意外に儲かる会長職
「みんな、よくやってくれた。大会は大成功だ。では、アナベラ、頼む」
「はい。今回、売り上げは・・・」
商業ギルドの制服をビシッと着こなしたアナベラさんから会計報告が始まる。
収入、支出、利益、そしてその分配について。
そして来週にも第二回大会を開くことが決まった。
打ち合せ後、アナベラさんからギルド二階の個室に案内される。
部屋はそれほど大きくはないものの、大きな執務机と、小さな机が幾つか、来客用のテーブル、ソファーセット、書類棚などが備え付けられていた。
「ここが、正式に発足した腕相撲協会の本部となります」
「へーっ、すごいですね」
新品では無いが質の良さそうな家具を取り揃えているあたりに商業ギルドの本気度がうかがえる。
「私が会計を担当いたします」
「よろしくお願いします。ところで、本当に私なんかが会長でいいのでしょうか?」
お酒の席での勢いで始めた事が、なんだか大事になってしまって逆に怖い。
「大会で実績を積まれましたし、全く問題ありませんよ。あのマチルダさんに勝ったのですから。何か言ってくる人がいたら、その腕っぷしで教育を施せばよいのです」
「それはちょっと・・・」
アナベラさんもなかなかに体育会系思考の持ち主のようだ。
「ところで、こんな立派な事務所まで用意して貰ったのですが、何をすればいいのでしょうか?」
「大会を盛り上げる何か・・・でしょうか」
「はぁ」
「さしあたっては、予算の使い道を考えてください」
「ええと、いくらくらいでしょうか?」
「ギルドからいくらでも借り入れできるので上限は無いのですが、今大会の収益で協会に割り振られた金額は、今までの経費を引いて8000Crくらいです」
「8000・・・」
80万円かよ。一週間でこれだとすると、年間だと・・・恐ろしいな。
「会長の取り分はどうしますか?」
「どうしますかと言われても、どのくらいにしたらいいのでしょうか?」
全く相場というものがわからない。
「4000Crくらいにしておきますか?」
「えっ、そんなに貰ってしまっていいんですか?」
「正式な会員もいない状態ですし、口外しなければ、私とレイモンドくらいしか協会の会計は人目に触れないことになりますのでどうとでも」
無表情だったアナベラさんの口角が少し上がった。おおお、なにやら悪い笑顔を見てしまったような・・・。もしかして腕相撲協会はレイモンドさんとアナベラさんの秘密のお財布と化すのでは?この法外な取り分は口止め料だったりして。まさかね。
「これは、一週間分ですよね」
「はい、6日後にはこれ以上の収益が見込まれます。昨日の時点で次回参加の申し込みが30名以上ありましたので」
例えば一週間で40万円貰えるとすると、年間で2000万円か。これもう働かなくてもいいんじゃない?
しかし、物珍しさから最初は盛り上がるかもしれないが、そのうちマンネリ化してしまうと下火になっていく可能性はおおいにある。今のうちにガッツリと儲けてしまおうか。
「私の取り分は1000Crくらいにして、優勝賞金を3000Crにするというのはどうでしょうか?」
「えっ!それほど高額な賞金は不要かと思いますが」
暁との飲み会で聞いた話によると、最前線フォレストワースは外壁も未完成で、娯楽などは一切無いという。高ランクの冒険者たちは日々稼いだお金を高額な武装の購入に充てるくらいしか使っておらず、大部分は貯め込んでいるらしい。
「フォレストワースの冒険者が何人かでも参加してくれるようになれば、一般人とは比べ物にならないくらいのお金が動くのではないかと」
「・・・。一考に値しますね」
アナベラさんは何やら頭の中で計算しているようだ。右手を口元に当て、うつむいたまま動かない。
「それと、この協会も正式なものになったのなら、会員を募集しますか。大会参加者と、ポピーナに設置してある腕相撲台の使用は、会員のみという事にして、入会金と年会費を徴収しましょう」
別の収入元を用意しておけば大会が無くなっても協会は維持できる。
アナベラさんは視線をこちらに向けた。
「・・・。腕相撲台の使用に関してだけは、明日の会議でローラ様と話し合う必要がありますが、その方向でよいと思います。他にも何かありますか?」
何かと言われてパッと思い浮かんだのが昨日の表彰式だ。優勝賞金は微々たるものだし、お金なんていくら手渡ししても袋に入っていたら見た目では何が入っているのか分からない。
「表彰式でお金を渡すだけだと味気ないので、記念品としてトロフィーも贈ろうかと思います」
「いいですね。でも間に合いますか?」
「それは、明日相談してきます」
「では、発注もしてきてください。明日は会議の前に、ここで少し打ち合わせをお願いいたします」




