防御魔法
帰り道、市場に寄るとネギのような野菜と生姜のような野菜があったので香りを確認してから購入した。これは間違いない。
帰ったら早速ゴブリン煮込みに生姜とネギを投入。器によそってから、さらにきざみネギをまぶす。
そして一口。うん、これならいける。贅沢を言うならば味噌か醬油が欲しいところだが、そんなものは売っていない。そもそも調味料というものが売っていない。
ゴブリン煮込みをおいしく・・・とまではいかないが、慣れれば気にならない。
午後は暇だったのでお隣さんの扉をたたいた。
レイラの調子は悪くないようで今日はリビングで話している。
「ヒドラ革ですか。そうですね~、値段的には悪くないと思いますよ。お隣のフォレストワースが主な産地なので、王都だと2倍くらいの値段になるかと」
「そんなに値段が違うんだ」
「ヒドラ革はきれいな部類の革なので、貴族にも人気らしいですよ。光の加減によって、鱗が虹色に輝くので、装飾の一部として使われたりするようです」
「へー、詳しいんですね」
「はい、大分儲けさせて貰いましたから。うふふっ」
レイラは上品に笑う。
「そうか、儲かるのか~」
「どうですか、暁に入りませんか?」
「いや、それはちょっと。たまにでいいなら、ちょっと考えますけど」
「よしっ。言質を取りました」
「いやいやいや、考えるだけだから」
「うふふっ。それだけでも一歩前進です。私が復帰したら一度は一緒にお願いしてもいいですか?」
「そうだね。一度くらいはね」
「約束ですよ」
「まあ、そのくらいは約束してもいいかな」
「やった」
レイラに手を取られた。両手でぎゅっと握られる。
おおう。自分の手が柔らかな感触に包まれる。腕相撲大会に出場するような女性の手とは別物だな。男だったらもう惚れてしまいそうだ。
「でも、いい買い物しましたね。軽くてしなやかな素材としては、トップクラスだと思いますよ。それに魔力の通りもいいですし」
「お店の人も言っていたけど、その魔力を通しやすいと何がいいの?」
自動修復効果が気になって店の人に質問するのを忘れていた事をここで聞いてみる。
するとレイラはきょとんとした表情でしばらくこちらを見ていた。
「ああ、魔物素材って初めてですか?」
「うん、そうだね」
「魔力を通しやすいと、魔法の効果も高くなるんです。例えば、防御魔法とか。魔力を通しやすいと、同じ防御魔法でも効果が高くなります」
「防御魔法!それ、是非教えて!」
商業ギルドで借りた魔道具のような防御魔法が使えたら最高じゃないか。安心感が違う。
「ああ、そうですね。防御魔法にもいろいろと種類があるのですが、防具にお勧めなのは、魔方陣です」
「魔方陣?」
「はい。インナーに防御魔法の魔方陣を刺繍して貰うと、体から漏れ出る魔力で常時防御魔法が発動し、防具の性能が上がります。そして、咄嗟の時でも魔方陣に魔力を込めるだけで瞬間的に防具を強化できます。魔力を通しにくい防具だと、魔法の効果は魔方陣の表面にある部分だけになってしまうのです」
「え、インナー買わないとダメなの?」
また、お金がかかってしまうとか・・・。
「大丈夫ですよ。この方法は魔法が使えない人でも効果があるので、冒険者でやっている人が多いと言うことです。冒険者は魔石が簡単に手に入るので、その魔力を使って常時防御魔法を発動させている人もいます。そして、リューさんにお勧めなのは、身体強化魔法です」
「え、それって防御力が上がるの?」
「身体強化魔法の中で、強靱さという項目がありましたよね」
「ああ、確かに」
「身体強化魔法を防具も含めて発動するようにすると、防具の強靱さが増します」
「なるほど」
