用に取っておいた分も鍋に追加した。喜んで食べてくれるようだし。
汚物を3つのバケツに入れ終えた子供たちはレイラに声をかけ、依頼が終わった確認にサインを貰っていた。
そして、裏路地を子供達と歩く。
先頭は一番大きな子。肩に担いだ棒の両端にバケツを吊り下げて歩いている。
次に小さな子二人で棒を担ぎ、真ん中にバケツを吊り下げている。
うまく考えたものだ。これなら汚物が飛び跳ねても体にはかかりにくい。
通りかかる人々は大げさによけていく。
自分も適正距離を保ちながら子供達と話しながら歩く。
子供達は他にドブさらいや大通りの馬糞の掃除といった仕事もしているらしい。
不人気な仕事は料金が高めなのだとか。大きな子が言っていた。彼が他にも何人かいる子供達のまとめ役らしい。年を聞いたらマリー達とあまり変わらなかった。
小さな子は足が遅い。先頭を歩く大きな子は、たまに振り返って遅れた二人を待っていたりした。
ちょうど十字路で大きな子が立ち止まっていた時、交差する通りを歩いてきた男がバケツを蹴った。汚物が少し飛び散る。
「おい!てめえこんなところで立ち止まってんじゃねぇよ!てめえのせいで服が汚れちまったじゃねーか!どうしてくれんだよ!」
男が大声でまくし立てる。
「そうだ!そうだ!」
絡んできた男には取り巻きが一人いた。
こんな子供に難癖付けて、どうせ小遣い程度の金を巻き上げようという魂胆なのだろう。一生懸命まじめに働いている子供になんてことをするんだ。
最初は大声にビビったが、だんだんと腹が立ってきた。
怖い人たちには腕相撲大会で慣れた。
それより本気で殺しにかかってくるオークの方がよっぽど怖い。でかいし、パワーは人間の比じゃないし。
鍋を置いて男に近づく。
「ちょっと。あんたのおかげで、しぶきがかかったんだけど、どうしてくれるの」
「ああ!?なんだてめえは!」
「あんたがバケツを蹴ったから、服が汚れたって言ってるんだよ!」
大声に一緒んひるんだ男だったが、一見ガリガリでひ弱そうな女と見るやすぐに高圧的な態度に戻る。
「なんだその言いがかりは。なめんじゃねぇぞ、くそあまぁ」
男は右手で胸倉を掴んできた。今日は鎧を着ていない。自分で買った安物の中古服だ。破られたらたまらないし引っ張られただけで胸元がはだけてしまうかもしれない。下着もブラも付けていないんだよーーー。
「言いがかりはそっちでしょ」
つかんできた男の手をさらに掴み返す。左手でがっしり掴むと男の顔色が少し変わった。
「放せやゴラァ」
持ち上げたり引っ張ったりしようとしたが、それをさせない。
「あんたが先に放しなさいよ」
「んだと!」
男は反対の手で顔を殴ろうとしてきたが、これは右手でがっしり掴む。身体強化は発動中だ。
膠着状態に陥った。
そのとき男の取り巻きが何かに気が付いた。
「あ、まさか。あんた、白枝オーガ!」
誰だよそれ。なんだその二つ名は。少しイラっとした。少しだけ。
「だとしたら何」
拳を掴んでいる方の手に力を込める。
ボキボキボキ!
男の拳がつぶれていい音がした。
「ギャー!」
いや、骨が折れた音じゃなくて関節が鳴った音だし。大げさに叫ばないでほしい。このくらい男だったらよくやるでしょ。無駄に凄むときとか。
それでも胸倉を掴んだ手を放さないようなので拳の方を捻り上げてみた。
「あだだだだ!」
騒がしい男だ。
そこまでしてやっと手を放したので、こっちも両手を解放する。
「くぅー」
男は涙目になりながら睨んできた。
「あにき、こいつ、腕相撲でマチルダをやったヤツですぜ!」
「うっせーな、黙れ!」
男は腹いせに取り巻きを殴る。もちろん右手で。
可哀そうに・・・。
「調子こいてんじゃねーぞ。覚えてやがれ」
男はあっさりと逃げ出した。
「あっ」
迷惑料としていくらか請求してやろうと思ったのにその前に逃げられた。
走って追いかければすぐに捕まえられそうだったが、そこまですることもないと思いとどまる。
あっさり相手が引いたのは腕相撲大会に出場して名前を売ったおかげかも。
「こんなことはよくあるの?」
呆然と立ち尽くしていた男の子に話しかけてみた。
「うん、たまに」
すると、曲がり角に隠れて見ていた小さな子が駆け寄ってきた。
「おばちゃん強いね!」
満面の笑みだ。ま、それはいいんだが、40歳はおばちゃんだから・・・。いいんだけど、心にとげが刺さるのだ。
「君たちはあんな大人にならないでね」
造り笑顔で頭を撫でる。おっと、髪が汚れていて撫でにくかった。
「うん。僕も強くなる」
北門を出てそのまま壁沿いに川まで行くと、渡し船の船着き場より少し下流に、川とは隔てられた淀みのようなところがあった。上流から流れ込む水路と、下流に流れ出す水路がある。流れ出す水路には網があり大きな固形物が流れていかないようになっていた。
その淀みに汚物を捨てると糞魚が大挙して押し寄せ水しぶきを上げる。さすがにこれを見ていたらこの魚を食べる気にならない理由が分かった。
子供たちは少し上流に行き、流れ込む水路に設けられたスペースで桶を洗う。ここは糞魚が入ってこないように網で仕切られていた。棒と桶は冒険者ギルドからの借りものなので報告と一緒にこれから返しに行くらしい。
そこに台車を引いたサラがやってきた。
「あ、リューさんこんにちは」
「こんにちは」
「どうしたんですか?こんなところで」
「ゴミ捨て場の確認だけ。そういうサラは?」
「これは、ギルドの解体で出た生ゴミです」
台車には複数の樽の中に血生臭いものが入っているようだ。蓋がしてあるから直接は見えない。
そんな重そうな樽を軽々と持ち上げ中身を捨てるサラ。こりゃ力も強くなるわ。
帰り道、子供達の後をついていこうとしたところでサラに止められる。
「ここの先は危ないから行かない方がいいですよ。特にリューさんみたいな方は。どうしてもという時は完全武装で。何人か連れて」
まだこの辺は平気かなと思ったのだが、ここから先はダメらしい。仕方が無いので、というより自分も行く気は無いので、北門の広場で子供達を待つことにした。
待つ間にいろいろと話をする。
人糞も肥料にするけれど、この街周辺には畑が少ないのでほとんどは捨てられているらしい。魔物の肉も肥料に使えないか研究している人もいるらしいが、今は全て廃棄処分。それらを糞魚は骨まで食べてくれるとのこと。怖いね。
子供達が器を手に戻って来たので、それにゴブリン煮込みを入れてあげた。
よし!無駄にならなかった!
サラも最初は気になっていたようだが臭いを嗅いで顔をしかめた。そしてゴブリンと聞いて青ざめた。サラに聞いてみてもゴブリンの肉に毒があるという話は聞いたことが無いそう。ま、純粋に臭いからみんな食べないだけなのだろう。いや、見た目もあるか。
そこからまた子供達が戻るのを待ち、バケツも台車に乗せ、みんなで押してギルドに帰った。