「魔力を通しやすい素材だと、それが簡単にできるのです。魔力を通しやすい剣なら折れにくくなります」
「おお、なるほど。なるほど」
「防具に素早さとか不要なので、慣れれば防具には強靱さだけ発動させて魔力消費を節約することもできます」
「なかなか、奥深いですね」
「はい。でも、そこまで制御できる人は少ないですけどね」
「そうなんだ」
こんな話を聞いてしまうと全身魔物素材の防具にしたくなってくる。ああ、コートとか早まったかな。
「それで、防御魔法なんですけど、こんな感じです。ア○π&%△@ιQ、シールド」
何を言ったのかさっぱり分からないが、目の前の空間に何らかの魔力の塊が出現したことが分かった。
レイラが腕を伸ばした。何もないところで何かに触れている。まるでパントマイム。手首をひねり手の甲で軽くたたく。すると、コンコンと音がした。
「へー」
自分でも触ってみる。そこには壁のようなものがあるようだった。硬質でものすごく滑らか。
「今出したのは、1mくらいの円形です」
手を滑らせると左右50cm位の所までの大きさだという事が分かった。若干丸みを帯びていて中心辺りが膨らんでいる。
「タワーシールドのように長方形にしたり、完全に球形で全周を覆ったりすることもできます」
「結構融通が利くんだね」
「はい。強度を変えたりもできます」
今、シールドはテーブルの上に半円があるように展開されている。
「これテーブルの下は?」
「はい。あります」
テーブルの下に手を伸ばしてみると下半分があった。
「へー。障害物に関係なく出せるんだね」
「難しい話をしますと、特定範囲内の物質を移動しないようにしています。特に対象は指定していないので、空気もテーブルも水でもシールドになります」
「へー、いいねそれ。呪文教えて。さっき早口で聞き取れなかった」
「あー、すみません。学園だと2秒以内の発動が及第点なんですよ。だからみんな早口なんです。ではゆっくりいきますね。ア○π&%△@ιQ、シールド」
ゆっくり発音して貰ったがよく聞き取れない。仕方がないので聞こえたままに発音してみる。
「ア◎π~」
「あの~、もしかしてですが、魔法語って知ってますよね」
「魔法語?何それ?」
「えーとですね。賢者様が創られたと言われている高速言語です。呪文を長々と唱えていると隙が多くなるので学園ではほぼ魔法語しか教えていません。魔法語からとなるとちょっと大変ですね」
「えー。シールドの呪文だけじゃダメ?」
「意味を理解した上で魔力を乗せてきちんと発音しないといけないんです」
「すぐには無理かぁ~」
明日使えるかと思ったのに残念だ。
「リューさんは、感覚派ですね。そういえば、前に光源魔法を使った時も無詠唱でしたね」
前にマリーとこの部屋に来た時、鏡を見て興奮して光源魔法を使ったな。
「感覚派って?」
「魔法剣士に多いのですが、要するに無詠唱で魔法を使う人達ですね。無詠唱だと複雑な魔法は難しいのですが、発動速度は早いですし、相手に何の魔法を使うのか悟られないという点でも優秀です」
まあ確かに大体発動まで1秒くらいの感覚なので・・・、早いのか?
「身体強化、反応速度アップ、そして無詠唱。はいこれ、最強魔法剣士の3点セットです。学園に入ったら無双できますよ」
『キタ――(゜∀゜)――!!俺TUEEE展開!』とか言ってたかもしれないけど。
若ければ。
もう40だよ。
安全、安心、安定が3点セットでほしいのよ。
小学校の頃にサッカー少年団入ったよ。
しかし、怪我ばかりして気が付いたら底辺だったよ。
体を動かすのは向いていないと悟ったんだ。
あれ、でもこのエルフの体だと、どうなん?
エレーナは運動神経良さそうだけど。
怪我したらポーションで一発だし・・・。
・・・。
「・・・いえ、そういうのは結構です」
「あれ?脈ありですか?今かなり考えていましたよね?」
レイラさんが笑顔になり、声のトーンも上がり、テンションが急上昇しているようだ。まずい、また変なスイッチが入ってしまったかもしれない。
「リューさん、やっぱり魔法学園です!魔法騎士科に行かないと人生が勿体ないですよ!」
ああ、俺のスキルではこの子の暴走を止めることはできそうにない。
しばらくしてレイラさんが落ち着いてきてから話を元に戻す。
「え、防御魔法?ああ、そんな話でしたね」
「感覚派が使うヤツ教えて。無詠唱の」
「んー、魔法騎士の人は、防御は基本的に防具を使います。後は、魔道具ですね」
「どちらもお高いんですよね」
「その通りです。で、無詠唱なのですが・・・」
「そう、その無詠唱」
「使う人もいるので、できないことは無いのですが、難しいそうです」
「ふむふむ」
難しくてもいいや。今、魔法がマイブームなので頑張れる気がする。
「まずは、防御魔法の基本から説明しますと、私がさっき使ったシールドは、特定の範囲内のものすべての相互位置関係を変えないようにする魔法、要するに空気も含めて固めたようなものです。それと、固めただけでは地面に落っこちてしまうので、その場所、というか空中に固定する魔法の2種類の魔法を同時に展開しています」
「ふむふむ」
「で、無詠唱ですが、2種類を同時に使用するのは難しいので、片方という事になります。空中に固定する魔法は、それ一つでも攻撃を防ぐことができるのですが、弱いです。特に一点突破の槍のようなものに。そして、固める魔法だと落っこちてしまうので、地面までを含めて固めます。こちらはまあ、範囲が広い分、魔力を多く使います」
「そうかぁ。どっちがいいと思う?」
「どっちもどっちですね。因みに、魔道具に多いのですが、空中に固定するのではなくて、魔道具との相対位置で固定する場合もあります。移動できるので要人警護によく使われます」
「あそれ、たぶん使ったことある。でも使ったら、空中に浮いた」
「え、空中に・・・、なんでしょう。魔道具はもっと高機能で、範囲内の空気だけを固めたり、空気を圧縮して強度を上げたりできるのですが・・・。どのくらいの大きさでした?」
「鞄くらい」
「あー、おそらく、かなりの高級品ですね。もしかして、魔力込めすぎたとか・・・」
「そうね。光っていたからそうなのかも」
「あぁ~。光るのは、制御しきれない魔力が散っていく途中で、一部が光に変換されるからだといわれています。魔力込めすぎです。多分、空気と地面の境目の判定があいまいになって空気圧で浮いてしまったとか・・・かな?専門分野ではないのでわかりませんが。光りだしたら限界を超えているので気を付けた方がいいですよ」
「そ、そうなのね」
ヤバい!もしかして、高級な魔道具を壊していたのかも。レイモンドさんからは何も言われていないが・・・。
冷や汗が出てきた。
「それで、自分の腕と一緒に固めて相対位置固定のように使う方法もあるのですが、攻撃を受けた時の衝撃がもろに伝わってくるので、関節を脱臼したりするそうです。学園にも一人やっていた人がいたのですが、その人は、装着している手甲と一緒に固めていましたね。お金が無くて魔力量が豊富だったからそうです。メリットはあったそうで、軽くて取り回しがしやすくて、形を変えられたそうです。たまにその不可視の盾で殴ったりとか・・・」
「そうなんだ」
「部分的に自分の体の一部を固める方法もあるのですが、前後の関節は動かなくなりますし、皮膚だけ固めたら衝撃でその皮膚がはがれたという話もあるそうです。でも腕が切り落とされるよりはましですから、緊急時にはありですけど、常用はしないほうが良いそうです」
ここでも自分の体を対象に魔法をかけるのは、危ないという事だね。
「緊急時ね。まぁ、それはそれで使えそうだね。というかそれでいいと思う。練習しておこう。で、どうやるの?」
「すみません。私は詠唱魔法しか使わないので・・・」
「あ、そっか・・・」




